3話「不動と令嬢」
――― 同時刻 『導騎士団』本部―――
この男は、常に冷静だ。
組んだ両手に顔を預け、机に肘をつくようにして椅子に座っている。
まったく微動だにしない。
そして、力まぬようにつぶられた両目は、まるで世界の現実ではない、真理の側を見ているかのようだ。
なんなら、視覚がなくとも「見る」ことができそうに思える凄みが、この男にはある。
グゴゴゴゴ―――
男の右眉がピクッと跳ねた。
だが、この男は動じているわけではない。
「地震か?」
「そのようです」
主からの問いかけにクールに答えたのは、『導騎士団』副団長のマルカだ。
「まったく、物騒な世の中です。おかげで仕事は無限に入ってきますが」
彼の両目の下には、黒とも紫ともいえない、不健康そうな色の濃いクマがある。
日頃の重労働のため、寝ることも満足にできないのだ。
「君は休もうとは思わな―――」
「騎士団を畳んで頂ければ、仕事がそもそも来ないので休めるかと。」
「来た仕事は全てこなす、その姿勢はたいへん好ましいんだがなぁ―――」
マルカの鋭い皮肉を受けても、この男は動じない。
もっとも、先程の発言が真意でないことくらい、この男には分かる。
アンサー。
それがこの男の名だ。
『導騎士団』団長、不動のアンサー。
憲兵団の最高指揮権を与る者にして、憲兵団最強の称号を持つ者でもある。
左手には、六角形の腕輪が付けてある。
錆びた歯車が何層にも重なったデザインで、中央には正方形の出っ張りがある。
よく見ると、正方形の表面には微妙な凹凸があり、なにかを読み取る役目を持った機械のようだ。
そして、この世界において、そのような機構を備えた道具は時計の他にない。
ウォッチ『Σ』はまるで彼の不動なさまを映し出したかのように、一切のブレもなく時を刻んでいる。
――― 同時刻 『オピカス社』本社―――
一人の少女が、眠りから目覚めた。
ダイニングでミネラルウォーターを一杯飲むと、窓のそばに立って、景色を眺める。
高層ビルの最上階、部屋の一面を占める大きな窓からは街をよく見渡せる。
果てしなく続く、コンクリートと金属ばかりの街。
だが、ドット単位で輝く建物の光は、人々は今この場所で生きているという事実を示し、多少の暖かみすら感じさせる。
わたしは、この街が好きだ。
そしてこの街は、わたしたちのものだ。
少女はふっと笑みを零して、ベッドで再び眠りについた。
この街、もといこの国の夜は明けることがないから、いまは何月何日の何時だ、なんてことは彼女には分からない。
ただ、「今は朝の10時だ」と言ってしまえば、それをこの街に適用するだけの力が、オメガビジネスにはあった。
少女の首には、胸元まで垂れる銀色のネックレス。
その先には、Ωのデザインをあしらったパーツが付けられていた。
リーナ・フィン・フィルは、大企業『オピカス社』会長の一人娘である。
そして、オピカス社の運営する私設武装部隊『終』に所属する優秀な戦闘員でもある。




