012ー3 模擬戦
2019年8月25日文章を分割しました。
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翔とアメリアは相対峙し、剣と英雄イングベルト・ザイフリートの六角棒をそれぞれ構えた。
アメリアが剣を二、三回振る。その斬撃は恐ろしい風切り音を立て、突風を巻き起こした。
正面に立った翔は、魔法で防御壁を展開してその風をやり過ごす。六角棒自体はピクリとも動かなかった。
翔は創造魔法を使い、六角棒に様々な物理法則をオーバーライトしていった。敵の攻撃に対する探知精度を上げるためだ。
防御対象を物体だけでなく、空気の振幅、熱、光線など、あらゆる攻撃や魔法に反応するよう繊細なチューニングを施す。これらの変更により、想定されるあらゆる攻撃に対して最大効率の防御力を発揮できるようになった。
逆に、六角棒自体の攻撃力は限りなくゼロに近くなるよう設定を変更した。むしろ、こちらの調整の方が難易度が高かった。
これならば、もしアメリアに六角棒が接触しても、それなりの衝撃を与えるだけで彼女を傷つけることはないだろう。実戦ならではの細かい設定変更だ。
準備が整ったと合図を送ると、アメリアは黙って頷き、目にも留まらぬ速度で跳躍した。至高者の脚力は凄まじい。
頭上を見上げる間もなく、強力な斬撃が翔の脳端へと振り下ろされた。
アメリアとしては様子見のつもりで、全力の半分にも満たない一撃を放ったつもりだった。
しかし、その鋭い打ち込みに翔は慌てて六角棒を掲げて防ぐ。斬撃ははじき返されたものの、凄まじい衝撃が走った。
ドッカーーーン!!!
爆発音と共に激しい衝撃が翔を襲う。
六角棒が凄まじい勢いで弾かれ、翔の体も後方へと吹き飛ばされた。
「翔!」
メロが叫び、精霊の力を使って翔が壁に激突しないよう受け止めた。
「大丈夫か、翔!?」
驚いたのはアメリアの方だった。彼女の想像を数十倍も上回る威力が発揮されていたのだ。彼女自身の剣にも、無視できないほどの反動が伝わっていた。
アメリアの場合、剣の性能が上がっただけではない。彼女自身の基礎攻撃力も数段向上していたのだ。アメリア自身、まだ自らの能力向上を完全には把握できていなかった。
幸いなことに、武闘家としての訓練を積んでいた翔の体は丈夫になっていた。相当なダメージではあったが、意識ははっきりしている。
「メロ、助かったよ。アメリア……『キュア』の魔法をかけてくれ」
翔の頼みに応じ、アメリアが白魔法の「キュア」を唱える。転職の効果か、以前とは比べものにならないほどスムーズに発動した。
「アメリア、キュアの術式はこう組み立てるんだ」
それでも翔は、術式を組み替えてアメリアの魔法の欠点を指摘する。
「ほう。なるほど。その方が理にかなっているな」
アメリアは素直に頷いた。
「しかし翔、この剣は想像以上の攻撃力だな」
「うむ。だが、まだまだ修正すべき点がある。少しカスタマイズしてやろう。攻撃が炸裂した時、アメリアにも衝撃が返ってきただろう? これでは怖くて思い切り振れないからな」
「そうだな。このままでも凄いが、少しばかりバランスが悪いのかもしれない」
そう答えながら、アメリアは剣を翔に手渡した。
翔は剣を細かくチューニングし、使用者に衝撃が伝わらないよう調整を施す。同時に、自分の六角棒にもアメリアの攻撃力を想定した衝撃吸収の付与魔法をかけた。
そして、再びアメリアと対峙する。
「今度は全力で打ち込んでくれ」
翔は躊躇なく言い放った。
「……本当に大丈夫か?」
アメリアが心配そうに尋ねる。
「大丈夫だ、やってみてくれ」
翔は余裕の笑みを崩さなかった。
アメリアは意を決して頷くと、第二撃を放った。軌道は一撃目と同じ、大上段からの振り下ろし。
その威力は一撃目を遥かに上回っていたが、今度は翔の調整が功を奏した。六角棒は軽く斬撃を受け止め、仕掛けたアメリアの方も、すぐさま次の動作に移れるだけの余裕が生まれていた。
「だいぶ良くなったな。アメリア、次はできるだけ速い連続攻撃をしてみてくれ」
余裕のある翔の声に、アメリアは剣を鋭く旋回させた。それだけで風切り音が鳴り響く。
次の瞬間、アメリアが仕掛けた。目にも留まらない高速の斬撃が、翔のあらゆる部位を襲う。
