第六話
「ところでさ、ユエリー。私ももう十二歳じゃない?一緒に寝るのおかしくない?」
夜着に着替え、灯りを落としたあとの静かな室内。見慣れたはずのキングサイズの寝台が、今夜ばかりは妙に広く、そして妙に意識させる存在として横たわっている。今夜でこの光景とも別れるのだと思うと、なおさら輪郭がはっきりしてしまう。
ミアは枕元に腰を下ろし、ためらいを含んだ声でそう切り出した。
「少しもおかしくない。番と眠るのは当然だ」
間を置かず返ってきたのは、揺るぎない断言だった。
あまりにも迷いがなく、あまりにも当然のように言い切るものだから、逆に言葉を失う。それは主従としての理屈でもなければ、護衛としての判断でもない。
ただの――個人的な主張。
七年。
その間、一度たりとも引き下がらなかった領域。
「ビジュアル的にもうおかしいんだよなあ、犯罪臭ぷんぷんだぞ」
横からナギが呆れたように口を挟む。軽口のようでいて、的を射ているのが余計に厄介だった。
ユエリーは一瞬だけ視線を向けるが、特に反論はしない。その代わり、淡々と別の理由を並べ始める。
「私はあの小僧に鍛えられて、眠りながらでも敵襲に気が付ける。そなたを守るのに必要だ」
後付けだと分かる言葉。理屈としては成立しているが、順序が逆だ。
守るために共に眠るのではない。共に眠りたいから、理由を積み上げている。
それが透けて見えるからこそ、ミアは小さく息を吐いた。
「困るのよねぇ、ロリコンだとか言われても知らないんだからね?」
半ば冗談めかして牽制するが、当の本人はまるで意に介していない。
「そなたが大きくなるのにそう時間はかからないだろう」
静かな声で、しかし確信を持って続ける。
「そうなれば違和感も消える。恋人同士に見えるようになる」
あまりにも堂々とした未来予測だった。
躊躇いも、照れもない。ただそうなると信じている、あるいはそうすると決めている声音。
ミアは思わず言葉を詰まらせる。
この数年で、ユエリーは変わった。
かつてのようにただ傍に在る存在ではなく、はっきりと意思を持って距離を詰めてくる。隠すことも、誤魔化すこともせず、真っ直ぐに言葉を投げてくるようになった。
それが冗談で済ませられない重みを持っていることも、分かってしまうから厄介だ。
「……ほんと、困った龍」
小さくこぼす。これ以上言っても岩のように動かないだろう。
だがその声には、完全な拒絶は含まれていない。
困惑と、呆れと、ほんのわずかな温度。
ユエリーはそれ以上何も言わず、ただ当然のように隣の空間を空ける。
ここに来るだろうと疑っていない仕草。
ナギはそれを見て、肩をすくめた。
「はいはい、いつものやつな」
止める気は最初からない。ただの傍観者として、呆れながら見守るだけだ。
ミアは一瞬だけ迷い、それから小さく息をついて寝台に潜り込んだ。
結局、変わらない。
この距離も、この関係も。
けれど――
それが永遠に続くわけではないことを、今夜は誰よりも強く意識していた。




