018ー1 フリンツ・フェステン公子様
いつも読んでくださって有難うございます。
【修正履歴】
2019年9月7日
○分りにくい表現を訂正しました。
○少し加筆しました。
○第18話を三分割しました。
○主人公等の思考を表す表記の方法を以下のように変更しました。
(主人公等の思考)
↓
────主人公等の思考
「メロ。お前が前に呼び寄せた犬ころのクーシーじゃなく、今度は馬の妖精で足の速い奴を呼び寄せられるか? ちんたら街道を歩くのも犬ころの背中に乗るのももう懲り懲りだ」
翔がそうメロに言ったのは、昨日の事だった。
「分かった。出でよ! 最強の走者アハイシュケよ」
メロは、翔の命令に従って精霊魔法を展開すると、見るからに魔獣と分かる迫力のある巨馬が、三頭出現した。
アハイシュケは、人喰い馬と呼ばれる魔獣だ。身体の大きさは、普通の馬よりも二回りほども大きく足は馬の何倍も速かった。
全身が黒く目だけが赤い。この魔獣は蹄が武器で後ろ蹴りで敵を仕留める強い魔物だ。
翔は、練金魔法でアハイシュケの背中の皮を座りやすいような形に変形してみた。アハイシュケの背中の皮は翔の思い通りに鞍のような形に変形できたので三人は恐る恐る乗ってみた。
アハイシュケの背中はとても乗り心地が良いとは言えなかったが、犬よりは数倍マシだし、何より走る速度が断然に速い。
翔は、付与魔法で、少しでも座り心地が良くなるような魔法を掛けた。しかし、そもそも馬の乗り心地などが良くなるのも限度があった。
ある程度の所で、翔も諦めざるを得ない。
「この速度だと二日もあれば『レベルアップ・トライアル・ルート』に戻れるな」
翔は、高速で遠ざかる後方の景色を見ながら並走しているメロとアメリアに言った。
《翔様。『レベルアップ・トライアル・ルート』へは、超初心者向街道に入られると近道になります》
アリスがそう教えてくれたので、翔達は旅程を途中で変えて、超初心者向街道に入った。
☆
本来お金持ちの令息である翔は、乗馬の経験があったので難なくアハイシュケを乗りこなしていた。
「翔。この馬面白いね」
驚いた事に、メロも馬を乗りこなしている上に、乗馬を楽しんでいるようだった。
メロは、頬を上気させてなかなか可愛いかった。どこで入手したのかメロ好みの派手な衣装が恐ろしい魔獣と不思議なコントラストになって、見ていて美しいく感じられた。
メロの乗馬姿を眺めていると、意外に運動神経のいい事が、彼女の乗馬への適応力で分かった。初めての乗馬でこれほど乗りこなせれば大したものだ。
アメリアも乗馬の経験があった様でうまく乗りこなしていた。
「こんな馬獣を思うように呼び寄せられるとは、メロすごいぞ」
アメリアは感心して言った。
メロが呼び寄せたアハイシュケは、レベル25〜30ほどもあるなかなか高レベルの魔獣だった。
普通の召喚士が呼び寄せてもなかなか言う事を聞かないワガママで厄介な魔獣なのだが、メロは易々と三匹も呼び寄せた上に従順に従わせて、騎乗まで許させたのだ。メロの精霊魔法も随分上達していた。
レイラ・リンデグレンとの闘いで命を落とした翔達だったが、女神の恩恵で復活する事ができた。しかし死の恐怖からくる復活障害は、なかなか厄介で、彼等は復活の天宮で十日間も休養しなければならなかった。
復活障害が一番酷かったのは翔だった。一説には、戦女神が女性には少し復活障害を優しく設定したとも言われている。あるいは女性の方が本質的に強いなどとも言われ、一般的に女性の方が復活障害が軽いのだった。
しかし、メロもアメリアも大きな打撃を受けたのは言うまでもない。五日間は起き上がれず、六日目から翔の看病をしていた。
端正な顔でボーイッシュなメロと美しく豊満なアメリアの二人は復活者の男達から注目の的になっていた事は言うまでもない。
メロとアメリアの甲斐甲斐しい介護で七日目に翔も起き上がる事が出来るようになり十日目に復活都市を出てきたのだ。
シスターサラは、もう少し休養するようにしきりに勧めたが翔達は、一日も無駄にしたくなかった。
