第百三十話
ミアの言葉は静かに落ちたが、その一つ一つは軽くなく、書斎の空気に沈み込んでいくたびに、逃げ道のない選択を自ら塞いでいくような響きを持っていた。
「……罪深い、とは分かっています」
それは弁明でも、許しを乞う響きでもなかった、ただ事実として受け入れているという宣言に近い。
選ぼうとしている道がどれほどのものか、理解した上でなお手放さないという意思がそこにあった。
老師は何も言わない、遮らない、その沈黙が続きを促す。
「だからこそ、私は魔女なのだから」
小さな身体に似合わないほど、言葉は重く、確かな輪郭を持っていた。
魔女という在り方、それはただ力を持つ者ではなく、時に均衡を崩し、時に世界に楔を打ち込む存在。
その自覚があるからこそ、引き受ける覚悟もまた伴っている。
「罪を背負ってなお、行きます」
短く、揺らぎのない断言だった。
もしも自分が聖者であったなら、とミアはほんの一瞬だけ考える、傷つけず、誰も失わず、すべてを救う道を探すことを求められる存在、だが自分はそうではない。
そうであろうとすれば、おそらくどこかで歪む。
それを綺麗事のまま貫けるほど、この世界は単純ではないと、もう知っている。
「聖者であるなら、無血の道を探したでしょう」
言葉にすると、その距離ははっきりする、自分が立っている場所との違いが、くっきりと。
「でも、私はそうではない」
視線は逸らさない、逃げない。
「生と死の営みの中で……あえて、足掻き、もがき、苦しみたいのです」
それは美化された苦難への憧れではなかった。
むしろ逆で、避けられるなら避けたいものを、それでも避けずに選び取るという歪な覚悟だった。
楽ではないと分かっている、綺麗では終わらないと理解している。
それでも、その中でしか掴めないものがあると信じているからこそ、退かない。
言葉を終えたあと、静寂が戻る。
書斎の中で、薪のはぜる音すら聞こえないような沈黙。
老師はしばらく何も言わなかった、ただミアを見ている。
その視線には試す色も、叱る色も、今はもうほとんど残っていない。
代わりにあるのは、もっと別の、重さを測るような静かな観察だった。
やがて、ゆっくりと息を吐く。
「……そうか」
短い言葉。
だが、それはただの相槌ではなかった。
完全な肯定でも否定でもない、しかし確かに“受け取った”という響きを持っていた。
「ならば、その覚悟」
わずかに声が低くなる。
「最後まで貫け」
それは許可でも命令でもなく、条件だった。
ここから先に進むなら、途中で投げることは許されない。
その重さを理解した上でなお進むのなら、最後まで背負えという、静かな確認。
書斎の空気は依然として重いままだったが、その質はわずかに変わっていた。
押し返される圧ではなく、踏み込むことを許された者だけが感じる重みへと。




