020ー6 繰り返しの意義
【修正履歴】
2019年9月29日
○第20話を6分割しました。
○分りにくい表現を訂正しました。
○少し加筆しています。
○主人公等の思考を表す表記の方法を以下のように変更しました。
(主人公等の思考)
↓
────主人公等の思考。
なお、この変更は、順次行っています。
表記がしばらく混在しているので、お許しください。
【戻りの道中……第五十八層……さらに上層へ】
翔達は第九十九層まで攻略したので今度は第一層を目指して、道をとって返していた。
これは、最下層第百層にある魔精結晶を大きく育てるためと、戦女神ブリュンヒルデから命じられた事だ。
そして今、ようやく第五十八層まで戻ってきたところだ。戻りは楽に帰れると翔達は、楽観していたが、それは甘い考えだった。
この戻りの道中に置いても、何度も何度も攻略に失敗して復活しなければならなかった。
各層のチャレンジ回数は確かに減ったが、まだまだ効率よくレベルアップできるほどの余裕はなかったのだ。
死の恐怖は回数が増えるに従って、より大きくなっているのではないかと思われた。
全く慣れるというような事はなかった。
ちなみに第五十八層は、トカゲ系の魔物達の層だ。行きに一度、今回で二度目のトライのはず。
しかし不思議な事に、一度目の攻略の記憶がなかった。恐らく、力技で押し切り、それが奇跡的に上手く行って攻略できたが実際は巧妙に仕組まれた難しい階層だったと言う事だ。
メロは、どういう訳かトカゲ系の魔物が気に入り、最近は火炎蜥蜴、火炎大蜥蜴などの魔物を操るようになっていたが、どうやらメロには、ドラゴンへの憧れがあるようだった。どこまでも厨二病な奴だと面白い。
同士討ちは、可哀想とでも思ったのか、メロはこのトカゲの層では別の精霊を呼んでいた。
木の妖精、トレントだ。ユグドラシル世界では木は特別な存在だ。なのでトレントも神聖視されている。
そんな魔物を操るのは、どうかと翔も言ったのだが、めろは人の忠告など完全に無視することが多い。
「木は、ユグドラシルから特別扱いされる。だけら木の妖精はとても有効」
とメロは主張した。
確かにそうだが、外見が世界樹に似ているのだから、そんな魔物をこき使っていたら周りから何を言われるか分からない。しかしメロにそんな常識は通用しない。しかもトレントはメチャクチャ強かった。
────こいつやけに使えるじゃん。
翔は、呆れて思った。
そんな具合に戻りの道中も一進一退のスロースピードで何度も死んでは復活を繰り返しつつ迷宮を進んだのだった。
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【第一層。もう一度、迷宮の深層へ】
そして第一層に辿り着いた。しかしまた逆転して迷宮を潜らねばならない。こうして二度目のチャレンジを開始した。
迷宮二度目のチャレンジは、慣れや、あるいは、かなり強くなったので、もっと簡単に攻略できるようになると思っていた。しかし、そうとは言えず、それほど一回目と変わりなく、頻繁に殺された。
良くもあんなに弱かったのに、一度目のクリアができたと翔は我ながら感心した。
一回目よりも、単純ミスが多かったため、復活障害は、逆に厳しい物となっていたぐらいだった。
さらに、死の恐怖が増し、死ぬ事がどんどん恐ろしくなった。こうして翔達は、次第に一回目のチャレンジよりも、より慎重に進む事を学んだのだった。
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【第九十九層、二往復目。第一回目のチャレンジ】
『始まりの部屋』を出るとお馴染みの光景だった。広大な水晶の広間に無数の魔物の群れだ。
前と違うのは、翔達が現れるや否や総攻撃が始まった事だ。フロアボスが変わったため、戦術が変わったようだ。
「性急だな」
翔は、偉そうに感想を述べた。
翔は、その場に立ち止まって、襲いかかる無数の魔物を躊躇なく屠って行った。足元には魔物の死骸が積み重なり山となって行った。迷宮の魔物の処理が追いつかない程の死体の山だったのだ。
翔達は、その山に登って襲ってくる敵を屠って行った。
瞬く間に魔物が屠られていった。
相手からの断続的な攻撃は翔達には手軽い闘いだった。やはり新米フロアボスは巨鬼のベニベドルに及ばない様だった。
