↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
128/178

第百二十八話

老師の言葉が落ちたあと、書斎の空気はぴたりと止まったように感じられた。


逃げ場のない問いの余韻がそのまま残り、どちらに転んでも軽くは済まない選択肢だけが目の前に差し出されている。


ミアは一度だけ息を吸い、その重さを受け止めるように胸の奥へと沈め、それからゆっくりと口を開いた。


「……ニチカの手が血塗れなら」


言葉にした瞬間、その姿が脳裏に浮かぶ、軽やかな笑みの裏で何を積み上げてきたのか。

そのすべてを知っているわけではない。

それでも、あの手が何も汚さずにここまで来たとは思っていない、その現実を受け入れた上で続ける。


「私の手だけが、綺麗であっていいはずがないわ」


静かな声だった、けれど揺らぎはなかった、綺麗でいることが正しさだとは思っていない。


むしろそれが誰かの犠牲の上に成り立つのであれば、それはただの逃避でしかないと、そういう理解がすでに自分の中にある。


「彼を友と呼ぶなら」


言葉を重ねるごとに、自分の立ち位置を確かめるように。


「そうさせた私が、それを厭うて安全圏で何もしないなんて……そんなの、不平等だもの」


そこには感情があった、理屈だけではなく、どう在りたいかという感覚がはっきりと滲んでいる。


誰かが泥を被るのを知りながら、自分だけが無傷でいることへの違和感、それを見ないふりをすることのほうが、よほど自分にとって耐えがたい。


老師は何も言わない、ただその言葉を受け止めている、その沈黙が続きを促す。


ミアはわずかに視線を上げる、逃げないと決めた者の目で。


「たしかに私は、まだ幼くて弱い」


否定しない、それは事実だと理解しているからこそ、あえて言葉にする。


「それでも……」


ほんの一瞬、間を置く、その先にある言葉を、選ぶというよりも、もう決まっているものとして。


「ともに立ちたいと思っています」


守られる側にいるだけではなく、同じ場所に立つ存在として、自分を位置づけたいという意思。


それは背伸びでも理想論でもなく、覚悟に近い響きを持っていた。


静寂が戻る。


書斎の中で、その言葉だけが、確かに残っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。