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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第二章

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第十四話

薪ストーブの上で、小さな鍋がことことと音を立てていた。


火は強すぎず弱すぎず、ゆっくりと食材の旨味を引き出していく。立ちのぼる湯気に、香りがほのかに混じり、閉じられた空間の中に穏やかな温度を満たしていた。


ミアはその様子を確かめながら、もう一方の手で頁をめくる。


――時の聖典。


視線を落とすたびに、文字が浮かび上がり、この世界の今が静かに流れ込んでくる。誰かがどこかで動き、何かが起きている。その断片を拾い集め、頭の中で組み立てていく。


やがて、ぼんやりとしていた輪郭が、少しずつ形を持ちはじめた。


「……この先に、小さな街があるみたい」


顔を上げる。


「まずはそこに行って、通貨を得よう」


生活基盤を整える。それが最優先だ。


情報だけでは生きていけない。この世界で存在するためには、相応の形が必要になる。


「私たちの身分だけど――」


言いながら、首元に手を伸ばす。


取り出したのは、小さなペンダント。


交差する二本の剣を象った意匠。


「ニチカがくれた草薙の紋章が、保証してくれそうだよ」


軽く掲げるようにして見せる。


それはただの装飾品ではない。草薙商会の名を背負う証。


商人でありながら、戦場すら渡り歩くあの男の影響力を、この界でも通用するか確かめてみよう。


「まったく、ニチカ様様ね?」


くすりと笑う。


その声音には、感謝と呆れが程よく混ざっている。


だが――ユエリーは面白くなさそうだった。


表情は大きく変わらない。けれど、ほんのわずかに視線が逸れる。


火の揺らぎを見つめるようでいて、実際には別の何かを見ている。


ニチカの名が出るたびに生まれる、言葉にしない違和感。


それを否定することも、誤魔化すこともしない。ただ、そのまま受け止めている。


ミアはそんな様子に気づきながらも、あえて深く触れない。


代わりに、鍋の中を軽くかき混ぜた。

ぐつり、と音がする。


「ほら、もうすぐできるよ」


何気ない言葉。

けれど、それで十分だった。


外は風の吹く草原。内は温かな火と食事。

その境界に立ちながら、ミアは次の一歩を見据えていた。


まずは街へ。

そこから、すべてが始まる。

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