016 天界のお姫様はノリが良い
『始まりの街』から一旦、超初心者向街道に入り、約三十キロ西に行くと山に入る道がある。その先に水晶迷宮があった。
道中ではレベル12前後の魔物が出てきたが、難なく水晶迷宮の入り口までたどり着くことができた。
迷宮の入り口には、『水晶迷宮』と刻まれた大きな石碑が建てられていた。その石碑には、銀行のATMのような世界樹ネットの端末がついている。
翔がその端末を覗き込むと、「クエスト承認を挿入しなさい」と表示された。
────命令口調じゃん。
文化の違いだろうが、翔にはそれが面白かった。
《神々の世界では、このような端末は普通に使われています》
アリスの説明を聞きながら、端末の挿入口にクエスト認証カードを差し込む。すると、目の前の大きな岩が轟音を立てて動き出した。どうやらそれが迷宮の入り口だったようだ。
────この設定、ファンタジーっていうよりSFっぽいね。
自動ドアのように開く岩戸に見とれながら、翔は妙な感心の仕方をしていた。神々の世界はネットがあったり自動ドアがあったりと、随分現代的だ。
「凄い!」
メロが子供のように手を叩いて喜ぶ。
「アース神の文明は進んでいるわ……」
アメリアは深くため息をついた。至高者がアース神の好敵手として戦った歴史があるなど、今の彼女には信じられなかった。
「ユグドラシルにはヴァン神もいるんじゃないのか? ブリュンヒルデがアース神とは限らないだろ」
翔の突っ込みに、アメリアが厳しい表情で答える。
「戦女神は、大昔にオーディン様が英雄の血を引く娘たちに生ませた子を、天宮に戦乙女として召されたのが始まりだ。彼女たちが昇神して女神となったのだから、アース神に決まっているわ」
「何? オーディンってのはそんなにスケベジジイなのか?」
翔が呟いた瞬間、アメリアがギロリと翔を睨みつけた。メロまでもが沈黙する。
「無視かよ」
「お前はオーディン様が世界中を見渡せることを知らんのか。天罰が下っても知らんぞ、馬鹿者」
あまりの剣幕に、翔はたじたじとなって頭を下げた。
「すまん、調子に乗った」
☆
翔たちが開いた水晶迷宮の入り口に入ると、背後で岩戸が閉じ始めた。周囲に灯りがともり、広い空間が照らし出される。
すると、翔たちの前に巨大なスクリーンが現れ、そこには二人の美しい女神が映し出されていた。
《翔様、片膝をついて頭を垂れてください。女神様がお話しされたら一呼吸おいて顔を上げて結構です》
アリスの忠告に従い、翔はメロやアメリアに倣って跪いた。
「ようこそ。『レベルアップ・トライアル・ルート』へ。私は戦女神ブリュンヒルデだ。こちらは運命女神のヴェルダンディ。私たちがこのルートの設計者兼整備神だ」
「近年、挑戦者はほとんどいなかったのだが、このルートのことはどうして知った?」
ブリュンヒルデの問いに、翔は顔を上げて答えた。実物の女神は、言葉にできないほど美しかった。
「吟遊詩人に教えてもらったのさ。とても良いルートだから試してみろってね」
アリスの正体を隠すための嘘だったが、ブリュンヒルデは納得したようだ。
「なるほど、宣伝を言い付けておいたからな。では、私たちが直々に説明しよう。久しぶりの挑戦者なので、二人とも嬉しく思っているのだ」
「ブリュンヒルデが私を無理やり引っ張り込んだのよ」
ヴェルダンディが笑いながら補足する。仲が良いらしい。
しかし、ヴェルダンディはふと表情を曇らせ、翔たちから目を逸らしてため息をついた。
「私は、このコースがなぜ皆に受け入れられなかったかを説明しなければなりません。……このコースでは、死は不可避でしょう」
その言葉に翔たちは凍り付いた。
「復活はできます。ですが、耐えがたい死の恐怖があなた方を襲います。リスクは三つ。一つ、持ち物は死の瞬間に取り置かれ、再入室時に宝箱から回収すること。二つ、レベルが意図的に下がること。これは上がりすぎによる限界を抑え、実力をつけるための設計です。そして三つ目、これが最大のリスク。繰り返される死は精神を深く傷つけます。不毛な苦しみに、皆へこたれてしまうのです」
冷や汗を流す翔だったが、死の経験があるメロとアメリアは、どこか落ち着いた様子で話を聞いていた。
「次に利点だ!」とブリュンヒルデが元気に引き継ぐ。
「まずは『水晶迷宮』の制覇だ。最下層の魔精結晶は、魔物を倒せば倒すほど精力を増す。三度往復してから採取するのだ。十度採取すればクリア、次の段階へ進める。頑張ってくれ!」
ブリュンヒルデは高らかに笑った。翔は気後れせず、気になっていたことを聞いた。
「ブリュンヒルデ様は、オーディンの娘だと聞きましたが?」
「我ら戦女神は皆オーディン様の娘も同然だ。君たちが修行次第でオーディン様さえ超えることも、私は期待しているぞ」
その言葉にアメリアとメロの目にも力が宿る。
「このトライアルをクリアすれば、望みが一つ叶う。仇の情報でも何でもな」
メロは珍しく白い歯を見せて笑った。やる気に火がついたようだ。
「では、まずは『試練の間』で試験を受けてもらう。私の愛弟子である戦乙女、レイラ・リンデグレンが相手だ。彼女に認められることが最初の試練。頑張ってくれ」
画面が消えると同時に、一人の少女が現れた。
『レイラ・リンデグレン。15歳。戦乙女。レベル51』
その可愛い笑顔とは裏腹な圧倒的レベルに、翔たちは息を呑んだ。
016 了
更新しました!
ついに女神降臨!しかし提示されたのは「死ぬのが前提」の超スパルタ修行……。
さらに目の前にはLv51の美少女戦乙女が立ちはだかります。
レベル8の翔に勝機はあるのか?次回、試練開始です!




