340 メロ始動
ここは、職業の国の首都エール。皇帝イグニシャスⅩⅣ世の宮殿にほど近いとあるお屋敷だ。
元々ここは、とある貴族が所有した屋敷だったが、その貴族は断絶した。その話はともかく。宮殿にほど近く、必要な広ろさを有し、司令部としてふさわし物件で、かつ接収しても影響の少ない物件と言うエリュテイア帝国からの無理難題を職業の国が叶えてくれた屋敷だった。
もちろん、そんな良い物件など都合良く存在し得ない事は、両当事者は、分かっていての要望ではある。強要しないのは心遣いである。
職業の国は、気を利かせて最高の物件を用意してくれた訳であるし、エリュテイア帝国側は、無理するなと言っている訳だから、もし不満が有ってもそれが理由で暴れる気は無いよって気持ちを現した訳なのだ。
と言う訳で、ここには職業の国の司令部が置かれていた。
元々音無魔人騎士団長のエリュテイア帝国最高幹部であるアンジェリーナ・ゾリ女伯が今回のエールに入った時に接収した屋敷だった。
賢人会議メンバーに於いては、新たに天魔神芹那、始祖吸血神メアリ、英霊神ローラ、妖精神アメリアが加わり、天使神レリエルがエリュテイア帝国に帰還した。
そして最高幹部ルディ・ゲール、ヤルデ・ブリューガー、アルバート・メイジア、デコイ・アンデラーデなどと共に、魔人右軍百八十五万人が増援されたのである。
ここには、魔術神メロを含めた五人の賢人会議メンバーの他、魔人左軍と魔人右軍の主だった将軍達が参集していた。
「なかなか良い屋敷ね」
周りを見回しつつ呟くように言ったのは、賢人会議メンバーの一人である天魔神芹那であった。
彼女は、翔の地球における同級生であり、少女を助けようとしてトラックに轢かれて魔王として転生し今に至る。
彼女は、巨大な角を二本、頭から生やし、金色の馬蹄形の虹彩を煌めかせている。伝説にある悪魔のそのものの外見を有していた。背中には、巨大な蝙蝠の羽を思わせる翼を広げている。
なかなか言葉にできないような威圧感のある姿だ。
その彼女の誰に対して発せられたか不明な独り言を拾ったのは、先に職業の国に入っていた魔術神メロ・アルファードだ。
「大体、市街地の人口の五倍もの軍隊を市街地に無理矢理入れるって、馬鹿?」
天魔神芹那に、口を尖らせてメロが抗議した。
少々お冠であるのは一目瞭然だった。メロからすると、部下の魔界帝のルシファー達が殺られて、良い気分では無い上に、せっかく面白くなってきたところを、何を邪魔しに来たんだって気持ちなのであった。
険悪な雰囲気を露にして、馬鹿とか言われた天魔神芹那がムッとした表情になってメロを睨みつけたのは言うまでも無い。
天魔神芹那は、辺りをはばからず威圧感を解放して睨みつけた。周りに将軍級の幹部しかいないから安心しているのだ。
もし、一般人がこの部屋にいたら芹那の覇気だけて死ぬところだ。
賢人会議における二人のレベルの席次は、メロが一位で芹那が二位だ。二人のレベルは、メロが一万一千六百三十二で芹那が九千百五十だ。
ちなみにこの二人が、共に飛び抜けたレベルだとは、エリュテイア帝国の者には常識だ。
そんな二人の喧嘩などは、ここに参集する者達にとっては、悪夢か災害でしかない。
しかも、魔術神メロ・アルファードは、何をするかわからないと言うのが、エリュテイア帝国全ての者の共通の認識だし、芹那は、将軍達魔人族の天敵と言ってもよい悪魔族の最高頂点だ。
ここに参集している将軍達は、ユグドラシル世界の地下に存在する広大な魔界の住人である魔人族達と、大いなる縦穴からアルム街へ向かう途中の穀倉地帯に密かに隠れ住んでいた古の魔人族達を合わせた魔人族の左右軍約三百万人を指揮する将軍達であった。
魔人族は、ユグドラシル世界では、人族から見ると強者として災厄のように忌み嫌われ、悪魔族からすると、弱者として蔑まれるような存在だ。
一般的な魔人族のレベルは、頂点でも悪魔公爵級程度であり、悪魔族からすると中途半端な存在であり、力が全ての魔界では被差別種族でもあった。
人族と外見がぼぼ同じ亜人であるのが特徴だ。
魔界の魔人族には、悪魔族との交配の影響により、悪魔の特徴を持つ者もいるが、全員が黒目黒髪である事が少し特異などけで、ほとんど人族と変わらない外見であるのが魔人族の特徴なのだ。
今回も、その見た目が人間と同等であると言う理由だけで、作戦に選ばれた。
この屋敷に参集しているのは魔人達の指揮官で、三万騎長以上の将軍達だ。三万騎と言う数は、軍の規模からすれば師団クラスとなる。現在的には言えばその指揮官は、少将クラスの将軍である。
