第十七話
人目を引きながら歩くことにも、もう半ば慣れてしまっていた。
街道を行き交う者たちの視線は隠そうともせず、遠慮もない。珍しいものを見る好奇の目と、無意識に距離を測る警戒とが混ざり合って、二人へと向けられていた。
それでも歩みを止める理由にはならない。
やがて、街の関門が見えてくる。
石造りの門。その両脇に立つ門兵たちは、行き交う人々を手慣れた様子で捌いていた。太陽はすでに高く、影は短い。
ミアは足を止め、首元からペンダントを取り出す。
交差した二本の剣――草薙の紋章。
これを見せれば、身分の証明になる。そう思っていた。
「お嬢ちゃん、草薙の商人かい?」
門兵のひとりが気さくに声をかけてくる。
「いいえ、違います」
あっさりと否定する。
「ふーん、じゃあ傭兵?」
「いいえ、えーと……」
言葉に詰まる。
その一瞬、隣へと視線が流れる。
ユエリー。
何も言わない。だが、こちらを見るでもなく、ただ任せるという圧だけが静かに存在している。
逃げ場はない。
「あー……旅芸人?……です」
自分でも少し苦しいと思いながら、なんとか言葉を絞り出す。
一拍。
そして――
「ハハッ!」
門兵が大きく笑った。
「そりゃーいいや、娯楽も必要だよな!」
疑う気配はない。
むしろ歓迎するような声音だ。
「広場でなんかやってくれや。後で見に行くぜ。頑張れよ!」
快活に手を振る。
それで通行は終わりだった。
あまりにもあっさりと。
「……通れたね」
ミアが小さく呟く。
ユエリーは短く頷いた。
門をくぐる。
その瞬間、空気が変わる。
風が、街の中を巡っている。
建物の合間を抜け、通りを駆け、上空へと抜けていく流れがはっきりと感じられる。自然の風というより、意図的に通されている風だ。
視界が開ける。
そこに広がっていたのは、いくつもの巨大な風車群だった。
羽根がゆっくりと、しかし確実に回転している。軋むような音とともに、都市全体が風と連動しているかのような光景。
さらに奥。
細い路地を抜けた先に、ひときわ大きな構造物がそびえている。
塔のように高く伸びた、巨大な風車。
その根元には広場が広がり、人々の気配が集まっている。
「……風の都、エアリアル」
ミアは小さくその名を口にする。
風がレース越しに頬を撫でた。
この街は、生きている。
風とともに。
そして――
「広場でなんかやってくれ、か」
ぽつりと呟く。
自分で言った旅芸人という言葉が、じわじわと現実味を帯びてくる。
ミアは少しだけ考えてから、ふっと笑った。
「……やるしかないか」
視線を上げる。
風が強く吹いた。
まるで、この街そのものが応えるように。