復活都市を出たのが昨日だ。アハイシュケを走らせて超初心者向街道に入って二時間ほど街道を逆走して今に至っている。
街道は、ルート攻略者の冒険者で賑わっていた。
街道を逆走してくる翔達を魔物が襲ってきたと勘違いする冒険者が大勢いた。中には翔達に攻撃を仕掛けてくる者達までいた。
しかし超初心者向街道の前半を歩いている冒険者からの攻撃は難なく回避する事が出来るようであった。
翔達は魔物も冒険者の攻撃も簡単に回避しつつ街道を疾走した。
☆
街道のはるかな先から何かがやって来るのが見えた。どうやら先方も騎乗者のパーティーのようだった。
このままでは両者はぶつかる。こんな時にはどうしたら良いかアリスに聞いたところ、下りが道を譲るのが古くからの習わしだと教えてくれた。そのアドバイスに従って、下り側の翔達が道を譲ることにした。翔達は、道端にアハイシュケを避けさせて、彼等が通るのを待った。
直ぐに騎馬達がやってきた。彼らはアハイシュケと翔達三人に驚きながら、道を譲った翔達に目礼して通り過ぎようとした。先頭の騎乗者は、かなりの身分の貴族のようだった。
整った顔立ちで、黄金の髪の毛がキラキラし青い瞳が美しい貴公子だ。呪いにより平凡化している翔とは大きな違いだ。
『フランツ・クリストファー。レベル25。魔法騎士。クラン名“F旅団”。パーティー名“Fとお供”』
その貴公子の直ぐ後ろになかなか強そうなフルプレートの男が続いた。
『ガーハード・オレク、レベル23。魔術騎士。クラン名“F旅団”。パーティー名“Fとお供”。隊長』
その時、若い感じの女性の声が響いた。
「翔じゃない?」
騎乗者達の最後尾から声がした。
その声を聞いた先頭の貴公子が手を上げて一行を止めた。総勢八名のパーティーのようだ。なかなかの大所帯だ。
最後尾からの声の主が翔達の方に走り寄ってきた。直ぐにそれが誰か分かった。
翔達が『始まりの街』に入って直ぐにアメリアが気分を悪くした時、料亭に案内してくれた親切な貴族の女の子だ。名前はイレーネ・ハウザー。騎士見習いのレベル18の女の子だった。
「あの時は、世話になったな」
翔は近付いて来るイレーネに挨拶した。
メロも嬉しそうにイレーネに手を振っている。イレーネもメロに手を振り返した。女の子同士で可愛らしい。
「その節は世話になった」
アメリアも笑みで彼女を迎えた。
「こんな所で会うとは奇遇ね。あなた達は『レベルアップ・トライアル・ルート』に挑戦するって言ってたけど、やっぱりこっちの正規ルートを攻略することに変えたの?」
イレーネが満面の笑みを浮かべ、しかし口早に畳み掛けるように聞いた。
「いやいや。俺たちはその『レベルアップ・トライアル・ルート』であえなく殺られて復活し、復活都市からルートに戻る途中さ」
翔がサバサバと説明した。
「でも、あれからまだ一月も経ってないわよ」
イレーネが訝しむ。
「恥ずかしながら、初戦で敗退したんだよ。『試練の間』ってところが最初にあるんだが恐ろしく強い女剣士が守っていてね。一撃で殺られちまったのさ」
翔が照れながら説明した。
「それにしても……。確かに貴方達は相当参ってる様子には見えるけど……。復活早々に復帰するって、あなた達はメチャクチャね」
イレーネは、目を大きく見開いて翔達を眺めた。相当呆れているようだ。
「翔が爆発力の大きな機雷を仕掛ければもっと上手くいった」
メロが戦いを批判した。
「俺の魔法の実力ではあれが精一杯だ。今度は最初の罠を仕掛けるのをお前も手伝え」
翔がメロの批判に言い返した。
「あなた達は本当に復活者なの?」
イレーネが意外に元気そうな二人のやり取りに、割って入った。
冒険者のほとんどは死んだショックで何ヶ月も廃人のようになるのが一般的だ。
「ああ。殺られた直後は本当に酷いもんだった」
翔がつくづくって感じで説明した。翔の感情のこもった言い振りで本当に大変だったことが分かった。
「翔はヘタレ。十日も唸っていた。みっともない」
