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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

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第百九話

迷いの森の奥――


ひときわ異様な気配を放つ一角に、それはあった。


三本、並び立つ巨木。


幹はねじれ、空へと伸びる枝は絡み合い、まるで互いに意思を持って支え合っているかのようだ。


「迷いの森の三本杉」


老師がそう呼んだそれを、ニチカはしばらく無言で見上げていた。


「……動いてるの、あれだぞ」


何でもないことのように告げられ、


「ちなみに挨拶したら顔を覚えて案内してくれる」


さらに続けられる。

あまりにもあっさりとした“攻略法”。

ニチカの思考が、一瞬止まった。


「……そんなことで良かったのか……」


ぽつりと呟く声は、完全に力が抜けていた。

夜通し彷徨った記憶が、無駄に思えてくる。

(あの三周はなんだったんだ……)

内心で白くなりながら、現実を受け入れきれない。

その横で、ミアは一歩前に出た。


少しだけ照れたように、けれどきちんと背筋を伸ばして。

「三本杉さん、こんにちは」

小さく、けれどはっきりとした声。


その瞬間――ぎし、と。

低く重い音が森に響いた。

三本の巨木のうち、一本がわずかに傾く。


枝が揺れ、葉が擦れ合い、まるで“視線”を向けるようにミアへと向いた。

そして、ゆっくりと、わずかに――頷くように動いた。


「……うそだろ」


ニチカが呟く。現実が追いつかない。

だが、それは確かに“返事”だった。

ナギも一歩進み出る。


「……お世話になります」


簡潔に言い、軽く手を上げる。

今度は別の一本が、同じように葉を揺らした。

認識されている。そうとしか思えない反応。


ニチカはしばらく固まっていたが、やがて観念したように肩を落とした。


「……こんにちは」


渋々、といった調子で声をかける。


その直後、風が一瞬だけ流れた。

枝がざわりと揺れ、足元の落ち葉がすっと脇へ寄る。

――道が、開いた。


「は?」


思わず間抜けな声が漏れる。

ユエリーもまた、静かに一歩進み出る。

その姿勢はどこか厳かで、


「……世話になる」


低く告げる。

三本の杉は、わずかにざわめきを強めた。

それは歓迎にも、了承にも取れる音だった。


森の空気が、明らかに変わる。

先ほどまで感じていた“迷わせる圧”が、すっと引いた。

進むべき方向が、自然と分かる。


「……もっと早く教えてくれても良かったんじゃ?」


ニチカが振り返り、抗議する。

声にはまだ納得しきれない色が残っている。

老師は肩をすくめた。


「防犯テストも兼ねていてな」


あっさりとした返答。


「無策で戻ってこれるかどうか、見ていた」


さらりと言うが、内容はなかなかに厳しい。


ニチカは一瞬、言葉を失い――

やがて、はあと息を吐いた。


「……落ちたら終わりの試験じゃん、それ」


苦笑混じりの文句。だが、完全な不満ではない。


むしろ、どこか納得している。

(試された、ってことか)

そして、通った。

それが分かるからこそ、これ以上は言わない。


ミアはそんなやり取りを見ながら、もう一度三本杉を見上げた。

大きくて、古くて、けれどどこか優しい気配。


「よろしくね」


今度は少しだけ柔らかく言う。

葉が、さらさらと揺れた。

それはまるで、笑ったようにも見えた。

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