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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第二章

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第十一話

見渡す限りの草野原だった。


空はどこまでも高く、雲はゆるやかに流れている。足元では、名も知らぬ野花が風に揺れ、色とりどりの小さな命が波のように連なっていた。踏みしめるたびに草がさやりと音を立て、世界が静かに呼吸しているのが分かる。


その中心に、二人は降り立っていた。


「転移は成功したみたいね。ユエリー、転移酔いは無さそう?」


ミアは周囲を見渡しながら、振り返る。初めての二人だけでの転移。術式は完璧だったが、同行者への影響までは完全に測りきれない。


ユエリーは短く頷いた。


それだけで十分だと言わんばかりに、静かに歩み寄り、そのままミアのフードへと手を伸ばす。


白いローブの縁を軽く整える仕草。


顔を覆うレースがずれていないか、風でめくれていないかを確かめるように、ほんのわずかに指先で撫でる。その動きは自然で、何度も繰り返してきた習慣のようでもあった。


問題ない、という無言の返答。

ミアは小さく頷き返すと、再び視線を広げた。


「それにしても……だだっ広いなあー」


ぽつりと漏れる感想は、どこか楽しげだ。

遮るものが何もない。人の気配も、建物の影もない。

ただ風と草と空だけがある世界。


「ユエリー、水場がありそうなら探してくれる?」


軽く言いながらも、その中身はしっかりと現実的だった。


「暫くは時の聖典を読んで、この界の情報を知りたいの」


未知の土地。


まず必要なのは、生きるための基盤。


水の確保、地形の把握、通貨の流通、勢力図――老師から叩き込まれた知識が、頭の中で静かに整理されていく。


ユエリーは再び頷くと、周囲に視線を巡らせた。

風の流れ。草の揺れ方。遠くにわずかに沈む地形の起伏。


人の目では見落とすような微細な違いを拾い上げ、最も水の気配が濃い方向を選び取る。


そして、ミアが目に入る範囲での探索を開始した。

ミアはその背を確認すると、草の上に腰を下ろした。


柔らかな地面。風が頬を撫で、レース越しの光が淡く揺れる。


胸元から一冊の本を取り出す。


――時の聖典。


静かに頁を開くと、文字がゆらりと浮かび上がった。


この世界で、今、何が起きているのか。


それは、ミアがまだ知らないこの界のほんの少し前の真実。


息を整え、意識をそこへ沈めていく。

新しい旅が、ようやく始まった。

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