第百十七話
「……命……そのもの」
ミアの声は、ごく静かだった。
けれど、その言葉はこの空間に溶けず、確かに“届いた”。
セルジュの瞳が、やわらかく細められる。
「正解」
心から嬉しそうに笑う。
その笑みは、子どものように無垢で、同時に――世界を肯定する者の顔だった。
「宇宙は、いのちそのものだ」
軽やかに言う。
だがその一言には、あまりにも多くが含まれている。
「僕はそれの管理人」
さらりと続けて、ほんの少しだけ、ミアの手を握る力が強くなる。
逃がさないためではない。
“繋がり”を確かめるように。
「そして――君は」
わずかな間。
言葉を選ぶでもなく、ただ自然に続ける。
「未来の、僕のお嫁さんだ」
その瞬間。
――熱が、溢れた。
繋いだ手から、じわりと。
だが一瞬で、奔流へと変わる。
金色の光。
いや、それは光ではない。
“いのち”そのものの流れ。
洪水のように押し寄せるのに、痛みはない。
恐れもない。
ただ、あたたかい。優しい。
包み込むような、絶対的な肯定。
「……っ」
ミアの小さな身体が、わずかに震える。
拒絶ではない。
あまりにも大きすぎるものを、そのまま受け取ってしまったがゆえの反応。
金色の奔流が、ミアを包む。
内側へと流れ込み、外側からも満たし、境界を曖昧にしていく。
どこまでが自分で、どこからが“それ”なのか、一瞬、分からなくなる。
けれど――壊れない。
崩れない。
むしろ、ぴたりと“収まる”。
まるで最初から、その容量を知っていたかのように。
「……大丈夫?」
セルジュの声が、すぐ近くにある。
覗き込む翠の瞳。
そこにあるのは、確かな気遣い。
試したわけではない。
ただ――分かってほしかった。
自分が何を抱えているのかを。
そして、その一端を共有できる存在なのかを。
ミアは、ゆっくりと息を吐いた。
熱はまだ残っている。
体の奥で、静かに巡っている。
けれど、それは不快ではない。
むしろ――どこか懐かしいような感覚。
「……あったかい」
ぽつりと、そう言った。
率直な感想。
飾らない言葉。
セルジュは一瞬、目を見開き――そして、ふっと笑った。
「そっか」
それだけで、十分だった。
金色の流れは、ゆっくりと収まっていく。
けれど完全には消えない。
ミアの中に、確かに“残る”。
触れた証のように。
繋がった証のように。
宇宙樹の下で、精霊王と魔女は、ただ手を繋いで立っている。
その光景は静かで、けれど――確かに、世界のどこかが“動いた”瞬間だった。




