4話
――― 同時刻 『導騎士団』本部―――
この男は、常に冷静だ。
組んだ両手に顔を預け、机に肘をつくようにして椅子に座っている。
まったく微動だにしない。
そして、その両目は力まぬようにつぶられている。
まるで世界の現実ではない、真理の側を見ているかのようだ。
なんなら、視覚がなくとも「見る」ことができそうに思える凄みが、この男にはある。
グゴゴゴゴ―――
男の右眉がピクッと跳ねた。
だが、この男は動じているわけではない。
「地震か?」
「そのようです」
男は尋ねる。
その問いかけに、近くにいる青年がクールに答えた。
青年の名はマルカ。
『導騎士団』の副団長である。
彼の両目の下には、黒とも紫ともいえない、不健康そうな色の濃いクマがある。
日頃の重労働のため、寝ることも満足にできないらしい。
「まったく、物騒な世の中です。おかげで仕事は無限に入ってきますが」
「君は休もうとは思わな―――」
「騎士団を畳んで頂ければ、仕事がそもそも来ないので休めるかと。」
「来た仕事は全てこなす姿勢はたいへん好ましいんだがなぁ」
マルカの鋭い皮肉を受けても、この男は動じない。
もっとも、先程の発言が真意でないことくらい、この男には分かる。
アンサー。
それがこの男の名だ。
『導騎士団』団長の地位に就く男。
団の最高指揮権だけでなく、団内最強の称号をも持つ男だ。
ついた異名は『不動のアンサー』。
その左手には、六角形の腕輪が付けてある。
錆びた歯車が何層にも重なったデザインで、中央には正方形の出っ張りがある。
よく見ると、正方形の表面には微妙な凹凸があるのが分かる。
なにかを読み取る役目を持った機械のようだ。
そして、この世界において、そのような機構を備えた道具は時計の他にない。
ウォッチ『Σ』は、一切のブレもなく時を刻んでいる。
それはまるで、彼の冷静沈着なさまを映し出したかのように。
「マルカ、ひとつ仕事を頼まれてくれないか」
――― 同時刻 『オピカスタワー』―――
一人の少女が、眠りから目覚めた。
ダイニングでミネラルウォーターを一杯飲む。
そして窓のそばに立って、蒼い目で窓の外を眺める。
窓には彼女のすらりとした姿が反射する。
高層ビルの最上階、部屋の一面を占める大きな窓からは街をよく見渡せる。
果てしなく続く、コンクリートと金属ばかりの街。
だがその建物の光は、人々が生きているという事実を示し、多少の暖かみすら感じさせる。
わたしは、この街が好きだ。
そしてこの街は、わたしたちのものだ。
少女はふっと笑みを零して、ベッドに戻る。
長い金髪をまとめると、再び眠りについた。
この街、もといこの国の夜は明けることがない。
だからいまは何月何日の何時だ、なんてことは空の色から分からない。
ただ、「今は朝の10時だ」と言ってしまえば、それをこの街に適用するだけの力が彼女らにはある。
少女の首には、胸元まで垂れる銀色のネックレス。
その先には、Ωのデザインをあしらったパーツが付けられていた。
リーナ・フィン・フィルは、大企業『オピカス社』会長の一人娘である。
彼女の蒼い目は、一体なにを見つめているのか―――
アンサーとリーナは、この章には出てきません。
第2章以降をお楽しみに!




