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闇めくトレジャーハンター・ゼロ ~異能の原石で誰もが能力者になれる8つの世界が交差するとき、架け橋を【盗む】冒険の旅が始まる~  作者: ちーかま
第1章 襲撃者C/立志編

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2話「少年との邂逅」

 小さい頃に、映画で見た記憶がある。

 ここは闘技場だ。

 コロッセオだ。


 「殺せ!」

 「面白くないぞ!!」


 中央のフィールドを囲むようにして、段々になった観客席が同心円状に広がっている。

 観客は、中央で起きている出来事に釘付けのようだ。

 そして、怒号やヤジが飛び交う。

 最前席には、頑丈そうな柵に守られた、位の高そうな人々が座っている。

 なにか食べ物を頬張って、娯楽のようにこちら側を見る姿はまるで動物園に来た客だ。


 娯楽のように、ではなく娯楽そのものなのだろう。

 そして、俺は彼らを楽しませる側の役割に置かれたのだろう。


 「な―――ッ!」


 なぜなら俺の目の前には―――巨大なモンスター。

 ゴリラを3倍くらい大きくしたようなおぞましい怪物が、人をむしゃむしゃと食べながらあぐらをかいているからだ。


 奴は一見、俺という人間に気づいていないようだ。

 だが、確実にこちらを知覚しているという確証が、俺にはある。

 頭の上にチョウチンアンコウのような第三の目があって、俺をじっと睨んでいるのだ。

 どうやら、そちらの注意は常に俺に向けられているらしい。


 本能からくる恐怖。

 俺はこいつと戦い、こいつに食われる。

 その光景を娯楽として提供するという役割が、俺に与えられているのだ。


 「あんな奴、どうやったって逃げられっこないじゃん。うわ終わったよ」


 ん?いや待て。

 そもそも、どうしてこんな事になっているんだ。

 俺はたしか、教師に指名されて国語の音読をしたちょっと後、強烈な眠気に襲われたのだ。

 そして、抗えずに眠気に身を任せたところ、教室ではなく、この闘技場で目を覚ました。


 今日はやけに眠かったが、ただの偶然だったのだろうか―――


 「グルゴォオオオオオ!!!」


 その時だった!

 ゴリラがこちらに猛ダッシュしてくる!!

 俺のものの50倍はあろうかというその歩幅で、急激に俺との距離を詰める。

 異常な速さ。

 3秒も経てば、きっと無力に捕まえられてしまう。

 あまりに急すぎて俺は動けなかった。


 バダンッ!!


