017ー1 戦乙女レイラ・リンデグレン
『レイラ・リンデグレン。15歳。戦乙女。レベル51』
彼女には、生まれたての子猫のような愛らしさがあり、見る者を虜にして視線を外させないほどに可愛らしかった。
メロやアメリアですら息をするのも忘れて彼女に見とれていていた。
戦乙女レイラ・リンデグレンは、それほど愛らしいのだが、それと同時に首が痛くなるほどに見上げないと彼女の可愛らしさが見えないほどに巨大でもあった。
その大きさだけで普通の人々なら戦う気力を削がれてしまうだろう。
彼女は可愛いリスのような仕草で、一旦翔達を見てから辺りをキョロキョロと見回した。翔は彼女があまりにも可愛いので、彼女の全ての仕草から目が離せないでいた。
周りに翔達以外に誰もいないのは、一目瞭然だ。彼女は可愛い眉をひそめて翔達を見降ろした。
「あなた達なの?」
彼女は不思議なものを見るような目を大きく見開いて尋ねた。
彼女の声は巨大な体に似合わないほど透き通るように美しかった。
「でも、ごめんなさい。あなた達のように可愛いお人形さんみたいな人達とどうやって戦えと言うのかしら」
レイラ・リンデグレンは優しく諭すような口調で言った。本当に困惑しているようだ。
それらのどの仕草も愛らしく、その上におしとやかだった。お淑やか系のお姫様みたいだと形容すれば分かりやすいだろうか。
────巨女。可愛いな。
翔は、思わす心の中で呟いた。
《翔様。彼女の可愛さに騙されてはダメですよ。レイラ様は正真正銘の半神です。彼女のお父上は、曙の神アース神デルング様です。それだけでなく戦乙女と言う地位とブリュンヒルデ様などの女神様達からたくさんの恩恵を受けている存在です》
アリスが忠告した。
────アリス。こんな時に何だが、天使と半神は違うのか?
《確かに良く似た存在ですね。ちなみに人から天使に昇天する者もたくさんいおられます。例えば第九土曜日の蝕を討伐した英雄達では、フィガロ・コレステローテンが天使キサエル様に、リズィー・ローレンが天使エルキエル様に、テリーサ・オーエンが天使ナサエル様に昇天されておられます》
《天使は神々に匹敵する能力を有する半神のような能力を持った人や精霊が成聖と言う儀式を経て神聖な存在になり天界に昇天した者を指します。成聖の効果は絶大です。神々から多くの恩恵を授けられて大抵は大きくレベルを上げます。天使はその能力から九つの階級に分けられて次第に上り詰めてついには神々に昇神します.......おや?……》
そこで、一瞬アリスは話を止めた。次に話を続けた時は声が少し上ずっており早口になっていた。
《……。あの、たった今ですが、翔様にとって悪い情報が入ってきました。つい先程レリエル様は天使の位を一つ上がられ能天使になられたという事です》
────それは凄いのか?
《もちろんです。天使の能力は上中下の三隊に区分されます。そしてレリエル様が今回昇格された能天使は中位三隊に属し前の権天使が下位三隊でしたかはそれよりも格段に高い能力を有する天使となったようです。そもそも権天使ですら、あまりにも破格の扱いと感じましたが、、、それほどに神器【転生輪廻】が強力だと言うことでしょうか、、、》
アリスも何だか狼狽えているようだ。
────そいつはあまり歓迎できん情報だな……
翔は天を仰ぎたくなった。
────しかし、今はこのレイラとの戦いだ。この娘はデミとは神とのハーフと言う意味なのか?
