016 天界のお姫様はノリが良い
修正履歴
指摘があったので、レイラ・リンデグレンの年齢に関する記述を修正しました。
2019年9月7日
○女神の名前をヴリュンヒルデからブリュンヒルデに訂正しまた。
○分りにくい表現を訂正しました。
○少し加筆しています。
○主人公等の思考を表す表記の方法を以下のように変更しました。
(主人公等の思考)
↓
────主人公等の思考。
『始まりの街』から一旦、超初心者向街道に入り約三十キロ西に行くと山に入る道がある。その先に水晶迷宮があった。
山道では、レベル12前後の魔物が出てきたが、難なく水晶迷宮の入り口までたどり着く事ができた。
迷宮の入り口には、『水晶迷宮』と書かれた大きな石碑が建てられていた。
その石碑には、銀行のATMについている画面のような世界樹ネットの端末がついてた。
翔がその端末を覗き込むと「クエスト承認を挿入しなさい」と表示された。
────命令口調じゃん。
翔は、文化の違いが面白い。銀行の丁寧すぎる口調も結構やり過ぎ感が、あるがこれは文化の違いだろう。
《神々の世界では、この様な端末は普通に使われています》
アリスが説明してくれた。
端末の下にある穴にクエスト認証カードを差し込むと目の前の大きな岩が大きな音を立てて動きだした。どうやらそれが迷宮の入り口だった様だ。
────この設定は、ファンタジーって言うよりSFっぽいね。
翔は、妙な感心の仕方をして、ポンカと口を開いて大きな岩戸が開くのに見とれていた。
神々の世界はネットが有ったり自動ドアが有ったりと、ずいぶん現代っぽかった。
「凄い!」
メロも、手を叩いて喜んでいた。しかし、喜び方が子供だっぽい。
「アース神の文明は進んでいる」
アメリアは、深くため息をついた。彼女には、至高者がアース神の好敵手として同じ土俵で戦った歴史が有ったなどとは信じられなかった。
「ユグドラシルにはヴァン神もいるんじゃないのか」
翔がアメリアに突っ込みを入れた。ブリュンヒルデがアース神とは限らんだろうと言いたいのだ。
「戦女神は、大昔に、オーディン様が英雄の血を引く娘達に生ませた女の子達を天宮に戦乙女として召されたのが始まりだ。その彼女達が昇神して女神となった。つまりアース神に決まっている」
アメリアが説明した。
「何? オーディンってのはそんなにスケベジジイなのか?」
翔が呟いたがアメリアはギロリと翔を一睨みして、主神に対する不穏当か発言を無視した。メロでさえ、何も言わなかった。
「無視かよ」
翔がツッコんだ。
「お前はオーディン様が世界中を見渡せることを知らんのか? 天罰が下っても知らんぞ。馬鹿者」
アメリアが翔を叱り付けた。
あまりの剣幕に、翔はたじたじとなって、頭を下げて反省してみせた。
「すまん。調子に乗った」
☆
翔達は開いた水晶迷宮の大きな入り口に入って行った。
「これが水晶迷宮か。大きな入り口だな。さすがに神々が精魂をつぎ込んで作った迷宮だな」
翔は、本当に感心しつつ、言った。
《翔様。迷宮は、最下層で発達した魔力の結晶が作り出す自然物です。ユグドラシルも同じ様にしてできた世界だとも言われています。ブリュンヒルデ様は自然物を利用してルートにされたのです》
アリスが説明した。
翔達が、中に入ると、入り口の岩戸が閉じ始めた。
────真っ暗に成ったら面倒だな。
と翔が考えていると、周囲に灯がともった。中は結構広い空間になっていた。
見ると、翔達の前に映画のような巨大サイズの画面が現れた。
そこには、美しい二人の女神が写っていた。
《翔様、神前では片膝をついて頭を垂れるのが礼儀です。話し方に決まりはありませんが丁寧に話してくださいね》
すかさずアリスが忠告していた。
《女神様が先にお話しされたら一呼吸おいて頭を上げて結構です》
見るとメロとアメリアも片膝立ちで頭を垂れていた。翔も彼らを真似て片膝をついて頭を垂れた。
「ようこそ。『レベルアップ・トライアル・ルート』へ。私は戦女神のブリュンヒルデだ。こちらは、運命女神のヴェルダンディだ。私達はこのルートの設計者兼整備神だ」
にこやかにブリュンヒルデが言った。
「このルートへの挑戦者は、近年ほとんどいなかったのだが、このルートの事はどうして知った?」
翔は女神が話し始めたタイミングで頭を上げて女神達を見た。二人ともさすがに女神だ。言葉で表せられないほど美しかった。
向って左が戦女神のブリュンヒルデで右が運命女神のヴェルダンディだろう。格好の違いで直ぐに分かった。
ブリュンヒルデは、見るからに勇ましく豊満な胸を彷彿とさせるような胸当てをつけ、なかなか色っぽい。
ヴェルダンディは、美しい髪の毛をウェーブさせてヒラヒラのドレスを着た、いかにも女神ぽい感じの女性だった。映像に映る彼女達の大きな姿が等身大なら彼女達は相当な巨人だ。
「このルートのことは教えてもらって知った。とても良いルートだから是非、ためしてみろと教えてもらったのだ」
翔は、そう答えておいた。
「それはどんな人だ?」
ブリュンヒルデがさらに聞いてきた。
────アリス。女神様はお前の事が気になるみたいだぞ。女神様に天使レリエルの悪行をぶっちゃけたらどうだ?
