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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第二章

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第十六話

ユエリーの腕の中で目を覚ます、いつもの朝。


薄く差し込む光の中で、ほんの少し身動ぐだけで、抱き寄せていた腕がわずかに緩み、同時にユエリーも静かに目を開ける。


「ん、おはよ」


まだ眠気の残る声でミアが呟くと、返事の代わりに小さく息が落ちる。


それで十分だった。


寝台を抜け出し、外へ出る。朝の空気はひんやりとしていて、昨夜よりも少しだけ風が穏やかだ。小川の水面は静かに光を反射し、近づけばさらさらとした音が耳に心地よい。


手で水をすくい、顔を洗う。

冷たさが一気に意識を引き上げる。


――ここは庵じゃない。


その事実だけが、ほんの少しだけ新鮮だった。

戻る場所はある。けれど、今は違う場所にいる。

それだけで、世界の輪郭が少し変わる。


簡素な朝餉。


昨日の煮込みを温め直し、パンを軽く焼くだけ。それでも火を通した食事は身体を確かに満たし、動くための力になる。


食べ終えれば、無駄はない。


テントは一瞬で畳まれ、痕跡すら残さず消える。


「行こっか」


短く告げて、歩き出す。

草原を抜け、三刻ほど。


やがて足元の感触が変わる。柔らかな土から、硬く整えられた石の道へ。


舗装された街道。


人の手が入った証。


遠くに点のように見えていた人影が、少しずつ形を持ち始める。荷を引く者、徒歩で行き交う者、商人らしき姿も混じる。


世界が人の領域へと切り替わっていく。


その中で、ミアはふと視線を感じた。

ちらり、ちらりと向けられる目。

最初はローブのせいかと思う。白一色の装いは確かに目立つ。


だが違う。

視線の向きが、少し高い。

そして、長い。


ミアは横を見た。

隣を歩く男。


白銀の長髪が風に流れ、整いすぎた顔立ちに、左右で異なる宝石のような瞳。無駄のない身体の動きは、ただ歩いているだけで周囲と明確に隔絶している。


――目立たないわけがない。

むしろ、これで注目されない方がおかしい。


ミアは小さく息をついて、ほんの少しだけ肩をすくめた。


「……ユエリー」


呼びかける声は小さい。


「もうちょっと、こう……普通にできない?」


無茶な注文であることは分かっている。

けれど言わずにはいられない。


ユエリーは一瞬だけ視線を落とし、それから前を向いたまま答える。


「している」


短い。

だが本気だ。

その普通の基準が、根本的に違うだけで。


ミアは一拍置いてから、くすっと笑った。

仕方ない。

この旅は、こういうものなのだ。

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