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欠陥だらけの天才魔術師(副題:天災魔術師になった天才魔術師はスローライフを生きて行けるか?)  作者: Seisei
第一章 レベルアップ編

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020ー5 ネームド

【修正履歴】

2019年9月29日

○第20話を6分割しました。

○分りにくい表現を訂正しました。

○少し加筆しています。

○主人公等の思考を表す表記の方法を以下のように変更しました。


(主人公等の思考)

    ↓

────主人公等の思考。


なお、この変更は、順次行っています。

表記がしばらく混在しているので、お許しください。

【第九十九層。第四十二回目のチャレンジ】


 巨鬼トロールは、ニンマリとほくそ笑んだ。


 一般的にある程度以上の巨体で角が生えた生き物をトロールと一括りで呼ぶようだが、このトロールは、見た目も人間的で、スタイルも良く体型が大きいだけで人間と大差が無かった。


 一目で唯の巨鬼トロールではなさそうだと分かる。


「お前な。いつかは絶対やっつけてやるからな」


 翔は、巨鬼トロールの態度に頭に来て叫んだ。


「小さき者達よ。ずっと見ていたが、お前達の闘い方はなっていないな。しかし、自我流としては、それなりにイケているよ」


 驚いた事に、トロールは翔達の闘い方の批評を始めたではないか。恐ろしく低く響く声だった。


「何がダメなんだ?」


 翔は、素直に聞き返えした。


 翔のその反応を見たアメリアは、呆れて翔の顔を見ていた。敵に教えを乞うなど考えもしなかったからだ。


 しかし、さらに驚いた事にはトロールが、翔の質問に答えた事だ。


「お前達の闘い方は単調で退屈だ。技も無くフェイントも遊びも緩急の差もない。素人の戦い方だな」


 トロールは馬鹿にする訳で無く、淡々と事実を述べるかのように言った。


「技にトリッキーな罠をしかけろとでも言いたいのか?」


 翔が更問いをしたのでアメリアは、彼の不思議なしぶとさに少なからず感動の感覚を味わっていた。どうやら翔は真剣に敵から教えを乞うつもりのようだ。


 しかも更に驚いたことに巨鬼トロールは、翔の質問に素直に従うでは無いか。


「百聞は一見にしかず。いくつかのバリエーションを見せてやろう」


 巨鬼トロールは、そう言うと剣技を披露し始めたのであった。


 七つのフェイント技。七つの返し技。七つのカウンター技。そして七つの大技だった。


 巨大な鬼が華麗に舞った。美しい技に翔達は、ただただ見入ってしまった。


「鬼さん。凄い。凄い」


 メロは、手放しに褒め称えている。


 アメリアは、それどころじゃなかった。巨鬼トロールのあまりにも素晴らしい剣技に完全に度肝を抜かれてしまったのだった。


「勝てる気がしない」


 とアメリアは、ポツリと呟いた。


「しかし、お前を何とかしないと次に行けないんだろう?」


 翔は、そう言いながら巨鬼トロールの披露した技を真似てやってみた。しかし、直ぐに出来るはずもなかった。


「ははは。猿みたいだな」


 巨鬼トロールが翔の格好を見て笑った。


「翔。敵に教わるとは戦士の誇りは、無いのか?」


 アメリアは、もはや呆れてそう突っ込んでいた。


「強くなるためだったら魔物からでも教わることに躊躇は無いぞ」


 翔は一瞬不思議そうにアメリアの顔を見てから、キッパリと言った。


「それは見上げた覚悟だ」


 巨鬼トロールの方が、今度こそ感心したように言った。


「よし。そのいきに免じて剣を伝授してやろう」


 巨鬼トロールは、何だか嬉しそうに言った。久しぶりに話ができて喜んでいるようだ。次にメロとアメリアに視線を移す。


「お前達は魔物の俺から剣を伝授されるのがそれほど恥ずかしいのか?」


 巨鬼トロールは、澄んだ目でメロとアメリアを凝視しながら言った。


「お前が、悪逆非道な魔物でないなら何も問題はない」


 アメリアは、言い訳をするように言った。


「お前達からすれば、俺は悪い生き物なのかもしれん。冒険者であろうが、エルフであろうが、腹が減れば襲って食べる。しかし、それはお前達も同様だろう。我々も同胞は食べないし、よほどでなければ我々と似た生き物である人もエルフも餌にしようとは思わぬ」


