新章 第一話
七年という歳月は、振り返ればあまりにも短く、けれどその中身は確かに積み重なっていた。
ミアは十二歳を迎え、かつての幼さを残しながらも、誰の目にも明らかな変化を纏っていた。
儚げな印象はそのままに、真珠色の髪は艶を増して腰まで流れ、動くたびにやわらかな光を帯びて揺れる。細く伸びた手足はしなやかで、子鹿のような危うさと均整を同時に感じさせた。
薔薇色に染まる頬、山桜桃を思わせる瑞々しい唇、そして長い睫毛に守られるようにして輝く藍の星眼。そのどれもが調和し、ただ美しいという言葉だけでは足りない、触れ難い気配すら帯び始めている。
その姿を前にして、老師は深く、そして長く息を吐いた。
「やっぱり足折るか……」
ぼそりと零れた言葉は冗談の体をしているが、その奥にある感情は決して軽くない。守りきれないものが、いずれ必ず外へ出ていくという予感と、それを止められない自身への歯がゆさが滲んでいる。
だが、当のミアは小さく肩をすくめて笑うだけだった。
その反応には、幼い頃のような無邪気さと、七年を経て培われた確かな自負が同居している。
「師匠、私の七年の努力、ちゃんと見てましたよね?」
問いかける声は柔らかいが、その奥には揺るがない芯が通っている。
逃げも隠れもせず、ただ積み上げてきた時間への確信。
「免許皆伝、しましたよね?」
確認するように重ねられた言葉。
それは許しを請うものではなく、すでに得た答えを改めて突きつけるようでもあった。
この七年、守られるだけでは終わらなかった。
教えを受け、身体に刻み込み、幾度も失敗し、それでも折れずに立ち上がり続けた時間。そのすべてが、今の彼女の中に息づいている。
老師は何も言わない。
ただ、その瞳でミアを見つめる。
幼子ではなく、一人の存在として。
やがて、わずかに視線を逸らし、もう一度だけ息を吐いた。
止められない。
もう、その段階は過ぎている。
目の前にいるのは、守られるだけの少女ではないのだから。




