1話
憂鬱な夏の一日が、まだ始まって2時間くらいしか経っていない頃。
ある平凡な学校の、ごく普通の教室。
国語の授業中。
机に伏して、居眠りをしている少年がいた。
少年の名は、カイ。
崎谷カイ。
この物語の主人公。
つまり俺だ。
2月9日生まれ、みずがめ座の17歳。
見た目は中の上で、そこそこの清潔感。
性格は、適当で陽気。
フラれたときと、財布を無くしたときにしか泣かないのがポリシーだ。
そして、人の身体のあらゆるツボを見つけて的確に押せるという特技がある。
これが俺のプロフィールだ。
そんな俺は、今日も高校生らしく、学校で授業を受けている。
もっとも、下から数えた方が早そうな成績をなんとかキープする日々だが。
そして今日は、どうも頭の調子が悪い。
というか、いつもより眠気がひどいような気がする。
昨日は5時間も寝たから、睡眠時間は足りているはずなんだけど。
そんな俺の眠気を覚まそうとしたのか、教師が俺に声をかける。
「崎谷くん、教科書38ページを音読してくれる?」
「あ、はい―――」
俺は寝ぼけた声で返事をする。
そしてノロノロと立って、ダラダラと読み始める。
「『私は、目の前の汚い人間性の発露に、おかしい事ではあるが、心奪われてしまったのである」
今日は現代的な随筆を取り扱った授業。
作者の主観的な視点から、物事が描かれている。
口語が多い感じだ。
「彼の考える世界の理想について学びつつ』
あ、いや、『この世界の異能について学びつつ―――』」
―――あれ?
俺は言葉をつっかえさせてしまった。
なぜなら、いまここで不可解な事が起きているからだ。
教科書の文章が、だんだん書き変わってゆくのである。
「『石の力を深く知ることで、自分の人間性に当てはめ―――』
えー、いや、『石を使用することで、自らの能力を広げることが可能になる―――』」
もう一度、同じように文章が書き変わる。
文字のインクを一度漂白して、またペンで書いているといった感じだ。
「崎谷くん、もう結構よ」
「あ、はい」
教師の一言で俺は読むのを止めた。
自分のたどたどしい朗読を笑われる覚悟をしていたが、それほどまでもなかったのだろうか。
クラスメイトはまるで無反応で、教師の板書を眺めていた。
というか、文字が置き換わっていくあの現象はなんだったのか。
眠気からかうまく目が見えず、単に見間違えていただけだったのか。
うまく言い表せない胸騒ぎが、俺の中をいっぱいにした。
そして、俺の中に湧いた嫌な予感は、その10秒後に現実のものとなった。
今日イチの、強烈な眠気。
抵抗する間もなく、俺は眠りについた―――
「いでッ―――」
俺は頭に受けた痛みから、即座に目を覚ました。
目を開くと、黄土色の地面が広がっている。
独特な土の匂いもした。
どうやら俺は今、うつ伏せの状態で地面に倒れているらしい。
数秒たって、歓声や怒号、拍手の音が聞こえた。
俺の居眠りに対するものではないだろう。
スポーツ観戦のときに聞こえてくる音という感じだ。
そして、頭の痛みが引いていき、感覚が戻っていく。
土の感触を感じた。
そして―――死が間近に迫っている感覚。
「ァ―――?」
悪い予感は当たってしまったようだ。
ゆっくりと顔を上げて、そこにあったものとは―――。
カイを転移させる為だけに用意したような、粗い1話でごめんなさい。
文字が書き変わる現象についても今後のストーリーで言及します。