《翔様。それはお勧めできまん。レリエル様の悪事が明るみに出たとしたら、レリエル様は罰せられて天界を追放されるでしょうが、神々が天使に下す罰は最も重くても魔界追放までです。もしそうなったとしてもレリエル様は魔界に追放されるかもしれませんが自分を陥れた翔様を決して放っておいてはくれないでしょう》
────結局、レリエルを超える事しか解決策は無いようだな。
翔は、諦めて言った。
《それがベストだと思われます。翔様ならきっとレリエル様を懲らしめられるレベルにまで上り詰められると確信します》
また、アリスの根拠のない翔の持ち上げが始まった。
────分かった。アリス。では誰からこのルートを教えてもらったのかについては、うまく誤魔化そう。ヴリュンヒルデを納得させる適当な答えはあるか?
《吟遊詩人に聞いたとお答えなされませ》
────よし分かった。
「ああ。吟遊詩人に教わったのさ」
ブリュンヒルデはその一言で納得したようだ。
「なるほど吟遊詩人達には良く宣伝をするように言い付けたからな。それでは、私達が直々にこのルートの特徴を説明しよう」
「女神様はこのルートの挑戦者に、いつも直々に説明をされてきたのですか?」
翔が尋ねた。
「いいや。実はここは、私とヴェルダンディの画像が流れてコースの説明をする設計なのだ。まさかこんなことで下界に降臨する事まではお許しがでないが、君達は、久しぶりの挑戦者なので私もヴェルダンディも嬉しかったのだ」
ブリュンヒルデがニコニコしながら言った。
「ブリュンヒルデが私を無理矢理引っ張りこんだんじゃないのよ」
ヴェルダンディは、笑いながら指摘していた。二人の女神は、仲が良いみたいだ。
「私は、ヴリュンヒルデの設計思想に合わせていろいろな効果を付与しただけよ。このルートは、本当の意味で強くなるための設計よ。このコースを卒業した新人さんはずっと将来、私などよりも強くなるでしょう……」
そこで、ヴェルダンディは少し首を傾げて動作を止める。言葉を選んでいる様だった。それから翔達から目をそらす様に別の方を見て深くため息つく。
「……。私は、皆さんに、どちらかと言うとこのコースがなぜ皆に受け入れられなかったかを説明しなければならいと思っています」
運命女神ヴェルダンディの態度と、言いにくそうな言葉に、途端に翔達は、最悪の事態を色々と想像してしまった。
メロはじっとしていられないのかしきりに首の後ろを手でこすっていた。
アメリアは、気を落ち着かせようとしてか目を閉じて話に集中しようとした。
「……。このコースでは死は不可避でしょう……」
ヴェルダンディは、翔達に視線を合わせようとせずに話し始めた。
「……。復活はできます。しかし耐えがたい死の恐怖があなた方を襲うでしょう……」
ヴェルダンディはなだめるやうな口調で続けた。
「……。あなた方は言って見れば、大変な試練の連続の中でもがき苦しむ事になります。ですが、本当にあなた方は大きな成果を得る事になるのですから……」
そこまで言ってからヴェルダンディは黙ってまった。
翔は動揺でうなじの毛がこわばるのが分かった。変な汗が出てくる。アメリアは瞠目したまま、手が小刻みに震えていていた。メロは繰り返し髪の毛をかきあげ彼女なりに緊張しているのが分かった。
「復活の効果についても、説明する必要があります……」
ヴェルダンディは皆に美しく優しく微笑みかけた。
「……復活はいくつかのリスクがあります。
一つは持ち物が全て無くなります。これについては、死の瞬間に持ち物をここに取り置くように取り計いました。あなた方が再びこの部屋に入ったら宝箱が出現します。そこから取ってください。
二つ目はレベルが少し下がります。これは意図的に計算されて下げられています。なぜならこのルートではたくさんの恩恵があるのでレベルが上がりすぎるからです。実力も無いのにレベルが上がるとレベル抑止がかかり限界が早まってしまうのです。
レベルは低い時の方が早く上がるのは皆さんもご存知だと思います。つまりここの設定は初期にあまりレベルを上げず実力をつけやすく設計してあるのです。しかも、死の恐怖により皆さんは自然と集中力を高め、より早い成長が見込まれるのです。
第三の復活のリスクですが、これが皆さんにとって最大のリスクです。何度もの死は皆さんの精神をとことん傷めつけるでしょう。安息のない不毛な苦しい修行で皆さんはとことんへこたれる事になります」