翔はその全てを六角棒ではじき返した。アメリアはさらにギアを上げていき、攻撃はもはや視認できないほどの速さで全方位から飛んでくる。
それを翔は、的確に六角棒で捌ききっていった。
「翔、凄いな」
アメリアが漏らしたのは、剣の性能に対する感嘆だった。
「こいつは私の攻撃をうまく矯正してくれる。次第に、このリズムが体に馴染んできたぞ」
その言葉通り、アメリアの攻撃は速度も威力も向上していく。だが翔も同様で、次第に六角棒の扱いが洗練されていった。
翔は攻撃を受けながら創造魔法を上書きし、六角棒の形状変化を試みる。
まずは棒を細長い剣に変え、打撃ではなく斬撃を繰り出した。すると武器は鞭のようにしなって変則的な軌道を描く。
アメリアは大きく飛び退いて一旦回避すると、剣を回転させて六角棒を絡め取るように弾き返した。
「やるな。だが、剣だけでは防御が心許ない。アメリアにも、自由に操れる強力な盾があれば便利そうだな」
翔はそう言いながら、手で中断の合図を送った。盾を作るための良案を練るためだ。
今すぐ作りたいところだが、盾には相当な分量の金属を要する。アダマンタイトとミスリルの合金を素材にするなら、大量の物質を無から創造しなければならず、今の魔力では到底足りない。
何かいい案はないか。翔は目を閉じ、瞑想に入った。これはアリスに頼るのではなく、彼自身の深い熟考だ。
しばらくして、翔は一つのアイデアに辿り着いた。
無から物質を創るのではなく、今ここにあるミスリルとアダマンタイトの合金を「増量」できないかという試みだ。何もないところから生み出すより、存在するものをコピーする方が負荷が少ないのではないか。
思い立つなり、翔は術式を展開した。六角棒を複製する構成を組み上げる。
MPはごっそりと削られたが、予想通り、完全に無から創るより遥かに少ない消費で、六角棒と瓜二つの合金棒が出現した。
この合金は実に使い勝手が良い。それぞれの金属の特性が活性化されるよう、絶妙な比率で調合されているのだ。イングベルト・ザイフリートの技術には、改めて敬意を表さねばならないだろう。
翔はコピーした棒を、片手で持てるサイズの盾へと変形させた。彼こだわりのレリーフを施すことも忘れない。
そこへ創造魔法による物理法則のオーバーライトと、多重の付与魔法を施していく。
何度も調整を重ね、独特の効果が出るよう微調整する。まるでプログラムを組んでいるような感覚だった。テストを繰り返し、ようやく盾が完成した。
「おい、アメリア。これを使ってみろ」
翔が差し出した盾を、アメリアは瞳を潤ませて受け取った。
「……これは軽いな」
アメリアが感嘆の声を漏らす。
「それは使い手の意志で形を変えられる金属なんだ。もともと魔法耐性が恐ろしく強い素材だが、その上に魔法耐性を強化する付与魔法を何重にも重ねてある。魔法なら大抵はじき返せるはずだ。さらに念じるだけで、防御に最適な形へ変形させることもできる」
言われた通り、アメリアが念じると、盾は様々に形を変えた。
「形状変化もそうだが、その盾の真骨頂はオートガードだ。構えておくだけで、勝手に攻撃を防御してくれる」
翔が操作方法を説明すると、アメリアは驚きで目を丸くし、興奮で頬を上気させた。
「次は俺から攻撃するぞ。盾と剣で防御の練習だ。この棒は鞭のような剣だけでなく、様々な姿に変わるから気をつけろよ」
宣言通り、翔は棒を自在に変形させて攻め立てた。アメリアは剣と盾を駆使し、どんな攻撃も鮮やかに凌いでみせる。
翔の攻撃は変形剣が主だったが、時には剣を複数に分裂させて個別に動かすなど、変化に富んでいた。三本を超えるとアメリアも苦戦を強いられるようだが、本数を増やすと翔の方も制御の術式が追いつかなくなる。操作は一筋縄ではいかない。
練習でMPを使いすぎるのも惜しいため、模擬戦はそこまでにすることにした。
「よし、そろそろいいだろう。アメリア、次はメロの精霊と戦ってみてくれ。メロ、精霊を『幽体モード』でぶつけてみてくれるか」
幽体状態の敵を攻撃し、その攻撃を回避できるかを試したかったのだ。
メロが水の精霊ニクシーを呼び出した。可愛らしい少女の姿をしているが、パックより上位の精霊であり、危険度ランクも高い。
「ニクシー。アメリアを捕まえて」
メロの命に応じ、ニクシーは丁寧にお辞儀をすると、巨大な奔流となってアメリアを襲った。
アメリアは渾身の力で剣を振るう。
ドカン!!!!
