024ー6 その笑顔を永遠に 6
【修行履歴】
2019年10月30日
①24話を6分割しました。
②文章の訂正をしました。
③主人の思考を表す、表現方法の変更をしました。
【始まりの街。パニエ商館にて】
「翔。これ素敵だよ」
メロがはしゃいで言った。
「メロ。ここは貴族様御用達の上品なお店だ。あまりはしゃぐなよ」
翔がメロをたしなめた。
「ふぁーい」
メロは、ふざけた返事を返した。
「皆さん」
甲高い声を上げて近づいてきたのは、店員だ。
翔は、珍しく笑顔で店員を迎えた。
「やあ。こんにちは」
翔は、今日は、少しめかしいた格好でお店に入っていた。
パニエ商館は、高級衣装、高級雑貨店だ。誰でも入れる一般店だが、それでも高級店にちがいない。
翔は、少し金持ちのふりをして、さらに上のお店に入ってアンジェリーナの情報を掴むつもりだった。
「パニエ商館は、『始まりの街』一番の高級店って聞いたんだけどな……」
翔が残念そうに言った。
翔の言葉に、店員の目が光った。良いカモが来たとでも思ったのだろう。
「はい。はい。当店の最高級の良いものばかりを揃えたところがございます。そちらに案内しましょう」
店員は、チョロく、そう言ったのだった。
「ああ、分かった。連れはここに置いていこう。メロ、イリス、レイラ。悪いがここで買い物でもして待っていてくれ。これを渡しておく」
翔は、そう言うと金貨の詰まった袋を渡した。
店員は、すかさず鋭い目で、その金貨の入った袋を見た。これも店員を安心させるための翔の芝居だった。
翔は、店員を見るとさっきよりもさらに腰を折って、ご機嫌取りをする態勢に入っているのが分かった。金貨の力だ。
翔も営業スマイルを見せた。
「ところで」
「なんでございましょう」
「ここに友達のアンジェが来なかったかい。アンジェのお父様のゾリ伯爵も心配していてね。最近、ここの品を貰ったって言っておられた」
翔は、呟くように言った。もちろん想像で組み立てた話だ。こう言う高級な店は、こちらから情報を開示しないと秘密にするものだ。
「そうです。三月ほど前でしたね。久しぶりにお見えになって当店のカフスをお父上に送られました」
「お父上は、ああ見えてアンジェを心配しているんだ。近況を教えてあげたいんだが」
翔がため息を漏らしながら言った。
「アンジェリーナ様は、お元気ですよ。当店には、それから何度か。あ。そう言えば来週も服の仕立て直しで来店予定ですよ」
翔の目が光った。
「じゃぁ、申し訳無いが、メッセージを渡してくれないか」
翔は、ようやく手掛かりが掴めそうだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【数日後。メッセージを読んだアンジェリーナが接触してきた】
「随分立派になったわね」
道を歩いていた翔に、どこからともなく現れたアンジェリーナが近づいてきて言った。
「アンジェリーナ。久しぶりだな。相変わらず綺麗だな」
翔がアンジェリーナの綺麗な顔をまぶしそうに見て言った。
アンジェリーナは柔らかく笑顔を向けた。
「あの時の、芸人みたいな格好はもう止めたの?」
アンジェリーナが尋ねた。
アンジェリーナは、黒髪に黒い瞳の真面目そうな女の子のままだ。
「こんにちは」
「久しいな」
メロとアメリアが挨拶した。
「新しい仲間ができたようね。皆さん綺麗な人ばかりね」
アンジェリーナが少し驚いて言った。
「それに驚くほどにレベルが上がったわね。でも、そのレベルにしては気が弱いわね。もしかしたらそのレベルで、すでに気の調整が出来るってことは無いわよね」
「まぁ。できるな」
