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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第二章

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第十二話

「主よ、少し先に小川がある。水の純度も問題なさそうだ」


草を踏み分ける音とともに、ユエリーが戻ってくる。風に揺れる草の海の向こうから現れたその姿は、まるで最初からそこに在ったかのように静かで、けれど確実に周囲の空気を引き締めた。


ミアは顔を上げ、小さく頷く。


手元の聖典を閉じると、浮かんでいた文字がすっと霧のように消え、ただの本の姿へと戻った。その一連の動作にも、もう迷いはない。


「よし、じゃあまずは小川の近くに拠点を作ろう」


立ち上がると、草がさやりと鳴る。


視線を少し遠くへ向ける。ユエリーが見つけた小川の方向――わずかに地面が沈み、草の色が濃くなっているあたりに、確かに水の気配がある。


「見たところ、野獣もいないし……精霊も微精霊しかいないみたいだね」


レース越しの視界の中で、空気の揺らぎを読み取る。


ここにいるのは、まだ意思を持つには至らない、ごく淡い存在たち。光の粒のように漂い、風に溶けるように消えていく。害はない。けれど、力もまた小さい。


「風の気配は強いけれどね」


頬を撫でる風が、少しだけ強まる。


一定ではない流れ。時折、遠くから押し寄せるように吹き抜けるそれは、この土地に何かしらの偏りがあることを示していた。


ユエリーはその風を受けながら、無言で周囲を見渡す。


警戒は解かない。


危険がないと判断しても、それは今この瞬間に限った話だ。空も、地も、風も、すべてを観測し続ける。


ミアはそんな背をちらりと見て、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「じゃあ、行こっか」


軽く言って、小川の方へ歩き出す。


草をかき分けるたびに、微精霊たちがふわりと舞い上がる。触れれば消えてしまいそうな儚い光。それでも確かにそこに在る、小さな命の気配。


その中を進みながら、ミアは思う。


ここから始めればいい。


この小さな存在たちが、やがて人の祈りを受け取り、形を持ち、力となる日が来るのだとしたら――


その最初の一歩を、今ここで。


風が、またひとつ強く吹いた。

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