第九話
「よし。――これで顔も隠れるね」
ニチカは手際よくローブを広げ、そのままミアの肩へとそっと掛けた。布は空気を含むように軽やかに落ち、音もなく全身を包み込む。仕上げに、顔周りへと薄いレースを垂らす。
繊細に編まれたそれは、外からの視線を柔らかく遮断しながらも、内側からの視界は驚くほど澄んでいる。まるで霞を一枚隔てたような感覚だけを残して、世界はそのまま見える。
ミアは軽く首を動かし、視界を確かめた。違和感はほとんどない。呼吸も、動きも、妨げられることはない。
「……ほんとだ」
小さく呟く声が、レースの向こうでわずかにくぐもる。
ニチカは一歩引き、全体を眺めるようにして目を細めた。
白で統一された装い。
無垢でありながら、どこか触れがたい。柔らかく光を弾きながら、決して本質を覗かせない。
その姿は、まさに白き魔女という名に相応しい完成度を帯びていた。
飾り立てているわけではない。むしろ削ぎ落としている。
それでもなお、際立ってしまう存在感。
隠しているはずなのに、こうして彼女を見つめる仲間の目には、その美しさも装いとひとつに調和して映っていた。
「うん、いい」
満足げに頷く。
作り手としての手応えと、それ以上にこれなら守れるという確信が、その一言に滲んでいた。
ユエリーは腕を組んだまま、その様子をじっと見ている。
覆われた顔。隠された気配。
守るための工夫であることは理解している。だが同時に、外界から切り離されるようなその装いに、どこか引っかかるものもある。
ナギは肩をすくめた。
「……もうこれ、誰だかわかんねえな」
率直な感想だった。
だが、それでいいのだろう。
誰にも気づかれず、誰にも触れられず、それでいて確かにそこに在る。
ミアはそっと自分の袖を見下ろし、次にレース越しの世界へと視線を向けた。
柔らかく、少しだけ遠くなった景色。
これから踏み出す旅路を、そのまま象徴しているようにも思えた。