翔が答えた。
「あなた達、あの時ですら飛び抜けていたけど成長速度と言い。なんだか信じられないわね」
アンジェリーナは、翔の言葉に驚きながら言った。
アンジェリーナは、そう言ったが彼女のレベルも凄い。アリスの情報によると。
『アンジェリーナ・ゾリ。レベル63。魔界騎士』
大変なレベルだ。グアリテーロを上回っている。
「アンジェリーナこそ、グアリテーロよりも強かったんだな」
「グアリテーロは使えなかったわ。彼は、強くなりたかっただけなのね。でもそれが目的で壊滅党に形だけ入る者は多いわよ」
「壊滅党に入った冒険者は、どうしてそんなに強いんだ?」
「先生がマジ厳しいのよ。冒険者ギルドは、生温いのよ」
────まぁ、そういことか。
翔は、笑い出しそうになった。
「わざわざ出てきて貰ってすまないな。グアリテーロは、レベルの書き換えをしていたよな。あれはグアリテーロの特別な技か何かなのか?」
「ああ。あれはそう言うアイテムがあるのよ。レベルを下げるアイテムって言ってたわね」
「そんなアイテムが」
「何言ってるのよ。レベルやステータスを上げるアイテムは良くあるじゃない。あれは表示とかオーラとかのレベルを下げるアイテムよ」
何でも無さそうにアンジェリーナが言った。
「どんな仕組みかは分からないわ。レベルを下げる事に需要なんて無いと思うんだけどね」
「それはグアリテーロが持っているのか?」
「そうよ。あのアイテムは、持ってる人の側にいるとレベルが低く見えるアイテムだったわ」
────そんなアイテムが.......
「それで、グアリテーロは今、どこにいるか分かるか?」
「やっぱりそのことなの? いくら裏切ったとはいえ、あなた達に昔の仲間の秘密を暴くとでも?」
「俺は、天使レリエルって奴と仲が悪くてね。あまり目立ち過ぎると消されるのさ。そんな訳で、グアリテーロのそのレベルを下げるアイテムが欲しいのさ」
「アイテムが目的なの? 仕返しはしないの? 信じられないわね。身包み剥がされちゃったんでしょ?」
アンジェリーナが不思議そうに尋ねた。
「グアリテーロには、いい感情は無いな。しかし本気で復讐したいかと聞かれればそんなバカバカしい事はする気になれないな。本当にアイテムの魔法術式を知りたいだけさ」
「本当に貴方は分からない人ね。まぁいいわ。彼は、複雑な家庭に育ったのよ。だから家出をして壊滅党に入ったのね。故郷は、夢燦河って南国の島国よ。そこの王は、グアリテーロの叔父さんだって言ってたわ。私達の呼び方だとフェロモン島ってところよ。彼は実力、女、お金を手に入れて故郷に帰ったんだと思うわ。
グアリテーロによろしく言っといてね。一緒に世界を創り直したかったって伝えてね」
「お前は、地位も実力も金も美しさも全て持っていてそれでも世界を滅ぼしたいのか?」
翔が興味本意で尋ねた。
「皆そんな感じで聞いてくるわね。私達は、か弱い人間よ。私のレベルが高いと言っても60そこそこじゃない。人間は寿命が短くか弱い。闇雲に冒険者なんて、しているには人生は短いわ。私は強くなりたくって壊滅党に入った。そこはグアリテーロと同じよ。ラグナロクなんて、いつ起こるか分からない未来の事よりも今の自分達がどう生きるかって方が大切だわ」
「闇クランの理念だとかは、俺には、高尚すぎる。しかし、平和を守るために戦争するとか、自分達の主張を聞かない奴らは皆殺しにするとか、そんな危険思想に陥っていることはないのか」
翔は、一抹の不安を口にした。
「馬鹿ね。どんな組織にでも過激派も穏健派もいるものよ。私は悪魔とか天使とか、名前にこだわらないだけよ」
────ふーん。俺と考え方はそっくりじゃんか。
