第百八話
荷を広げたとき、それはひときわ目を引いた。
軽やかな布地の中に混じって――少しだけ、浮いている。
白い猫耳フードのポンチョ。
やわらかな質感、丸みのあるシルエット。実用性よりも、どう見ても“可愛さ”に全振りされた一着だった。
ミアはそれを見つめて、ほんの少しだけ首を傾げる。
(……ニチカっぽい)
言葉にせずとも、なんとなく分かる。
選んだときの顔まで、容易に想像できてしまう。
その瞬間――
「これだな」
すっと横から手が伸びた。ユエリーだった。
迷いが一切ない。
まるで最初からこれを選ぶと決めていたかのように、当然のように手に取る。
「え、ちょっと――」
ミアが言いかけるよりも早く、
ひらり、と布が広がり、気づけばすっぽりと被せられていた。
「……似合う」
間髪入れず、断言。
その声には確信しかない。
フードの猫耳がぴょこんと立ち、真珠色の髪がその下からふわりとこぼれる。
軽い布が肩に沿い、幼い体躯を包み込む。
「どうだ?」
少しだけ距離を取って、ユエリーが眺める。
その目は真剣そのものだった。
ミアは自分の袖をつまんで、ぱたぱたと揺らしてみる。
「……うん、軽いし、動きやすい」
機能面での感想が先に出るあたりが、いかにもミアらしい。
だが、頬はほんの少しだけ緩んでいる。
気に入っているのは、明らかだった。
ナギが横から覗き込む。
「……あー、これは」
言いかけて、一瞬だけ言葉を選ぶ。
「完全にあいつの趣味だな」
遠慮のない評価。
その“あいつ”は、今この場にいない。だが――
「だが、良い」
ユエリーが即座に肯定する。
珍しく、迷いのない同意だった。
「主の愛らしさを最大限に引き出している」
真顔で言い切る。
ナギが思わず吹き出す。
「そこ、意見一致するんだな……」
普段は反発し合う二人の、まさかの一致点。
ミアはそのやり取りを見て、くすくすと笑った。
「なんか、変な感じ」
けれど――悪くない。
誰かのために選ばれたものを、別の誰かが嬉しそうに着せてくる。
その間に、自分がいる。
それが、少しだけくすぐったくて、あたたかい。
ユエリーは満足げに頷き、フードの位置をそっと整える。猫耳がきれいに立つように、丁寧に。その仕草は、どこか誇らしげですらあった。
「これでよい」
まるで自分の成果のように言う。
ミアは小さく息を吐き、そのまま、ふわりと笑った。
「うん、これで行こっか」
森へ。
宇宙樹へ。
未知へ向かう装いとしては――少しだけ可愛すぎる気もしたけれど、今の自分には、それくらいがちょうどよかった。