 巨鬼トロールは、そう言うとカラカラと豪快に笑った。彼の意見は最もだった。人間の命のみ大切だというのは明らかにおかしい。


 それを聞いたアメリアは一瞬黙り込んで巨鬼トロールの意見を噛み締めるように考えた。


 まずアメリアは目の前のトロールが、迷宮に潜む魔物であると言うことで敵認識してしまっている事に気づかされた。なによりも水晶迷宮に入ってあまりにもたくさんの魔物と死闘を繰り広げたため、迷宮の魔物が絶対の悪になっていた。


 なによりも迷宮の魔物は、消滅しても直ぐに復活するので目の前に現れたら直ぐに退治するものだと思い込んでいた。


 そんな迷宮の魔物から話しかけられるのも、ましてや教えを授けられるのも想像の枠を飛び抜け過ぎていて直ぐには反応できない自分がいた。


 しかし、こうして改めてコミュニケーションを図られてみると、目の前の亜人とドベルグやエルフなどの亜人とに一体どれほどの差異があるのか疑問に感じてしまう。


 そこまで考えてみてアメリアは認めざるを得なかった。


「お前のその主張は最もだな。考えるまでも無く私の考えが浅かった。友誼を示してくれる知的な生き物を理由なく差別するような真似をしてしまった。申し訳ない。改めてご教授願えるだろうか?」


 素直に、アメリアは謝っていた。


「私は翔と一緒で問題ないよ」


 メロの答えは、単純だった。翔のやる通りにやる。色々考えるのが面倒臭いのだ。


「よし。では少しの間だが剣の講義をするとしようか」


 巨鬼トロールは、愉快そうに言い放つのだった。大きな声だった。



 巨鬼トロールは、ベニベドルと言う名だという。この迷宮の九十九層のフロアボスになって三百年が経つと言う。


「どうして俺達に剣術を教える気になったんだ?」


 翔は、改めて尋ねた。


「迷宮は、確かに魔物に住みやすい環境だ。魔力が豊富だし、餌は自然に発生してくるからな。しかし、俺のように知能の発達した魔物には、過酷な場所でもある」


「どういう意味だ?」


「退屈なのだ」


 そこでようやく翔は納得した。


「俺達が退屈しのぎに良かったと?」


「なにも無いこの迷宮の生活はただ、魔物を喰らうだけの毎日だ。稀に俺様の地位を欲する強い魔物が来ることもあるが、退屈しのぎにもならずに俺様に屠られるだけだ。各層のフロアボスですら、俺様と比べると話にならん」


 ベニベドルの話では、彼はもともと迷宮の外の魔物だった。迷宮に迷い込んで今の強さまでになったらしい。戦いを楽しみ次第にレベルを上げてこの最下層のフロアボスになったらしい。言うなら翔達の遥かな先輩だった。


「今のお前達では、俺様には何回挑戦しても勝てないだろう。退屈しのぎにもならんからな」


「しかし、俺達が強くなればお前を殺すかもしれないのだぞ」


 翔は、理解に苦しんで指摘した。


「心配するな。もしもの時には俺様は復活魔法も操る事ができる」


 ベニベドルは、そう言うと大きな声で哄笑した。、



 それから厳しいベニベドルとの剣術の稽古が始まった。


 迷宮には、時間の概念が無い。日光が届かないからだが、この九十九層だけは別だ。外の光が水晶を伝わって大空洞に注がれているためだ。


 翔達は六十日間をかけて剣を教わった。ベニベドルの頭の中に翔達の各人に、どのように剣術を教えるかのシュミレーションが成り立っていたのだろう。


 三人三様にベニベドルは剣術を教えた。


 アメリアは、もともと剣術を習ったことがあったため剣術の覚えも早かった。基礎から応用、変化技、返し技、カウンターと進み最後に大技へと次々に修得して行った。


 メロは魔法杖マジックロッドによる効率的な打撃方をみっちりと教え込まれた。メロは、もともと運動神経が良く見た目以上に素早い。この三か月の修行で、彼女の物理攻撃が最も著しく成長していた。


 もともと、魔法杖マジックロッドは、丈夫で、それなりの重さもあるなど打撃向きな武器なのだ。


 マジックロッドは見た目が綺麗なので攻撃向じゃないと誰しもが考えるが実際には剣にも勝る打撃武器なのだという事をベニベドルはメロに叩き込んだのだった。


 翔のトリッキーな武器の形状を変化させる攻撃について、ベニベドルの評価は「面白いだけ」だった。


 実際、ベニベドルには、翔の武器の変化技は全く通用しなかった。素人の面白ショー的な見た目の派手さはあっても、真の達人には通用しないとの評価だった。


 翔は、改めて金棒の扱い方を大幅に改善しなければならない事に気付いた。そのためにもベニベドルの剣術を習うことは有意義であった。


 六十一日目の朝が訪れた時、ベニベドルが翔達に告げた。


「そろそろいいだろう。こうしていることに飽きてきた。ワシは、ここを去ることにする。最後にお主達のような前途有望な戦士に我が技を伝授できて本望だ。俺の教えをさらに発展させて、もっと強くなってくれ。俺はここを去る」