さすがに、新ボスも翔達の闘い方から、戦術が必要だと学んだのだろう。
最後には無数の魔物が一度に翔達を襲った。こうなると手がない。翔達は善戦するがあえなく敗戦した。
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【第九十九層、二往復目。第十三回目のチャレンジ】
この層の無数の魔物との闘いは、ベニベドルの時もそうだが、運が一番重要だった。ある程度実力差はあっても多勢に無勢では殺される確率が高くなるのだ。
ベニベドルの時よりも、かなり頑張れるようになったとは言え、なかなかフロアボスにまで辿り着けるものではなかった。
ようやくフロアボスにまで辿り着けたのは、チャレンジ十三回目だった。ベニベドルの時が四十二回目だから、かなり善戦したと言えるだろう。
「そろそろだろう」
魔物がほとんど退治されたのを見回してアメリアが言った。
「ベニベドルの二代目はどんなやつだろうな」
翔は、魔物を叩きのめしながらメロに尋ねた。
「また巨鬼なんでしょ」
メロは、軽く答えた。
「ベニベドルはそう言っていたが、見渡したところ、巨鬼はいないみたいだぞ」
アメリアが言った。
「こんにちは」
三人の会話を遮った者がいた。
『黒悪魔。レベル29。【弱点】特になし。【特徴】色付き下級悪魔最強の黒種。第三グレードの魔法を使う。厄介な魔物』
「お前がベニベドルの後釜か?」
翔が尋ねた。
「厄介な奴を追い払って貰って助かりました。奴はこの水晶迷宮に君臨していましたからね。あるいは迷宮のラストボス以上に強かったかもしれません。僕の将来構想の実現を阻む大きな壁だったからね」
黒悪魔が答えた。
「お前は、第三グレイドの魔法を操るのか?」
翔が面白そうに聞いた。
「ああ。私の今のレベルは29に過ぎないが、魔法ならレベル35ぐらいの魔法は操れるんじゃないかな」
黒悪魔は、自慢気に言った。
どこかで見たような態度だが、翔は黒悪魔がバカに見えて仕方がなかった。
翔達は水晶迷宮に入り、レベルを度外視して闘い続け、ようやくレベル13になっていたが、また大幅に下がるかもしれなかった。だから自分の実力はレベルよりも高いとか、低いとか、そんな事は意味がなく、この迷宮の魔物に圧勝できる実力が欲しいだけだ。
「お前は、まだまだだな」
翔は、嘲るように言った。
黒悪魔は、ムッとしたように一瞬黙り込んだ。
「どう言う意味か聞かせてもらえるかね」
黒悪魔は、少しでも自分を大きく見せたいのだろう。背筋を必要以上に伸ばして聞いた。
「お前は、自分のレベルよりも強いつもりだろう。それがお前の弱さの証だ」
翔は、淀みなく言い放った。
「何を戯言を。低レベル冒険者のくせに。私をただの力自慢の巨人といっしょにするなよ」
「やってみればわかる事だ」
翔は、そう言うと、闘気をみなぎらせた。
見ると黒悪魔は、最初に魔封じの魔術を発動させた。
────発想は、悪くないな。
翔は、その魔法が発動する前に、黒悪魔に分からないように、こっそりと黒悪魔の魔法陣に手を加えた。
黒悪魔の魔法が発動し、魔法が翔達に降り注いだ。
アメリアとメロは、何も知らず、黒悪魔の魔法を耐えるために、懸命に闘気を強めていた。
翔はさらに、黒悪魔の意識を逸らすフェイクとして、黒悪魔の派手なだけのなんの効果も無くなった魔封じの術式を、あたかも効果があったかのように見せるための魔法を放った。
黒悪魔の魔封じよりわざと一瞬遅れて、発動させ、翔の放った魔法は、発動しそうになるが、何かの力に阻まれたように消えて無くり、翔に魔法が跳ね返されたように爆発させたのだ。
翔は、悲鳴を上げて、派手に魔法に当たった演技をして見せた。
あまりにもわざとらしい下手くそな演技に、さすがにメロとアメリアは翔の意図を察知したようだった。
全ては翔の演出だが黒悪魔は、その様子に満足したようだ。
翔が、黒悪魔の魔封じに施した術式の改ざんは、実は跳ね返すベクトルを逆にする事だった。
本来の魔封じは、敵の攻撃魔法を封じる魔法だ。
翔達が魔法を放っても、その魔法は効果が強められて術者自身に跳ね返されてしまうが、黒悪魔側からの魔法は、強化されて翔達に当たると言う、攻撃が一方通行になって強化されるというな魔法だった。
