第百三十一話
長い沈黙のあとに落ちてきた言葉は、叱責でも試しでもなく、はっきりとした“区切り”だった。
「あと七年は、儂の元にいろ」
その一言で、空気が変わる。これまで張り詰めていた緊張がほどけたわけではないが、向かう先が定められたことで、曖昧だったものが輪郭を持つ。
老師の視線は変わらず厳しいままだが、そこには先ほどまでの探るような色ではなく、決めた者の覚悟が宿っている。
「その間に、生きていく術をお前に全て叩き込む。十二になったら、旅立ちを許可する」
条件は明確だった。猶予ではない。準備期間。守るための時間ではなく、送り出すための時間。
ミアはその意味を正しく受け取る。
七年という歳月の重み、それがどれほど濃密なものになるか、想像するまでもなく分かる。
逃げ場はないし、甘えも許されない。
だが同時に、それは“認められた”ということでもあった。
今はまだ未熟でも、七年後には立てると判断されたということ。
その事実が、胸の奥に静かに落ちていく。
「……はい」
一歩、踏み出すように返事をする。
「師匠、ありがとうございます」
深く頭を下げるその仕草に、軽さはなかった。 感謝だけではなく、これから背負うものを受け入れた重みが、そのまま形になっている。
老師はそれを見て、ほんのわずかに目を細める。
「礼はいらん」
ぶっきらぼうに返しながらも、その声には先ほどまでの硬さはなかった。
「七年後、泣いても止めん。だが――」
そこで一度言葉を切る。
「半端なまま出ていくなら、その足を折ってでも止める」
冗談ではない。
その言葉は現実として告げられている。
ミアは顔を上げ、まっすぐに頷いた。
逃げない。
その覚悟だけは、もう揺らがない。