メロが指摘した。
「すまん。迷惑をかけた」
珍しく翔が素直に謝った。
「可哀想だったから許す」
メロが必要以上に踏ん反り返って言った。腕組みまでしている。
「あなた達は、相変わらずね」
イレーネは、笑いながら言った。
その時、先頭の馬が近づいてきた。
「イレーネ。私にもその方達を紹介してくれるか」
先頭の貴公子が彼らの話に割り込んで来た。
「はい。坊っちゃま。彼らがいつも言っていた『レベルアップ・トライアル・ルート』の攻略を目指すと言う『賢人会』の皆さんです」
イレーネが貴公子に翔達を紹介した。
「男の子がショー・マンダリン。こちらがメロ・アルファード。こちらがアメリア・ラサーンです」
「君たちが我がパーティーのマドンナがいつも噂している冒険者なのだな。私は、クリストファー・フランツ。公子エステランドだ。イレーネの主君と言ったところだ」
翔は、軽く会釈して返した。日本人としての礼儀だが、この世界では会釈は最敬礼だ。
普段、尊大不遜な翔はお偉いさんには、日本風に接する事にしていた。大体それで相手が最大の礼儀をしていると勘違いしてくれるので助かるのだ。
案の定フリンツもふむふむと頷き返していた。偉そうな奴だがイレーネの上司とあっては仕方がない。
「イレーネ。この者達がお前がいつも噂している凄い冒険者なのだな。余には酷く疲れた、レベル7の低レベル冒険者にしか見えんがな」
フリンツが偉そうな態度で必要以上に上げた顎を撫でながら言った。
「お坊っちゃま。彼は復活障害でレベルが下がってしまったのでしょう。確か前はレベル8でしたし、その前にはもっとレベルが高かったのよね」
「ああ。また復活障害でレベル7に下がっちゃまった」
翔が説明した。
「でもステータスはあまり変わってないぜ」
「なるほどな。それで余の前でも平然としていられるのだな」
貴公子フリンツは、自分が高レベルと言いたいのだ。この貴公子は実際のレベルほどに威圧感も強さも感じさせない不思議な奴だった。見た目がすっきりしていること以外は大した特徴のない青年だ。
「イレーネはルート攻略?」
メロが尋ねた。
「私達は先週このルートを攻略して、私は最年少のルートマスターに成ったのよ。今度は次のベルゲン山脈越えに挑戦する為に向かっているところよ。
ルートマスターは、一度攻略したところまでは騎乗が許されているのよ」
イレーネが説明してくれた。ルートの途中から入って来た翔達さそんなルールがあるとは知らずに騎乗して来たわけだ。
「君らならきっと次のルートも難なくクリアするだろう」
翔が言った。お世辞ではなく、見回したところ隊長のガーハード・オレクは相当の威圧感を持っている。その横のレーベン・マーズと言う名のレベル21聖騎士も確かイレーネが副隊長だと言っていた男だが彼も相当な実力者のようだ。イレーネが自慢していただけはある。
彼らの中では貴公子が最もレベルが高い25だ。しかし、何故かそれほど強そうには感じない。
翔は、レベルと威圧感が完全にマッチングしないのだと感心した。
「ちなみにお前達は『レベルアップ・トライアル・ルート』に挑戦しているそうだが、どうしてそんな古いルートに挑戦するのだ?」
フリンツが尋ねた。
「余計な御世話だ」と翔が言いかけたのを、何か悪い事を言いそうだと悟ったアメリアが遮った。
「私達は、戦女神ブリュンヒルデ様の設計思想に従ってレベルアップを図りたいと思ったのです」
フリンツは、一瞬アメリアを見たが完全に無視した。
「私は、世界樹から情報を入手できるのだ。それによるとそのルートは何百年も誰もクリアできないので見捨てられたという事だぞ。さっさと正規のルートを攻略するのが賢明だぞ」
「確かにそうかもな」
翔がアメリアの気持ちに応えて逆らわずに、軽く答えた。いけ好かない貴族だがアメリアの恩人の主だ。
「それにだ。お前達のパーティー名の『賢人会』はあまりにも奇を衒いすぎているぞ。
たかが無名の新人が付けるような名前とは言えぬ。身の程を弁えるのだな」