翔は、思った。アンジェリーナは、至って健康な考え方のようだ。
「貴方こそ、馬鹿の一つ覚えのように神様神様って敬っていたら利用されてポイ捨てされるだけよ」
アンジェリーナは、ゴミを捨てる真似をして見せた。その仕草が可愛い。
「俺は、神様も天使様も魔王様も王様も貴族様も俺以外の他人様に何の期待もないがね。
お前達は、何かに期待しすぎるんじゃないか? お前は、何の関係もない赤の他人に親切すぎるんじゃないか。そのおかげでグアリテーロの居場所は分かったが。
しかし、それは、裏返せば自分の大切な人を構ってやる時間や資源を浪費するって事なんじゃないのか? 目の前の大切な人だけで手一杯なのが普通だろう」
父親や家族を捨てて活動に没頭するって言うのは翔には、理解できなかった。
「貴方のように自由に生きている人には、貴族の娘の不自由さは分からないのよ」
アンジェリーナは、翔から視線を外して言った。彼女も家族の事を心配しているのだろう。
────それはアンジェリーナの言う通りだろう。アンジェリーナの父親は、何かと口うるさい父親のようだった。面倒臭いことも多かったろう。
「まぁ、そうだな。家族なんてものはデリカシーの無い、どうにもならん奴らかもな」
翔は、アンジェリーナの言葉を軽く受けておいた。
「アンジェリーナは、闇クランの幹部とか言われて手配書が回ってるみたいだぞ。ここは危険だ。気をつけろよ。それと、これはお礼だ」
翔は、魔法で作った髪飾りを渡した。捨値でも金貨三十枚にはなるだろう。
アンジェリーナは髪飾りを受け取って、しげしげとそれを眺めた。
「貴方は本当に天才クリエーターね。こんなのは見た事がないわ。有難く頂いておくわ」
「ああ。それと、親父さんがいつでも帰って来いって言ってたぞ」
翔がゾリ伯爵の寂しそうな顔を思い出しながら言った。
アンジェリーナの顔に動揺が走ったがそれは一瞬だけだった。
「あまり家族に迷惑かけないでね」
口調が少しきつくなった。
「ああ。とっておきの剣をお礼に渡しておいた」
翔はゾリ伯爵に渡した剣を魔法で出した。鞘から刀身を少し出してアンジェリーナの顔に近づけた。その刀身にはアンジェリーナのレリーフが入っていた。
アンジェリーナはその剣の見事さに目を見張った。口が、少し半開きになった。
「美しい剣ね。お父様はきっと喜ばれたでしょう」
「ああ。ついでだこいつも持っといてやれ。こいつを抜いて、とっておきの笑顔をこいつに向けてみろ。そうすればお前の、そのとっておきの笑顔をこいつが真似をする。それがゾリ伯爵の刀身にそのまま映るようにしてやろう。伯爵はそれを見て少しでも心が慰められるだろう」
翔は、そう言うと剣の大きさを変えて短剣にし、そのままアンジェリーナに渡した。
アンジェリーナが慌ててそれを受け取った時には、翔は歩き出していた。
「じゃ。アンジェリーナ。達者でな」
一人、取り残されたアンジェリーナは、じっと渡された短剣の刀身を見つめていた。短剣の刀身には子供の様に少し涙目になったアンジェリーナが写っていた。
それは、今アンジェリーナが刀身に向けていた顔だ。アンジェリーナは、ハッと我に帰ると刀身に向けて、とっておきの笑顔を向けた。その笑顔が父親の元に届いてくれと望む様に。
024 了
ただのモブのつもりだった。女の子、アンジェリーナが勝手に踊りだしたました。物語を作っていて一番の楽しみでもあります。今後、アンジェリーナは、どんな風に活躍するのか楽しみです。
ちなみに、名前の違和感はごめんなさい。ゾリはあんまりでした。適当に付けてしまって、後悔です。ごめんなさい




