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闇めくトレジャーハンター・ゼロ ~異能の原石で誰もが能力者になれる8つの世界が交差するとき、その架け橋を【盗む】冒険の旅が始まる~  作者: ちーかま
第1章 闘技場編

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2話

 顔を上げる。



 俺の目の前に―――巨大な怪物がいた。



 ゴリラを3倍くらい大きくしたような感じの、緑色の巨体。

 あぐらをかいて座り、その手には人の身体が握られている。


 そして、それをむしゃむしゃと食べている。



 「げっ―――夢だろ、これ?」


 俺は混乱していた。

 状況を飲み込めるわけもなかった。

 ゴリラが人を喰う様子を呆然と見つめていた。

 きっとこれはフィクションの世界だと信じて。



 「殺せ!」

 「面白くないぞ!!」


 すると、頭上から声が聞こえた。

 ふと目を向けると、貴族のような出で立ちの人々がいた。

 彼らはゴリラに夢中のようだ。


 そして、彼らと俺との間には、鉄の柵があった。

 上と下を隔てるように、柵があった。

 それを見た瞬間、俺は理解した。


 ここは闘技場だ。

 コロッセオだ。

 人間たちとあのゴリラを戦わせる為の、特設ステージなのだ。


 周りを見渡してみる。

 中央のフィールドを囲むようにして、段々になった観客席が同心円状に広がっている。

 そして赤や白で描かれた旗が、あちこちに立っている。

 これが闘技場のシンボルらしい。


 観客は、中央で起きている出来事に釘付けのようだ。

 歓声やヤジを発したり、食べ物を頬張っていたりする。

 本当に、スポーツ観戦に来た客のようだ。



 ―――うおおおぉぉォォ!!


 すると、前方から男の声がした。

 その男は、全身を鎧に包み、両手で剣を握っている。

 剣闘士、といった所だろうか。


 そして、その男はゴリラめがけて突撃していった。

 鎧を着こんでいるとは思えない速度と身のこなし。


 だが、ゴリラは虫を払うように、手で男を吹き飛ばしてしまった。

 吹き飛んだ男は、俺の真横1メートルぐらいを通過し、壁に激突した。


 「ぐはァッ―――」

 「大丈夫ですかッ―――ァ?」


 俺は男の元へ駆け寄り、その姿を目にした。

 だがそのとき、俺は呆然と立ち尽くしてしまった。


 男の身体は、壁にめり込んでいた。

 そして、身体だったものの欠片が辺りに飛び散っている。

 視界が赤色に染まり、鼻を強烈な血の匂いが襲う。


 17年間の人生で、初めて見た光景だ。

 俺は嘔吐した。


 「いいぞぉデカゴリラ!」

 「さっさと殺しつくさんかい!」


 観客たちは、この凄惨な光景を見て喜んでいるらしい。

 実に狂っている。



 身体の中のものを出し尽くして口を拭う。

 顔を上げると、ゴリラが俺の視界に入った。

 相変わらずあぐらをかいていて、俺には気づいていないようにも思える。


 だが、確実にこちらを知覚しているという確証が、俺にはある。

 頭の上にチョウチンアンコウのような第三の目があって、俺をじっと睨んでいるのだ。

 どうやら、そちらの注意は常に俺に向けられているらしい。


 本能からくる恐怖。

 俺はこいつに食われる。

 そして、その光景を娯楽として提供させられる。



 その時だった!


 「グルゴォオオオオオ!!!」


 ゴリラがこちらに猛ダッシュしてくる!!

 俺のものの50倍はあろうかというその歩幅で、急激に俺との距離を詰める。

 あまりに急すぎて、俺は動けなかった。


 ―――バダンッ!!