魔法剣から放たれた斬撃波が水流に激突し、爆音と共にニクシーの身体を四散させた。飛び散った水はメロの前で再び集まり、少女の姿に戻る。
ニクシーは肩で息をしており、少し辛そうだ。これで幽体の精霊にも剣の攻撃が有効だと証明された。アンデッドや魔法無効化を持つ魔物を想定し、剣と盾には幾重もの付与魔法を重ねていたのだ。
「ニクシー、ありがとう。解放」
メロが微笑んで礼を言うと、ニクシーは頭を下げて消えていった。
「次はファイアードレーク!」
次にメロが呼んだのは、火の精霊。竜の姿をした、見るからに強力な高レベル精霊だ。
「炎の攻撃!」
ファイアードレークの口から猛烈な火炎が吐き出された。
アメリアは盾を掲げる。盾は瞬時に上下左右へと伸長し、彼女の全身を覆い隠した。
その劇的な変化にアメリアは一瞬驚き、翔の方を振り返った。「これ凄いね」と言いたげな顔だ。
翔が「集中しろ」と身振りで示すと、彼女は真剣な表情で前を向く。
盾は炎を四散させ、微動だにしなかった。炎の余波で、練習用ブース内は煙で真っ白に染まる。
「よし、二人ともその辺にしておこう」
翔が制止し、術式を組んでブース内に充満した煙を一瞬で消し去った。
「翔。精霊魔法、すごくいい」
メロが目を輝かせ、足元でとぐろを巻くファイアードレークを見つめる。
「翔! この盾も素晴らしいぞ!」
アメリアも盾を変形させながら興奮気味に叫んだ。
戦い方の洗練度も能力も、ゴブリングレイトと戦った時とは雲泥の差だ。
アメリアは魔法剣を振るい、盾の自動防御を駆使すれば一線級で戦える。メロも豊富なMPを活かして強力な精霊を使役すれば、直接的な攻撃魔法よりも柔軟な立ち回りが可能だろう。
そして翔自身も、卓越した魔術技能と創造・付与魔法による六角棒の変幻自在な攻防で、十分に渡り合えるはずだ。
懸念点は、三人ともレベルが低いため、素の防御力が心もとないことだ。今の翔には全員の装備を完璧に整えるだけのMPの余裕がない。アメリアの盾を創ったことで、蓄えの多くを消費してしまった。装備の充実は、今後徐々に進めるしかない。翔の最大MPの少なさが、やはりネックとなっていた。
しかしいきなり実戦に赴くより、この練習場で模擬戦を行って正解だった。不足している部分が明確になったからだ。
ふと周囲に目を向けると、ブースの周りには大勢の冒険者たちが集まり、中の様子を覗き込んでいた。彼らは一様に、翔たちの模擬戦の光景に驚きを隠せない様子だった。
「あいつら、レベルを詐称してるんじゃないか? あんなに贅沢に魔法をぶっ放して、MPはどうなってんだよ」
「見たか、あの小僧。煙を一瞬で消しやがった。あれでレベル4だってのか?」
「あの炎の攻撃は何? 全く術式が読み取れなかったわ」
「おいお前ら、あの女の子の前にいる精霊が見えないのかよ」
「あの魔法の棒は何だ? 変形したり分裂したり、盾になったり……」
見物人たちは、実際に目の前で起きた光景が、どうしても信じられないようだった。
誰もがてんでに、驚愕と疑問の声を漏らしていた。
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