018ー1 フリンツ・フェステン公子様
「メロ。前に呼び寄せた犬ころのクーシーじゃなく、今度は馬の妖精で足の速い奴を呼び寄せられるか? ちんたら歩くのも、あの背中に乗るのも懲り懲りだ」
翔がそう言ったのは昨日のことだった。メロは精霊魔法を展開し、すぐに応じた。
「分かった。出でよ! 最強の走者アハイシュケよ」
出現したのは、三頭の巨大な魔獣。人喰い馬と呼ばれるアハイシュケだ。全身は漆黒で、瞳だけが赤く燃えている。
翔は【錬金魔法】で背中の皮を座りやすい鞍の形に変形させ、さらに【付与魔法】で衝撃を和らげる処置を施した。乗り心地は決して良くはないが、速度は断然に速い。
「この速度なら二日もあれば『試練の間』に戻れるな」
高速で遠ざかる景色を見ながら、翔は並走する二人に声をかけた。
アリスの助言に従い、一行は超初心者向街道へと入り、逆走を開始する。
驚いたのはメロの適応力だった。初めての乗馬のはずが、派手な衣装をなびかせながら、暴れ馬として知られるアハイシュケを易々と乗りこなしている。その美しいコントラストに、翔も思わず見惚れてしまった。
☆
街道を突き進む中、前方から騎乗者のパーティーがやってくるのが見えた。アリスから「下りが道を譲るのが習わし」と聞いた翔たちは、道端に避けて先方を待つ。
やってきたのは八名の立派なパーティー。先頭に立つのは、黄金の髪をなびかせた貴公子、公子フリンツ。
『フランツ・クリストファー。Lv25。魔法騎士。クラン“F旅団”。パーティー“Fとお供”』
その一行の最後尾から、聞き覚えのある声が響いた。
「……翔じゃない?」
声を上げたのは、『始まりの街』で世話になった貴族の少女、イレーネ・ハウザーだった。
「こんな所で会うなんて。あなたたち、やっぱりこっちの正規ルートに変えたの?」
駆け寄ってきたイレーネに、翔は苦笑いで返した。
「いや、あえなく殺られて復活した帰りさ。初戦の『試練の間』で強い女剣士に一撃でやられちまってね」
復活早々に復帰したという事実に、イレーネは呆れ果てた様子だった。メロとのいつもの軽口の叩き合いを見て、「相変わらずね」と笑う。
そこへ、先頭にいたフリンツが割り込んできた。
「イレーネ、私にも紹介してくれるか」
イレーネが「噂の『賢人会』の皆さんです」と紹介するが、フリンツは必要以上に顎を撫で、尊大な態度を崩さない。
「余には、酷く疲れた低レベル冒険者にしか見えんがな」
翔が「復活障害でLv7に下がった」と説明すると、フリンツはさらに鼻で笑った。
「それで余の前でも平然としていられるのだな。……いいか、さっさと正規ルートを攻略するのが賢明だぞ。それにお前たちのパーティー名は奇を衒いすぎている。身の程を弁えろ」
「その通りだな。機会があれば変えるよ。……では、殿下。先を急ぐので」
翔は日本式の会釈を最敬礼として残し、フリンツが口を開く前にアハイシュケを走らせた。
取り残されたフリンツは、怒りに震えて叫んだ。
「無礼な奴らだ! 奴らのどこが凄いというのだ!」
しかし、パーティーの召喚士ディリアが困惑したように指摘した。
「殿下……彼らが操っていたのはアハイシュケです。私でも御すのが難しい高レベルの魔獣を、あんなに容易く三頭も……」
さらにフリンツが「世界樹」から彼らの職業を検索すると、驚愕の事実が判明する。
神々を召喚する精霊魔術の使い手【神使】。
エルフの王族を指す【至高者】。
そして、万物の創生主の能力を受け継ぐ【創造師】。
どれもが信じがたい「超上級職」の羅列。隊長ガーハードは、Lv10前後の彼らがこの難所を騎乗で突破している不可解さに嘆息した。
静まり返るパーティーの中で、フリンツだけは嫉妬と怒りを燃やしていた。
「余のイレーネに近づく輩は許さん……」
019 了
更新しました!
再起を図る翔たちは、メロが召喚した魔獣アハイシュケで爆走中!
道中で再会したのは、かつての恩人イレーネと、鼻持ちならない貴公子。
「身の程を弁えろ」と罵る彼らでしたが、翔たちの「超上級職」の正体に気づいた時、その場の空気は一変し……。
嫉妬に燃える貴公子の視線を背に、一行は再び「試練の間」を目指します!
次回、リベンジなるか。お楽しみに!