 ゴリラは俺の目の前で急停止した。

 猛スピードで動いていた巨体が静止する反動で、地面が揺れ、土煙が舞う。

 そして、大樹のように太い首を曲げて、顔を下方に向けた。

 今度は両目で、俺を睨む。



 俺の全身の神経系が、この異常な状態に警鐘を鳴らす。

 血の臭いに加えて、食べカスの臭いやゴリラそのものの体臭が、突き刺すように俺の嗅覚を刺激する。

 視界いっぱいに広がる肉の壁の迫力に、おそろしくて鳥肌が立った。


 それよりも、異常なのは身体のフォルムだ。

 全身が群青色の体毛に覆われているが、大胸筋に当たる部分には毛が生えていない。

 その代わり、その黒茶色の胸部だけが、瓦のように異常に発達している。

 そこだけに昔の騎士の甲冑が着せてあるかのような、アンバランスな見た目だ。


 「ウオオオオオ」


 すると、ゴリラはドラミングのような動きを始めた。

 大きな鳴き声をあげながら、左右の胸板をドンドンバンバンと叩く。

 やがて、胸板の黒茶色が光沢を帯びた銀色へと変化していった。

 また、熱を帯びているのか、煙のようなものも昇っている。


 「行け!殺せ!」

 「さっさとやれ!」


 観客たちが煽るように声をあげる。

 どうやらあのドラミングは、このゴリラが敵を殺るときのお決まりの行動らしい。


 そこで、俺はある予想に至った。

 あの胸板は、敵を張り倒し、圧迫させる為に、異常に大きく、硬く発達しているのではないだろうか。

 スピードと質量の相乗効果で、威力は絶大なものとなる。

 俺の頭に、前方から迫ってくる鋼鉄と激突した巨体の動物が、呆気なく吹き飛ばされる光景が浮かんだ。


 では、これから俺はあの胸板と闘技場の壁とに挟まれ、プレスされてしまうということだろうか。

 どこか非現実的で漠然としていた死の感覚が、論理性によって現実のものとなった。

 だが、死ぬのは嫌だ。怖い。

 やり残したことがぱっと思いつかないくらい、やり終えたことがまだ少ない。


 しかし、どうやってゴリラから逃げるというのだろう。

 そこそこ広いこのフィールドは、ゴリラがバンザイしても届かないほどの高さの柵で、全面を覆われている。

 まず、柵を越えて逃げ出すのは無理だろう。

 そして、フィールドに備え付けられた二つの出入り口は、内側から開く事ができなさそうだ。

 内側に取っ手はなく、外側から押して開く仕組みのようだ。

 地面を掘ろうにも、道具も時間もない。


 というか、下手な動きをすればすぐにゴリラに捕まえられるだろう。

 おそらく、今は様子を伺われているだけだ。





 「グァアア!!」


 だが―――あまりに唐突だった。

 奴の右腕が、事前モーションもなく、ハエを払うようにして水平に振られた。


 俺は顔を背けた。

 左側から砂嵐のような突発的な風が吹いてくる。

 観客の歓声が大きくなる。


 俺は左半身に攻撃をくらって吹き飛ばされ、柵に激突。


 そして、地面に全身を打ち付けて即死―――





 ―――しなかった。



 何も起きなかった。

 俺は俯いていた顔を上げる。


 すると、俺の左側に、紫色の、線だけのサッカーボールのような膜が張られていた。

 モスキート音を低くしたような音と、パチ、パチ、と飛ぶ火花。

 そして、紫の五角形や六角形に阻まれるようにして、動きを止めたゴリラの右腕。


 俺は状況を理解しようとした。

 これはおそらく、バリアだ。

 バリアが張られている。

 そして、奴の攻撃を間一髪で食い止め、俺を守ったのだ。



「―――()()()()()


 突如、ゴリラの右手が逆再生のように横まで動き、後ろで左手と組まれた。

 そして、両足が払われた。

 大きな土煙を起こしながら、モンスターは地面に倒れた。


 「おっさん、大丈夫か?」


 目の前に、小さな右手が差し出される。

 俺はそれを掴むようにして、勢いよく立ち上がった。


 「あれ、『サイキックボーイ」か?」


 「あぁ、おそらくそうだ。変幻自在の超能力で自分よりデケェ敵も倒す。闘技場トップクラスの実力者だぜ―――」


 観衆がざわめく。

 俺は少年に声をかける。


 「ありがとう―――君は?」


 「また、あとでな」



 「ゴギャアアアア!!!」


 その言葉をきっかけにしたように、ゴリラが体制を立て直した。

 そして、改めてこちらを攻撃しようとしてくる。

 少年もまた、ゴリラの方へ体を向ける。


 「()()()()()!!」


 すると、突然少年が叫んだ。

 その叫びに呼応して、少年の左手が紫やピンクに発光する。

 まばゆい光は、だんだんと大きくなってゆく。


 いや、違った。

 左手が発光しているわけではないようだ。

 ()()が、その左手に装着されている。


 少年は左手を突き出すようにして、左手のパワーを放出した。

 すると、ゴリラの身体が宙に浮いて、だんだん上昇していく。

 なんとか抗おうとするが、対象にぶつかりに行く為の足がなければ、もはやその胸板も無用の長物だ。


 「―――ッ!」


 そして、柵を越え、闘技場の建物すらも越えていく。

 どんどん高度を上げていく。


 「おりゃァァ!」


 少年が声を上げると、更に巨体は上昇する。

 ゴリラを見ようと観衆たちは顔をあげるが、あまりに高くて首がこれ以上曲がらないといった様子だ。

 雲にすら届きそうだ。

 だが、ありったけの高度を稼がれた所で、ふとゴリラは落下を始めた。


 「エ、エ、エアァアアアアア!!!」


 落下によって、聞こえてくるゴリラの悲鳴が乗数的に大きくなる。

 俺たちには見えていなかったが、押し寄せる死の予感に、ゴリラの顔は恐怖で引きつっていた。


 そして―――


 バァアアアアアン!!


 ゴリラが地面と激突した。

 高所からの落下でだんだん速度が上昇していって、最後は目視で負えない速さとなっていた。

 衝撃もとんでもなかったようで、とてつもない爆音が轟いた。

 落下につられて、10秒ほど地震が起きた。

 そしてあたりには土煙が舞い、2分ほど消えなかった。

 また、揺れには弱いのだろうか、少年がきつく吐いているようだ。



 「おおおおおお!!」

 「やるじゃん『サイキックボーイ』」

 「その巨体はなんなんだー?えー?」


 土煙が消えた瞬間、地面に倒れた巨体の姿が露わになり。

 観衆の拍手や歓声が絶頂を迎えた―――。



 ゴリラは即死だった。

 高所落下に伴うショック死。

 あれだけの力と身体を持った存在でも、落下死のイメージをここまで与えられてしまえば、ショックは大きいはずだ。


 皮肉なことに、頑丈なはずの胸板がクッション材になって、落下の衝撃で死ぬのを防いだらしい。

 だが、割れずにそのままの形を保っていたのは、硬さを誇示できたという意味では僥倖だったのだろうか。

 あのおぞましい巨体は、今や白目を向いて地面に伏している。



 にしても、あの少年は一体何者なのだ。

 だが、まずは命の恩人に対して、礼を言おう―――




 ―――少年が血を吐いて倒れていた。

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