020ー5 ネームド
【第九十九層。第四十二回目のチャレンジ】
眼前の巨鬼は、ただの魔物ではなかった。
人間と遜色ない理知的な佇まい。そして、絶望的なまでの実力差。
「お前たちの戦い方は単調で退屈だ。素人のそれだな」
低く響く声で放たれた批評に、翔は臆することなく聞き返した。「何がダメなんだ?」
驚くべきことに、その巨鬼――ベニベドルは、翔の問いに真摯に応えた。
披露されたのは、七つのフェイント、返し技、カウンター、そして大技。その華麗な演武に、一行は言葉を失う。
強くなるためなら魔物からでも学ぶ――翔のその執念と覚悟に免じ、ベニベドルは「剣の講義」を買って出た。
迷宮の外から迷い込み、三百年の時をこの最下層で過ごしてきたベニベドル。彼にとっての迷宮は、退屈という名の牢獄でもあった。
始まったのは、三者三様の厳しい修行。
アメリアは剣術の神髄を、メロは魔法杖による打撃の真理を、そして翔は金棒の扱いにおける基礎の重要性を叩き込まれた。
☆
六十日に及ぶ修行の末、別れの時が訪れる。
「飽きてきた。ワシはここを去る」
ベニベドルはあっさりとフロアボスの地位を捨て、自由の身になることを告げた。
翔は感謝の印として、彼の古びた剣に創造魔法と付与魔法を施した。ミスリルとアダマンタイトの超合金へと鍛え直され、自動修復と攻撃・防御・魔法耐性強化が刻まれた至高の一振り。
「これはありがたい。感謝するぞ」
満足げに微笑んだベニベドルは、『脱出』の魔法でいずこかへと消え去った。
「翔。ベニベドル行っちゃったね」
寂しがるメロを抱き寄せ、三人は永遠の絆を再確認する。
規格外のネームド・モンスターとの出会い。それは、迷宮という過酷な試練が三人に与えた、最大の報酬だったのかもしれない。
ボスの消失により、フロア攻略の条件は満たされた。
三人は、ベニベドルから授かった「技」と「心」を胸に、ついに迷宮の最深部へと足を踏み出す。
お読みいただきありがとうございました!
最下層で出会ったのは、最強の敵にして、最高の師。
ベニベドルとの奇妙な師弟関係を経て、三人は戦士として、そして人として一回り大きく成長しました。
「俺たちは永遠に仲間だ」
絆を深めた一行の前に、ついに迷宮の本当の終わりが見えてきます。
規格外のボスが去った第99層。
その先に待ち受ける、迷宮の「真実」とは!?
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