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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第二章

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第七話

次の日の朝、まだ空気に夜の名残が薄く漂っている頃合いだった。


庵の戸口が、ひょいと軽い気配で開く。


「良かった、間に合った」


聞き慣れた声とともに現れたのは、場違いなほどに重厚な姿だった。


黒い甲冑をまとったままのニチカ。


本来なら戦場か式典にでも立っているべき装いのまま、何の気負いもなく日常の中へ踏み込んでくる。その違和感すら、もはやこの庵では誰も指摘しない。


次の瞬間には、その長身がぐっと折り曲がり、視界いっぱいに影が落ちる。


そして、そのまま――抱きしめられた。


強く、遠慮なく。


硬質な金属の感触が、柔らかな身体に容赦なく食い込む。


「痛いよニチカ」


抗議の声を上げるが、当の本人にはまるで届いていない。むしろ腕の力はわずかに強まった気さえする。


「……あー、こんな可愛い子を旅に出すなんてやるせないよ」


低く落とされた声は、冗談めいているのに、その実どこか本気だ。


「今からでも僕の宮殿に入りなよ。ね、不自由させないよ?」


さらりと口にする内容が、まったくさらりとしていない。


この数年で、ニチカの立場は大きく変わった。


草薙商会の総帥として名実ともに認められ、拠点として与えられた宮殿を持つ身となった。富も、人脈も、力も、すべてを手に入れた男。


その周囲には自然と人が集まり、献上される者も少なくない。結果として、彼のもとにはいわゆる囲われた人が存在しているという話も、遠からず耳に入ってくる。


けれど――


「嫌だよ、虐められそう」


ミアの返答は、いつも通りあっさりしていた。


「大丈夫、理解あるひとしかいないから」


即座に返されるフォロー。


だがその言葉も、説得力があるようでいて、どこか的を外している。


「それでも嫌」


ぴしゃりと断る。


間を置かない、迷いのない拒絶。

そのやり取りに、特別な緊張はない。

何百回と繰り返してきた応酬。


提案しては断られ、断られてはなお食い下がる。その流れすら、もはやひとつの様式美のように定着している。


ニチカはようやく腕の力を緩め、名残惜しそうに手を離した。


その視線は、以前よりもずっと真っ直ぐで、ずっと隠しがない。


「……そっか」


軽く笑う。


だが、その奥にある感情までは誤魔化せていない。


手に入るものはすべて掴んできた男が、唯一思い通りにならないものを前にしている。


それでも引き下がらないのは、執着か、意地か、それとも――


ミアはそれを深く追わない。


ただ、いつも通りの距離で、いつも通りに立っている。


それが今は、一番自然な形だった。

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