ヴェルダンディがようやく言い切ったと言わんばかりに大きなため息をついた。
こう何度も死ぬ事の恐ろしさを説明されると翔は胸が苦しくなってきた。恐怖で汗が流れ落ちた。しかし、メロは、急に興味を無くしたようでいつものようにキョロキョロしだした。
(そう言えばこいつは死んだことがあると言っていた)
アメリアの方に視線を向けると、瞠目していた目を開いて落ち着いた様子で女神達の様子を見ていた。
(こいつもだ。経験者の余裕だな)
そんな二人を見ていると、翔も次第に落ち着いてきた。
「次に、このルートの利点だ」
元気に言ったのはヴリュンヒルデだ。
ヴェルダンディが恨めしそうにヴリュンヒルデを覗き見た。ヴェルダンディは不利な点ばかりを言わせられたのを恨めしく感じているようだ。女神様でも良いところを言いたらしい。
「このルートでは、一番最初に『水晶迷宮』を制覇して欲しい。『水晶迷宮』はまぁ、それなりの迷宮だ。迷宮の姿を現して間が無いとても若い迷宮なので最下層の結晶もそれほど成長していないがそれでも魔精結晶は摂取すればそれなりに効果が期待できる。ただ最下層の迷宮結晶は迷宮の魔物をやっつければやっつけるほどに精力を増すのだ。だから皆は三度往復してから結晶を採取するようにな。この迷宮で十度魔精結晶を採取すれば最初の目的はクリアだ。次の段階に入る準備ができるだろう。この迷宮を制覇する頃には随分強くなっている筈だ。頑張ってくれ」
そう言うとヴリュンヒルデは高らかに笑った。
ここで普通ならビビってしまい、「ははっ」などと言って頭を下げるところだが翔は違う。
「ヴリュンヒルデ様は、半神英雄をお集めになっていらっしゃるとか。集まっています?」
「それがなかなか集まらない。ゆえにこのルートを作ったのだ」
ヴリュンヒルデが声を落として言った。
「半神と言うからには、神々の血が混じっている必要があるのでは無いのですか?」
翔が遠慮なく聞いた。
「その懸念はもっともだ。しかし半神とはほとんど神と同等という意味でもある。神々の血が入っているかどうかは無関係だぞ」
ヴリュンヒルデが答えた。
「ヴリュンヒルデ様はオーディン様の娘だと聞きましたが?」
翔が遠慮なく尋ねた。
「我々、戦女神は皆オーディン様の娘も同然だ」ヴリュンヒルデは和やかに答えた。「君が何を気にしているか分からんが、私達も君達もそれほど変わる訳ではない。オーディン様も片目を代償にして知恵の泉の水を飲むなど修行の時は相当無理をされたと聞く。修行次第で君達もオーディン様さえこえる事だが、スカッとした男のような性格のようだ。ヴェルダンディとの話し方の差が興味深い。
「ヴリュンヒルデ様の話を聞いていると勇気が湧いてきます」
アメリアが言った。
「其方は、光の妖精の幼な子のようだな。普通にしておれば自然と強くなろうが、事情があるのか」
「はい。私は受けた仇を何倍にもして返してやりたいと思っています。できることなら今すぐにでも返してやりたいのです」
アメリアが答えた。
「はっはっはっ。勇ましいな」
ヴリュンヒルデが満面の笑みを浮かべて言った。復讐を果たした満足感を思い浮かべたのだろうか。
「ヴリュンヒルデ様。私は母の敵を探しています。このトライアルを受けるのは有効でしょうか?」
メロが珍しく積極的に話に割り込んできて尋ねた。
「ああ。大いに有効だろう。このトライアルをクリアしたら皆それぞれ何でも一つ望みが叶えられる。仇が誰かぐらいの情報は得る事ができるたろう」
ブリュンヒルデが答えた。
見るとメロは白い可愛い歯を見せて笑っていた。表情の少ないメロには珍しい事だ。メロのやる気が俄然上がったようだ。
「では、頑張ってくれ。ひとまず、このトライアルに入るには、ここ試練の間で試練を受けきってくれ、それに受かればトライアルを受ける事ができる。私の愛弟子の戦乙女レイラ・リンデグレンは本物の半神半英雄だ。その彼女と対戦し彼女に認められる事が最初の試練だ。頑張って試練に受かってくれ」
ブリュンヒルデはそう言うと画面が消えた。
その言葉と同時にとても可愛い少女が現れた。
『レイラ・リンデグレン。15歳。戦乙女。レベル51』
恐ろしいレベルだ。可愛い顔とは裏腹だ。
彼女は可愛い顔でニッコリと笑った。
016 了