「その通りだった。機会があれば別の名前に変えよう」
翔は、逆らわずに答えた。
「イレーネ。先を急ぐので失礼する。では殿下」
そう言うと翔は日本風に礼をしてその場を去った。
イレーネは、少し眉をひそめて視線を避けていた。
引き止めようとするフリンツの口が開かぬ間に翔達はあっという間に走り去っていった。
取り残されたフリンツは、口をポカンと開けて翔達の後ろ姿を見ていたが、手を強く握り締めて腹立ちを露わにした。
「無礼な奴らだ。余の話の途中で立ち去るとは」
フリンツは、目を怒らせて声を荒げて叫んだ。
「イレーネ。奴らはどこがそれ程凄いのだ」
フリンツは荒い口調のままイレーネに問うた。
しかし、パーティーの別の女性が話に割って入った。
「殿下。彼らの乗っていた魔獣はアハイシュケでした。あれはかなり高レベルの魔獣です。しかも三頭も召喚しておりました。相当な召喚士のパーティーなのではないでしょうか?」
そう、話に入り込んだのは、パーティーの召喚士ディリア・シュトローメンだった。彼女は召喚士として相当に高名で優秀だった。レベル22で戦闘力や魔術の能力こそ見劣りするが召喚士としては一流だった。
「私でもアハイシュケは少し荷が勝ち過ぎます」
「そう言えば、メロさんが神使とか言う変わった職業で精霊魔法が得意とか言ってました」
イレーネが答えた。
「なに? 神使だと? 待てよ。今、世界樹から情報を得るからな……。なに? 神使は、神々ですら召喚すると言う強力な精霊魔術を使う職業のようだ。いわゆる超上級職に入るらしい」
貴公子フリンツが驚きながら言った。
「後の二人はどんな職業なのだ?」
「はい。お坊っちゃま。あの亜人が至高者で男の子は創造師と言ってました」
「なになに、至高者だな……至高者とは光妖精つまりエルフの王族だそうだ。ただの亜人かと思っていたが王族だったのだな……。卑賤な亜人と思い無視してしまったが……」
エステランド公爵の公子は美しい眉をしかめた。知らなかったとは言え、人族と肩を並べるエルフ族の王族にあからさまな侮辱をするのは浅はかな行為だった。
「エルフの王族ですか? それは凄いですね。光の王オベロンの親族ということですね」
副隊長で聖騎士のレーベン・マーズが感嘆した。
「殿下。あの男の子の創造師と言う職業はどの様な職業なのですか?」
「うむ。そうだったな。創造師だな……待てよ。クリエーターとは万物の創生主たるエロヒム様が唯一お持ちだったという能力の一つ。あらゆる神々がエロヒム様からその能力を受け継ぐことを願ったが叶わなかったとの伝説があり、芸術の神々から恩恵がもたらされるという超上級職だと言う。何とも信じられんレア職だな」
フリンツが困惑で眉を寄せた。
「イレーネ。本当に奴らはそんなとんでもない職業なのか?」
「坊っちゃま。申し訳ありません。私も少し話しただけなのです。でもその様な嘘をつく者達では無いと思いましたが……」
イレーネが申し訳無さそうに眉をしかめながら目を伏せて答えた。
確かにそれほど特殊な職業に就いた三人組による『賢人会』などと言う大層な名前をつけたパーティーが、突然現れれば、誰もが信じられないだろう。
イレーネも疑いたく無かったが翔達がただの嘘つきではないと信じるほどに良く知っている間柄でも無かった。
「殿下。ただの嘘つきが三匹もの強力な魔獣アハイシュケを操り、難関だらけのスタバンゲル街道を騎乗で通れるものでしょうか。しかも彼らはこのルートに登録していなのですよ。つまり彼らにはこのルートでの復活の恩恵は与えられていないのです。たかだかレベル10前後の彼らの行動全てが不可解です」
隊長ガーハード・オレクが嘆息するように呟いた。
彼の言葉を否定できる者はいなかった。
フリンツ・フェステンは、顔には穏やかな笑顔を絶やさなかったが、眼差しはきつく、両手は硬く握りしめられていた。
「余のイレーネに近づく輩は許さん」
誰にも聞かれない小声でフリンツは呟いた。