《デミには翔様が仰るようなハーフと言う意味も有ります。しかしデミには候補こような意味も含まれていますからそのどちらなのかは不明です》
──────ふうん。しかしレリエルよりも弱そうだ
《ハーフと言う意味での半神も天上界には珍しくありません。これらの皆さんは黄金林檎を食べられていて不死です。彼らは長年生きているうちに想像を絶する強さになられます。大抵の半神の皆さんも、普通は極限まで強くなられて昇神し神々の列に連なられることがほとんどです。とは言えレイラ様はまだほんの十五歳ですから》
────なるほど。ブリュンヒルデは未熟な我々にヒヨッコの半神を当てがったって事か。
《ヒヨッコと言っても才能が凄いのですから、転生前の翔様と同様。恐ろしい強さですよ》
────分かった。さっさと殺されろって事だろ。
レベルの違いから勝てるなどとは翔も思っていなかった。
────この娘は、大きさの違いに戸惑っているようだな。
「このまま戦うしかあるまい」
翔は、困っているレイラに答えてやった。
「でも、貴方ってレベル8じゃ無いの。いくらなんだって、貴方と闘う訳にはいか無いわ」
レイラ・リンデグレンが眉をしかめて言った。馬鹿にしているわけでは無さそうだ。
「ブリュンヒルデさんがあんたと戦えって言ってんだから仕方ないだろう。さっさとやっちゃおうぜ」
翔が催促した。
何度か死ねば何かが変わるのだろうと翔は、あまり深く考えないようにしていた。もしそうでなければこんな恐ろしい巨女と闘う設定などにするわけが無い。
戦女神ブリュンヒルデは、この戦乙女に勝てとは言わなかった。戦ってこの半神に、認めてもらえば良いと言っていた。何らかの考えがあるのだろう。
「巨大化の魔法は可能なんだろうが.......今の俺では術式を展開するだけの魔法のステータスが足りんしなぁ。戦いにくいだろうがこのまま戦ってくれ」
翔は、頭を下げて頼んだ。日本人には当たり前の礼だが、巨女はそれがとてもお気に召したようだ。
「そうまで言うのでしたら、私が貴方達のサイズに縮んであげましょう」
そう言うと戦乙女レイラ・リンデグレンは下手くそな魔法を展開し莫大な魔力を消費して小さくなった。
翔は、レイラの強引な魔法に呆れた。
────こいつの魔法も大した事が無いな。
翔は、その事だけが分かった。しかし、そんな半端なレイラだが、同時に高レベル者としての威圧感は半端なかった。圧倒的な威圧感を放っていた。
小さくなると、レイラ・リンデグレンは更に可愛さをが増して見えた。歳は若いが少し大人びた落ち着きがあるのは、半神としての余裕だろうか。
レイラは、皆の顔を見ながらニッコリと微笑んだ。その微笑みもまた凄く可愛らしかった。仕草がお姫様みたいだ。戦の半神には見えなかった。
釣り込まれて翔達も微笑んでしまった。
「改めてこんにちは。私はレイラ・リンデグレンと言います。ヴァルキューレのブリュンヒルデ様付の侍女をしています。皆さんのお名前を教えて貰っても良いかしら?」
翔達はレイラの言われるまま順番に自己紹介した。
「貴方達はパーティーなんでしょ?」
レイラは、翔達の自己紹介が終わると尋ねた。
「私達のパーティーの名前は、『賢人会』。一番好きな鳥とは違う名前」
メロが少し赤面しながら言った。
レイラは一瞬、目を少し大きく見開いた。
「賢人といえば神々ではオーディン様の事。貴方達は七賢人の伝説は知っているわね」
「七賢人の事はまぁ、俺たちの若気の至りって事で許してくれ。恥ずかしい限りだ。神様の領分に図々しく入り込むって意味じゃ無いんだ」
翔が頭を掻きながら弁明した。
レイラは、その翔とメロの様子で賢人会と名乗っている事に相当気恥ずかしさを感じている事を知った。それで彼女は翔達が決して軽い気持ちやふざけてそんな名前を付けた訳では無いのだと理解した。
レイラは翔達が高い理想を持ってそんなパーティー名にしたのだと感違いしたのだった。
レイラは、翔、メロ、アメリアの順番に見て行き、個性的な三人が堅苦しい名前を付けている違和感に何だか妙に感心してしまった。ブリュンヒルデがこの気宇の大きなパーティー名を聞けばきっと喜ぶだろう。
「話は変わるけど、これを貴方達にあげるわ」
レイラは、何かを取り出しながら言った。
そして、突き出した手のひらには、キラキラ輝く宝石のような物がたくさん乗っていた。
「これは、魔精結晶よ。貴方達と闘うように言われたので用意したのよ」
レイラが笑いながら言った。
「魔精結晶は、レベルを上げる薬だろう?」
翔が腑に落ちないって風に尋ねた。
「普通は魔力体力の補充につかう物よ。ステータスを向上させるのは低レベルの時に限られているわ』」
レイラは手のひらの数十粒の魔精結晶を翔に渡した。
受け取った翔は、不思議そうに魔精結晶を見た。魔核などよりも大きく純度が高そうだ。自然に発光しキラキラしていた。いかにも魔力の結晶といった神秘的な雰囲気がある。
「どうしてこれを俺達に?」
翔が首を傾げるようにして尋ねた。
レイラは、腕組みをして胸を反らせた。レイラらしくない態度だ。顔にはかすかなハニカミがあった。
「貴方達ではあまりにレベルが低すぎるからよ」
《翔様。それを摂取するのはしばしお待ちください》
珍しくアリスが割って入ってきた。
────なぜだ?