もちろん、実力主義のエリュテイア帝国において三万騎長ともなれば、決してか弱い存在では無い。彼等将軍達のレベルは魔界公爵級のレベル五百程度から魔王級レベル千程度もある猛者ばかりだ。
とは言え、レベル一万を超えるメロやぼぼレベル一万の芹那の二人からしたら貧弱としか言えないレベルでしか無かった。
それだけでは無く、彼等は、とある理由で盛大に恐れていた。
その理由とは、この部屋に参集しているほとんどの将軍達よりも格上である魔界帝や魔王達を、目の前の魔術神メロは、小隊の一兵卒としてこきつかっているとのもっぱらの噂だったのだ。
その噂には追加の情報があり、今回の作戦は、恐怖の大帝王陛下の翔でさえ慎重に進めているらしいと言う。大変困難な仕事に違いないのだ。
そして、彼等将軍の目の前には、賢人会議のメンバーの中でも凄い錚々(そうそう)たる五人が勢揃いしてた。この五人のレベルは、賢人会議メンバーの中でも一位から五位までの最高上位陣だった。
その事実だけでも今回の任務が過酷なものになるのは、容易に想像できると言うものであった。
それ故に、彼等も覚悟してこの作戦に参加していたのである。
最高戦力の五人の賢人会議メンバーがここに来ているのに、配下の実行軍が被差別集団であるか弱い魔人族で編成された軍であるのは些か不釣り合いである。
自分達が捨て石や囮なのでは無いかとは、少し頭の回る者であれば容易に想像しうる事だ。
もちろんこれは誤った認識である。翔は、自分の配下は、たとえエリュテイア帝国迷宮に発生した使い捨て規格のモンスターでさえ宝のように慈しんでいて、使い捨てるなどもってのほかであるからだ。
誤解ではあるが、魔人族達は、そのような理由から恐れ慄いて緊張していたのである。
そこに、賢人会議メンバーの飛び抜けてレベルが高いと噂の二人が喧嘩を始めたのだ。
息を潜めて成り行きを見守るしか無い。
しかし、二人の険悪な雰囲気を見て助け舟が入った。
「これは、陛下の御作戦ですよ」
メロの抗議に対して、そう答えたのは、賢人会議第三席の始祖吸血神メアリ・ブラッドだった。
血色の髪に血色の瞳が特徴的な神祖吸血鬼だ。エリュテイア帝国の不死身の吸血鬼の軍団である血薔薇騎士団と血百合騎士団の生みの親だ。
メアリの発言に対してもまだ抗議の声を上げそうにるメロの言葉を賢人会議第四席のローラが遮った。
「メロ様。先ず陛下の御作戦の趣旨をお聞きくださいますか?」
なぜ翔の名前を出しても、争いを止めないんだと言わんばかりの不満な表情だ。もちろん骸骨の顔に表情など無いが、鬼気によって浮き出る彼女の生前の顔には見事な美しさと豊かな表情が見えるのだ。
メロが抗議している理由は、先程も言ったがせっかく面白くなってきた所を、天魔神芹那達がやって来て邪魔されそうだからだ。
ここにいる賢人会議メンバーの五人は、能天気なメロでさえ今回の作戦は、只事でない事を知っていた。それだけにメロも力が入っているとも言えた。
「メロ。作戦会議だぞ。不満は後にして、作戦を聞くんだ」
妖精神アメリアがメロを叱った。
アメリアとメロは、付き合いが長い事もあって仲が良かった。さすがにアメリアに叱られメロもシュンと大人しくなった。
「分かった。ごめん」
メロは、素直に謝って黙った。
「ふふふ。でも安心して。メロさんには朗報よ。翔陛下は、メロさんが自由にして良いって言ってたわ。だからメロさんは好きなように動いて良いそうよ」
芹那は、穏やかに笑いながら言った。
「ほえ? いいの?」
メロはそう言うと周りを見回した。芹那の他、始祖吸血神メアリ、英霊神ローラ、妖精神アメリア達も生暖かい笑顔でメロに頷いた。
その顔は、メロの自由行動を許すという顔だ。
「うん。ありがとう。えへへへ。じゃあベルっち。行くよ」
ベルっちとは、魔界帝ベルゼベブの事だ。
次の瞬間、メロを始め魔界帝ベルゼブブ、魔王ペイモン、魔王ザガンの三人はすっと消えた。
メロが三人を連れてどこかに転移したのだ。メロらしい唐突な転移に残された賢人会議のメンバーはため息を漏らした。
メロはいつも斜め上を行くのは承知だが、想像以上だ。
「あれほど素直に喜んでいるころを見せられると少し申し訳なくなるな」
妖精神アメリアがポツリと呟いた。
「本当。どうやってメロさんを外して作戦会議をするか話し合ったのが不要だったわね。ふふふ。まぁ、メロさんの天才的な勘を信じて彼女は翔陛下の仰っていた通りに自由行動してもらいましょう。じゃこれから本当の作戦会議をしましょう」
天魔神芹那が笑いながら言った。
更新速度亀ですみません。
今後もよろしくおねがいします。
よろしければ評価頂ければありがたいです。よろしくおねがいします。