「そうか、寂しくなる」


「心配するな、俺の後釜は俺によく似たトロールになるだろう。恐らくこの迷宮には相応しく無いほどの使い手となるだろう。頑張るだな。ではさらばだ」


 ベニベドルはそう言うと魔法の術式を構築し始めたので翔が慌てて止めた。


「待て。俺からも些細だが礼をしたい」


 翔は、そう言った時、メロとアメリアが飛空術でベニベドルに近づいて行った。


「ベニベドル。ありがとう。勉強になった」


 メロは、ベニベドルの腕に手を回してハグしながら言った。


「お主のような凄い剣士に教わった事を誇りに思う」


 アメリアもメロを真似てベニベドルの腕をハグした。


「俺は、錬金術や魔法付与などが得意でね。礼として、お前の武器を少しばかり豪華にさせてもらおう」


 翔はそう言うと、ベニベドルの古びた汚い剣をベニベドルの大きさに適合した大きさに調整するため創造魔法を発動した。さらにその剣の材質をミスリルとアダマンタイトの超合金に変更した。そして、鞘には美しい豪華なレリーフや、宝石を散りばめたのだった。


 ベニベドルは、剣帯が見る見る重くなるので、目を大きく見開いて驚いていた。


 そして、興味深々といった顔で剣を抜くと、美しくなった剣を見つめた。


 それから翔は、剣に防御力と攻撃力の強化と魔法耐性強化、最後に自動修復の付与魔法をかけた。


 みるみる剣が魔法力を持ち、魔法の輝きを示し始めた。


「これは凄いな。我が剣は昔、悪魔より奪いし剣。俺には小さかったが仕方なしに使っていたのだ。これはありがたい。感謝するぞ。いつかこの剣の礼ができれば良いな。では今度こそさらばだ」


 ベニベドルはそれだけ言うと翔達に手を振ると『脱出ファーガ』の魔法を唱えて消えてしまった。


 アッサリしたものだった。ベニベドルほどの剣士が迷宮で何百年も燻り続けていたのがおかしいのだ。


 何百年も、魔物を相手に、剣を磨いたベニベドルは、自分が会得した技を、翔達に伝授したかったのかもしれない。


 ベニベドルにしてみると、ただの退屈凌ぎだったのだろうが、迷宮のフロアボスの地位を捨ててどこかに去って行ったのは、翔達への気遣いに違い無かった。


 何しろ彼には、どうやっても勝てそうに無かったからだ。強すぎるボス。ここは、完全にゲームバランスが崩れ去っていたと言うべきだろう。


 恐らく、この迷宮が誰にも攻略されずに放置された期間が長すぎたのが原因だろう。


 女神ブリュンヒルデも、こんなイレギュラーまで知らなかったに違いない。


「翔。ベニベドル行っちゃったね」


 メロは、寂しそうに言った。


「ああ。別れは寂しいもんだ。会者定離えしゃじょうりと言って出会った者とは必ず別れるもんだ」


 翔は、偉そうに教訓を垂れたみせた。


「私は、翔ともアメリアとも別れないもん」


 メロは、プックリと頬を膨らませて言った。


常離じょうりとは死んで別れるって事で……」


 翔がそこまで説明した時、メロの顔がとても悲しそうなのを見て野暮な話は止める事にした。


「そうだな。俺達は永遠に仲間だ」


 翔はそう言うと、メロとアメリアの両肩に手を回して引き寄せた。


「ああ。メロ。ずっと一緒だぞ」


 アメリアもメロの肩を抱いて丸い円になった。


 ようやくメロがいつもの明るい笑顔に戻った。



 ベニベドルが消えると。フロア攻略の条件が整ったようだった。


「なんとも不思議なフロアボスだったな。彼がここを今後も守っていたら、俺達は一歩も前に進まなかっただろうな」


 翔は正直な気持ちを述べた。


「ベニベドル。格好良かったね」


 メロは、それに答えて言った。


「おかげでずいぶん参考になった。恐ろしい剣士だったな」


 アメリアもベニベドルの恐ろしい剣技に、背筋が寒くなった。世の中には、凄い魔物がいるのだと本当に感心した。


────ああ言うのをネームドって言うのだろうな。


 翔は、ベニベドルをゲームに喩えて、強すぎる敵に苦笑が出た。


「あの魔物は、まだまだレベルアップするな」


 翔は、呟くように言ったのだった。

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