《ブリュンヒルデ様は効率的なレベルアップの構想があってここを設計されました。せっかく翔様達はブリュンヒルデ様の設計思想に適合されておられますのに、そのような物を摂取されましては期待された効果が生じないかもしれません》
先程の女神達の説明を聞いていても、この結晶を飲むのは待った方が良いのかもしれない。
────そうか。分かった。
アリスに絶対の信頼を寄せている翔は、一も二もなくアリスに従う事にした。
「これを受け取るのは遠慮しよう」
翔が答えた。
「少し考えがある。お前達もそれでいいか?」
そう翔はメロとアメリアにも念を押しておいた。
「それでいい」
メロが即答した。翔がそこまで言うなら意味があるのだろうとあまり考えもせずに言った。
「お前が決めた事なら従うだけだ」
アメリアも奴隷から解放してくれた時から全権を翔に任せている。
「気持ちは貰っておくよ」
翔は、そう言うと魔精結晶をレイラに返した。
「あなた達を相手にするのに魔精結晶も必要無いし、あまりにも可哀想だからあげようと思ったんだけど……」
レイラは、とても残念そうだ。眉をさらにしかめて困惑した顔になっていた。優しいタチなのだろう。
それだけでなくレイラは日頃の鍛錬を確かめてみたくて仕方がなった。できれは翔達に善戦して欲しいと考えていた。
「俺達は、ブリュンヒルデさんが設計したこの『レベルアップ・トライアル・ルート』を忠実にクリアしたいんだよ」
翔は困っているレイラに、なぜ魔精結晶を飲むのを断ったのか説明した。
「どうしてそんなにブリュンヒルデ様の設計思想にこだわるの? 簡単にレベルが上がるのならそれに越したことは無いじゃない?」
レイラはその説明だけでは理解できず、逆に尋ねた。
「あんたは、その魔精結晶で労せずしてレベルを上げたのか?」
翔が尋ねた。
「いいえ。私はブリュンヒルデ様の厳しいお稽古のお陰で自然にレベルが上がったのよ。私のお父様がブリュンヒルデ様にお願いしてくれたの。もし修行の初めにこんな便利なものを知っていたらあんなに苦労して修行なんてしなかったわ」
翔がレイラの説明ぶりを聞いていると、彼女が苦しいと称する修行はそんなに大した修行ではなくて、彼女は本当は苦労知らずのお嬢さんなのではないかとの疑問が生じてくるのだった。楽してレベルが上がるなんてことは早々にあるはずのないことだからだ。
考えてみると現代日本人の学生たる翔達も似たような物だった。親掛りで、高校からたれ流されていた魔術の情報を漫然と受け入れる日々だった。それを思うと、転生前の翔の強さは目の前のこのレイラの強さとよく似ているのかもしれない。
「仮に魔精結晶がレベル上げにそんなに効果的なら、どうしてブリュンヒルデさんは魔精結晶で全ての人のレベルを上げて半神英雄を集めない? それは邪道で真の効果が期待できないからなんだだろう」
翔は、思っていることをレイラに言った。魔核や魔精結晶はレベルアップには欠かせないがそれだけではダメなのだろう。だからなんども迷宮を上下して魔物を退治させるのだろう。
「貴方は、とても頭が良いのね。確かにそうなのかもそれないわね。ブリュンヒルデ様はいつも修行には真剣さが重要だって仰っているし、わたくしにこの魔精結晶を飲むのを禁止しているのはそう言う意味があるからかも知れないわね」
レイラ・リンデグレンは、とても感心して言った。
「でも今回限り、あなた方を少しは甘やかしても良いようにブリュンヒルデ様は仰っていたのよ」
レイラ・リンデグレンは、天界でブリュンヒルデからこの『試練の間』では戦いで手を抜くように言いつけられてていたのだ。
「しかし魔精結晶を苦労もせずに摂取することは、我々に対して本当にブリュンヒルデさんが望んでいる事では無いんじゃないか?」