 ゴリラは俺の目の前で急停止した。

 地面が揺れ、土煙が舞う。

 猛スピードで動いていた物体が静止した反動だ。


 そして、大樹のように太い首を曲げて、顔を下方に向けた。

 両目と第三の目とで、じっと俺を睨む。


 「は―――?死ぬ」

 「グルゥ?」


 俺の全身の神経系が、この異常な状態に警鐘を鳴らす。

 血の臭いに加えて、食べカスの臭いや体臭が、突き刺すように俺の嗅覚を刺激する。

 視界いっぱいに広がる肉の壁の迫力に、おそろしくて鳥肌が立った。


 それよりも、異常なのは身体のフォルムだ。

 全身が緑色の体毛に覆われているが、大胸筋に当たる部分には毛が生えていない。

 その代わり、その黒茶色の胸部だけが、瓦のように異常に発達している。

 そこだけに昔の騎士の甲冑が着せてあるかのような、アンバランスな見た目だ。


 「ウオオオオオ!!」


 すると、ゴリラはドラミングのような動きを始めた。

 大きな鳴き声をあげながら、左右の胸板をドンドンバンバンと叩く。

 やがて、胸板の黒茶色が光沢を帯びた銀色へと変化していった。

 また、熱を帯びているのか、煙のようなものも昇っている。


 「出たぞ!グリーンピースの決まり技!」

 「さっさとやれ!殺せ!」

 「にしても変な服を着た戦士だな―――まぁいい行け!」


 観客たちが煽るように声をあげる。

 今更だが、あのゴリラの名はグリーンピースというらしい。

 そしてあのドラミングは、グリーンピースが敵を殺るときのルーティンのようだ。



 そこで、俺はある予想に至った。

 グリーンピースの胸板が異常発達しているのは、敵にぶつかり、圧迫させる為ではないだろうか。

 スピードと質量の相乗効果で、威力は絶大なものとなる。

 鋼鉄の壁と激突した巨体の動物が、呆気なく吹き飛ばされる光景が頭に浮かんだ。


 では、これから俺はあの胸板と闘技場の壁とに挟まれ、プレスされてしまうということだろうか。

 どこか非現実的だった死の感覚が、論理的に生々しくなった。

 どういう風に痛いんだろう。

 意識を失うまでにどれくらいかかるんだろう。



 だが、死ぬのは嫌だ。怖い。

 やり残したことがぱっと思いつかないくらい、やり終えたことがまだ少ない。



 しかし、どうやってゴリラから逃げるというのだ。

 このフィールドは、ゴリラがバンザイしても届かない高さの柵で覆われている。

 柵を越えて逃げ出すのは、まず無理だろう。


 フィールドには、備え付けられた二つの出入り口がある。

 だが、それらは内側から開く事ができなさそうだ。


 地面を掘ろうにも、道具も時間もない。

 ゴリラを倒すのだってもちろん無理だ。


 というか、下手な動きをすればすぐにゴリラに捕まえられるだろう。

 おそらく、今は様子を伺われているだけだ。

 まずは冷静に―――



 「グァアア!!」



 ―――あまりに唐突だった。


 奴の右腕が、事前モーションもなく水平に振られた。

 まるで、さっきと同じくハエを払うみたいに。


 俺は顔を背けた。

 左側から砂嵐のような突発的な風が吹いてくる。

 観客の歓声が大きくなる。


 俺は左半身に攻撃をくらって吹き飛ばされ、壁に激突。


 そして全身を打ち付けて即死―――





 ―――しなかった。



 「え―――?」


 何も起きなかった。

 身体のどこも痛くない。

 驚きながらも、俺は背けていた顔を左側に戻す。



 紫色のサッカーボールのような膜が張られていた。

 モスキート音を低くしたような音。

 パチ、パチと飛ぶ火花。


 そして、紫の五角形や六角形に阻まれるようにして、動きを止めたゴリラの右腕。



 「俺は―――助かったのか?」


 俺は状況を理解しようとした。


 これはおそらく、バリアだ。

 バリアが張られている。

 そして、奴の攻撃を間一髪で食い止め、俺を守ったのだ。


 じゃあ、誰が俺を助けたんだ?



「―――サ(・)イ(・)キ(・)ッ(・)ク(・)」


 そう唱える、少年の声が聞こえた。

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