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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

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第百二十話

来た道を、ふたりで引き返す。

セルジュの歩みに合わせて、再び緑が生まれていく。


踏みしめたそばから芽吹き、やわらかな道となるその軌跡は、行きとはどこか違って見えた。

ミアの中に、ひとつ“理解”が増えたからかもしれない。


やがて、境界が近づく。

宇宙の気配が、ゆっくりと薄れていく。


そして――仲間たちの姿が見えた。


「……ミア!」


最初に反応したのはニチカだった。

張り詰めていたものが解けたように、ほっと息をつく。


ナギは無言のまま、しかしわずかに肩の力を抜き、


老師は目を細める。


ユエリーは――何も言わない。

ただ、まっすぐにミアを見る。


その視線の強さだけが、すべてを語っていた。

無事を確かめるように。

奪われていないかを測るように。

そして――戻ってきたことを、確かに受け止めるように。


ミアは小さく笑って、その視線に応える。

「ただいま」

短い一言。

それだけで十分だった。


そのやり取りを一歩後ろで見ていたセルジュが、ゆっくりと一同を見渡す。

翠の瞳が、ひとりひとりを映す。

値踏みではない。確認。そして、記憶。


「ご近所さんのご挨拶、ご苦労さま」


軽やかな声。

だがその場の空気を自然と整える響き。


「僕は君たちを歓迎するよ」


ほんの少しだけ、口元を上げる。


「よき隣人になろう」


その言葉は、約束のようでもあり、宣言のようでもあった。

この森、この領域において、彼がそう言う意味は――重い。


ナギがわずかに頷き、老師は静かに頭を下げる。


ニチカは表情を引き締め、ユエリーだけが、微動だにせずセルジュを見据えていた。


その緊張の中で――ふと。繋がれていた手が、そっと離れる。

名残を残すように、やわらかく。


そして次の瞬間、セルジュは一歩近づいた。

ミアの前に。


「……」


何も言わず、ただ自然な仕草で、その額に、口付けを落とす。


軽く、触れるだけの。

けれど確かな“印”。


「……っ」


ミアが一瞬、目を瞬かせる。

驚きと、理解が同時に来る。

そしてセルジュは、ほんの少しだけ距離を取った。

悪戯っぽく、口元を歪める。


「……僕には、ライバルが多いみたいだし」


ちらり、と。

一瞬だけ視線が流れる。


ユエリーへ。

そして、ニチカへ。


「今のうちに、祝福をあげる」


その言葉は軽い。

けれど含まれる意味は、決して軽くない。

空気が、ぴんと張る。


ユエリーの瞳が細くなり、ニチカの笑みがわずかに硬くなる。


だが――セルジュはもう気にしていない。


くすりと笑って、その姿がほどける。

金色の光。


収束し、再び――小さな鹿へ。

ひとつ鳴くように、軽く頭を揺らし、くるりと踵を返す。そして駆け出す。

来た道を、軽やかに。


その足元から、また緑が生まれる。

道が、伸びていく。

まるで“帰路”そのものを創るように。


やがてその姿は、光の粒のように遠ざかり――見えなくなった。

あとには、静寂。


そして、確かに残る気配。

ミアはそっと、自分の額に触れる。

まだ、ほんのりと温かい。


何も言わない。

けれど、その小さな仕草を、誰も見逃してはいなかった。

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