翔は直感でそう答えた。
レイラは、翔の問に、少し考えるように視線を宙に泳がせていた。
「そうね。特別にとか、少しくらいはとか、そんな言い回しで言っていたから、貴方の言う通りかもしれないわね」
レイラは改めて翔を見直していた。
レイラの視線は、男を悩殺せずにはおかない、美しく清純な眼差しだった。しかし翔はその魅力にも気圧される事なく泰然とレイラに視線を当てていた。
☆
メロもアリスも翔とレイラの会話を黙って聞いているが、すでに頭はどう戦うかでいっぱいだった。
翔は話しながらアリスとメロに目で合図して、翔の後ろに立つように指示していていた。
メロは後衛に、アメリアは真ん中に立った。
アメリアの胸プレートに翔の創造魔法が照射され、みるみる様々な魔法の効果が与えられた。
剣にも同様に魔法がかけられてゆき、攻撃力が高まっていった。
翔は、アダマンタイトの六角の金棒を取り出して身構えた。
戦乙女は、困った顔のまま、翔に促される形で剣を抜いた。剣は父から譲り受けた神剣『曙剣』だ。剣は柔らかい曙のような光を放っていた。
彼女の構えを一目見て、翔は彼女が恐ろしい腕前の剣士だと分かった。アメリアも剣の腕前は大したものだがアメリアの細剣が敵うのは、早さぐらいだろう。
翔は、魔法の障壁を作っても簡単に破られるだけだろう考えて隠蔽の魔法を混ぜて障壁を何重にも構築した。レイラも翔が隠蔽の魔法を併用したぐらいは察するかもしれないが完全に魔法障壁の場所を把握する事は出来ないだろう。
さらに無数の隠蔽された機雷を空中のあちこちに設置して行った。
「貴方は驚いた人ね。そんなにたくさんの魔法を同時にどうやったらかけられるの?」
戦乙女レイラ・リンデグレンは驚いて辺りを見回しながら尋ねた。
それでもレイラは、魔法が構築されるまで何もしようとしなかった。
明らかなお目こぼしだが、魔法が部屋全体に張り巡らせられるまで待ってくれた。
「準備はできたかしら?」
「待っていてくれて助かるよ」
翔は、素直に礼を言った。
「うふふ」
戦乙女レイラはおかしそうに笑った。
「貴方は、礼儀正しいのか、粗暴なのかわからない人ね」
「俺は……」
「翔は、尊大で口が悪い上にエッチな変態」
メロが後ろから翔の事を酷評した。
「おい。俺のどこが変態なんだ? そこは納得いかん」
翔が突っ込んだ。
「レイラさん。翔は、貴方の事までエッチな目で見ていた。誰にでもエッチな目をする変態」
メロがさらに追い討ちをかけた。
「本当ですか?」
レイラはそう言うと大袈裟に顔をしかめて見せて、胸の辺りを隠す仕草をした。
なかなかノリの良いタイプみたいだ。
翔は、アメリアに助けを求めて視線を投げかけた。しかし視線の先にはアメリアの見事なプロポーションがあった。視線はついつい豊満な胸に吸い寄せられていた。
その翔の一部始終にアメリアが苦笑を漏らした。
「翔。お前の負けだ。謝っておけ」
自分のダメダメさに、言い訳を諦める翔だった。
「レイラさん。すみません。エッチな目で見ていました」
翔が素直に頭を下げて謝っていた。
「ふふふふ。貴方達は本当に楽しい人達ね」
レイラが楽しそうに笑い声をあげた。
「レイラさん。翔といるとエッチな視線は避けられないだろうが、こいつにはこいつの良いところもある。私からも謝るので視線の事は許してやってくれ」
アメリアが言った。
最も翔のイヤラしい視線の被害を受け続けているアメリアからの助け船だった。
本当に仕方が無いわね〜と三人の女性が頷き合った。
翔は、小さくなって頭を垂れるのであった.......。
いつも読んで頂いてありがとうございます。