翔は、その一方通行の方向を逆にしたのだ。しかも魔法を強める術式を何倍にも強めるように改ざんしたから大変だ。
もし、翔達から魔法を放つとすると、それは方向はそのままに魔法が強化されて放たれる事になり、黒悪魔からの魔法は、効果が強められたうえに、跳ね返されると言う全く別の魔法になっていた。
次に翔は、わざとゆっくりと魔法の術式を示す魔法陣を空中に出現させ、わざとらしくその魔法陣を回して見せた。そうつつ黒悪魔の様子を見た。
黒悪魔は自分の魔封じが効いていると勘違いしているので余裕で翔の魔法を見ていた。
黒悪魔は、おもむろに第三グレイドの攻撃魔法、火炎旋風を構築しはじめた。
翔達が魔法を放つと同時に、自分も魔法を放とうと言うのだろう。
翔でもそうするだろう。
自分の魔法と相手の魔法の発動する瞬間を合わせ、翔達を攻撃すれば翔達のダメージは、相当な物になるはずだった。
翔の合図で、メロとアメリアも魔法を構築し始めた。見るとメロが火炎放射、アメリアが弾雨の第二グレイドの魔法のようだ。翔を真似て、グレイドを少し下げたのだ。絶妙なコンビネーションと言えるだろう。このグレイドなら黒悪魔は、大した防御魔法を使わないだろうと考えてのことだった。
第三グレイドの魔術師の黒悪魔に、第二グレイドの魔法を放つのは、普通なら愚かな行為だ。魔法耐性の強さは放つ攻撃魔法と同程度なのだから。
翔の予想の通り、黒悪魔は第二グレイドの魔法を見ても、翔達の事を侮り何の対処もしなかった。もちろん、翔達が放つ魔法は、翔達自身に跳ね返されると確信もしているのだろう。
翔、メロ、アメリアの三人は、ほとんど同時に、魔法を完成させ発動した。
その時になっても黒悪魔は、自分の魔封じの有効性を疑わず、翔達の魔法が第二グレイドの魔法だと思い、安心して自分の魔法を放っていた。
その結果、翔達の第二グレイドと思っていた魔法が強化され反射もされず、自分が放った魔法は逆に強化され自分に向けて跳ね返されたため全部で四つもの予期せぬ強力な魔法を同時に受けてしまうと言う悲惨な事になってしまったのであった。
☆
「翔。フロア攻略成功だね」
アメリアが嬉しそうに言った。
「ああ。しかしまだ二往復目の真ん中。クリアー条件のようやく折り返し地点だ。気を引き締めて行くぞ」
目の前に百層目があるのに行けない。もどかしいものだ。後ろ髪が引かれる思いであったが上層階に向かう翔達だった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【第九十九層、三往復目の第一回目のチャレンジ】
翔達は、戦女神のブリュンヒルデがなぜ三度往復させようとしたのかについて、ここに来てその意図が初めて分かるような気がしていた。
一度目は、なにがなんとしても頑張れる。しかし、無茶をしガムシャラにクリアするのだ。
二度目は、効率を考えるようになるが大きなミスや不注意が命取りになることが学べる。
三度目の迷宮攻略では、自分達の欠点が、さらけ出されることが分かった。
しかも復活の回数が最も少なかったことから三度目が一番実力がついた。ステータスの上がり幅が著しい。
同じ迷宮を三度も往復するのはそう言う意味があるのだと知ったのだ。
しかし、迷宮の魔物達はまだまだ強く、翔達は、簡単に制圧できる程には、まだ強くなってはいなかった。何度も死に、何度も復活してようやく三度目の九十九層にたどり着いたのだった。
「ついに百層へのチャレンジだ」
翔は、メロ、アメリアに宣言するように言った。
メロとアメリアも力強く頷いた。
○翔
レベル13【5UP】
実力レベル27【6UP】
ユグドラシル魔術の奥義、闘気を修得。巨鬼に剣技を習い技に磨きをかける。小手先の小技を使える技量にまで昇華させて、様々な応用ができるようになった。理論派から実践派に。
○メロ
レベル14【4UP】
実力レベル26【6UP】
ユグドラシル魔術の奥義、闘気を修得。
魔術杖を使った武術を習い戦場での戦闘力を大幅に上げた。自分よりもレベルの高い魔物を使役できるようになる。
○アメリア
レベル14【4UP】
実力レベル26【6UP】
ユグドラシル魔術の奥義、闘気を修得し、剣技に磨きをかける。巨鬼から剣の奥義を伝授される。剣による大技も修得して範囲攻撃に多彩さが出てきた。
020 了




