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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

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第百十五話

差し出された手。

それはあまりにも自然で、あまりにも“疑う余地のないもの”だった。


拒む理由など――最初から、どこにもない。


ミアは一瞬も迷わず、その手を取る。

小さな掌が重なり、軽く握り返す。


触れた瞬間、わずかに温度を感じた。

冷たくも、熱くもない。

ただ“在る”という確かな感触。


――生きているものの、根源の温度。

セルジュの瞳が、ほんのわずかに見開かれる。


驚き。

それはごく微かなものだったが、確かにそこにあった。


「……」


言葉にならない感情が、一瞬だけ過る。

だがすぐに、それは笑みに溶けた。


「……君は、本当に」


小さく息を吐くように。けれど、その先は言葉にしない。


ただ、楽しげに目を細める。

四人いるはずの許嫁のひとり。


本来であれば、もっと警戒されてもおかしくない立場。距離を測られ、試され、拒まれることすらあるだろう関係。


それなのに――目の前の少女は、まるで昔から知っている相手にするように、何の躊躇もなく手を取った。


その事実が、セルジュには新鮮だった。

そして、少しだけ――嬉しかった。


「君と、ずっと話してみたかったんだ」


柔らかな声。それは嘘ではない。

長い時間をかけて、遠くから“見ていた”相手。

触れることのなかった存在。

それが今、目の前にいて、こうして手を繋いでいる。


「おいで?」


軽やかに。気負いもなく。

まるで散歩に誘うような気安さで、セルジュはミアの手を引く。


ミアは抵抗しない。

そのまま、歩き出す。

宇宙のような空間の中へ。


一歩踏み出すたび、足元に緑が生まれる。

草が芽吹き、花が咲き、小さな命が連なっていく。

まるで、道を“作っている”かのように。


「……すごい」


ミアが小さく呟く。

その声は、今度は消えなかった。


この場所では、“彼の隣にいる者の声”だけが、許されているかのように。


後ろでは、ユエリーが一歩踏み出しかけて――止まる。

ナギも、ニチカも、動かない。

いや、“動けない”。


見えない境界。拒絶ではない。だが、明確な区分。

ここから先は――“招かれた者だけ”の領域。老師が静かに息を吐く。


「……なるほどな」


小さく呟く。これは対話だ。

そして、選ばれた者にしか許されない時間。

ユエリーの視線が、ミアの背に注がれる。


強い。

だが、追わない。

主が自ら選んで進んだ先を、無理に奪うことはしない。


ただ――その背を見届ける。

ミアは振り返らない。


ただ、前へ。

セルジュに手を引かれながら、宇宙樹の中心へと歩いていく。


未知の中へ。

だが、不思議と恐れはなかった。

その手が、確かに“導いている”と、理解できていたから。

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