第十五話
「脱がぬのか?」
寝台の端に腰を下ろしたユエリーが、わずかに眉を寄せて問う。
「うん、脱がない。このままで寝る」
ミアはあっさりと言い切って、さっさと潜り込む。白い布がふわりと広がり、そのまま身体を包み込んだ。
「そのままでは窮屈ではないか?」
納得がいかないままの声音。
「そういうものでしょ」
取り付く島もない返答だった。
結局そのまま、寝床に入る前の攻防はミアの勝利で終わる。
貞操死守旅装束のまま、何の躊躇いもなく寝台に収まった彼女を見て、ユエリーは小さく息を吐いた。
憮然とした表情のまま、しかし離れるという選択肢は最初からない。
仕方なく――という体裁で、その隣へ滑り込む。
そして自然な動作で腕を回し、そのまま抱き寄せた。
拒まれない距離。拒ませない力。
「主よ、寒くはないか?」
低く落とした声が、すぐそばで響く。
「ん、平気だよ」
簡単な返事。
それだけで十分だと知っていながら、なお言葉を探すように、わずかに間が空く。
「……さみしくは?」
続いた問いは、ほんの少しだけ本音に近い。
ミアはくすりと笑った。
「ふふ、大丈夫。ありがとうね」
そのまま、そっと手を伸ばす。
ユエリーの頭に触れ、ゆっくりと撫でる。
まるで逆の立場のような仕草。
柔らかな指先が髪をすくい、一定のリズムで繰り返される。
火の温もりと、包まれる感覚と、その単調な動きが重なって、意識が少しずつほどけていく。
呼吸が深くなり、やがて規則正しく整う。
ミアはそのまま、眠りへと落ちていった。
腕の中で、完全に力を預けている小さな身体。
ユエリーはしばらく、そのまま動かなかった。
起こさぬように、逃がさぬように、抱く力だけをわずかに調整する。
静かな時間。
やがて、ぽつりと。
誰にも届かないほど小さな声で、言葉が零れる。
「……待たねば」
それは決意であり、抑制でもあった。
抱きしめる腕に、わずかに力がこもる。
だがそれ以上は、踏み越えない。
ただ、今は――
その温もりを確かめるだけで、十分だった。




