第三話
「ユエリーも付いてますし、大丈夫ですってば」
なおも渋る老師に、ミアはあっさりと切り札を差し出すように言った。その声音は軽やかで、けれど確信に満ちている。
「そんな目立つヤツ、護衛になるかね?」
半ば呆れたように言いながら、老師は視線を横へ流した。
そこに立っているのは――隠れる気配など微塵も持たない男だった。
白銀の長髪が光を受けて流れ落ち、歩くだけで空気の流れすら変えるような存在感を放っている。腰に佩いた剣は無駄な装飾を持たず、ただ実用だけを追求した静かな威圧を帯びていた。
左右で異なる色を宿す瞳。紅玉と青玉。
その視線がわずかに動くだけで、場の温度が変わる。
白い肌に、薄く引かれた唇。整いすぎた顔立ちは一見すると繊細で、触れれば壊れそうな錯覚を与えるが、その錯覚はすぐに裏切られる。衣の下に隠された身体は、無駄を削ぎ落とし鍛え上げられた剣士のもの。しなやかで、鋼のように強い。
七年。
その歳月の中で、ユエリーは変わった。
かつてはただ圧倒的な存在として在るだけだった龍王は、今や“人として戦う術”をその身に刻み込んでいる。
そのすべては、ニチカによるものだった。
常に傍にいられないならば、せめて――
そう言わんばかりに、剣を教え込んだ。握り方から始まり、足運び、間合い、殺し合いの呼吸に至るまで。容赦など一切なかった。相手が元龍王であろうと関係ない。倒れれば立たせ、折れれば叩き直し、身体に覚えさせるまで繰り返した。
その結果が、今ここに立っている。
「護衛になるか、だと?」
静かに、ユエリーが言葉を返した。
声音に感情の起伏は少ないが、その奥には確固たる意思がある。
「私が主の傍に在る。それだけで十分だ」
短い言葉。だが、それ以上の説明を必要としないほどに明確だった。
目立つかどうかなど問題ではない。
近づく者を、すべて排するだけ。
その覚悟が、隠そうともせず滲んでいる。
老師はしばしその姿を見つめ、やがて小さく鼻を鳴らした。
「……過剰戦力にも程があるわ」
呆れたように言いながらも、その言葉にはわずかな安堵が混じっていた。
認めざるを得ないのだ。
この護衛がいる限り、並大抵の危険では揺るがないと。
ミアはそんなやり取りを、どこか楽しげに見守っていた。
守られるだけではない。
それでも、守ろうとする者たちがいる。
その両方を受け入れたうえで、彼女は前へ進もうとしている。




