第十三話
ミアのテントは、もはやテントという言葉で括っていい代物ではなかった。
理由は単純だ。ニチカが、徹底的にこだわったからである。
防護魔法と防水処理――それだけでも通常なら過剰と言える装備だが、彼にとっては最低限に過ぎなかった。そこにさらに空間拡張の術式を重ね、外見からは想像もつかないほど内部容量を押し広げる。
組み上がるのは、ただの寝床ではない。
足を踏み入れた瞬間、草原の気配は切り離され、別の空間へと移行する。床は安定した板張り、簡素ながらも質の良い家具が整然と配置され、片隅には小型の薪ストーブまで据えられている。火を入れれば、内部はすぐに適温へと保たれる設計だ。
そして、奥には広い寝台。
野営とは思えない余裕のあるサイズで、身体を横たえれば、草の上にいることなど忘れてしまいそうになる。
――移動式コテージ。
その表現が、最も正確だった。
「……やり過ぎだよね、これ」
ミアはぽつりと呟く。
外から見れば、ただの白い布のテント。けれど一歩中に入れば、この有様。
その落差が、少し可笑しい。
しかも厄介なことに、この構造体は設営という概念すら曖昧だった。
魔力を流し、展開を許可するだけで、空間が一気に組み上がる。骨組みも布も、家具すらも、まるで最初からそこにあったかのように現れる。
設置にかかる時間は、ほんの一瞬。
労力という意味では、野営ですらない。
ユエリーは内部を一通り見渡し、わずかに眉をひそめた。
安全性に問題はない。むしろ過剰なほどに守られている。
だが――
「……囲い込みが露骨だな」
低く、ぼそりと呟く。
誰に聞かせるでもない言葉。
守るため、という名目のもとに、あらゆる不便と危険を排除し、外界との接触すら緩やかに断つ構造。
そこに込められた意図を、読み取れないほど鈍くはない。
ミアは苦笑する。
「まあ、ニチカらしいよね」
過剰で、極端で、でも実用性だけはきっちり担保されている。
それが彼のやり方だった。
薪に火を入れストーブに手をかざしながら、ミアはふっと息をつく。
外は広大な草原。風が吹き、未知が広がっている。
その中にぽつんと置かれた、小さな完全な空間。
守られている安心と、外へ踏み出す高揚が、胸の中で静かに同居していた。




