012ー2 小鬼と豚鬼はどちらが強いか
2019年8月25日文章を分割しました。
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冒険者ギルドに向かう途中のこと、今日は新生パーティーの再出発という事で、ランククエストを受けることにした。翔がそう言うと、メロもアメリアも翔の言う通りにすると言って詳しく話を聞こうともしなかった。
「お前達。少しはレベル上げのためにはどうしたら良いのか考えて意見を言え」
「面倒臭いから嫌。翔が考えて」
メロはにべもなく突っぱねた。
「作戦を考えるのは下々の仕事だ」
アメリアもふんぞり返って言いかえした。
「パーティー戦は作戦が命だぞ」
翔が説教を始めようとしたが、メロとアメリアは翔に魔法でどんな防具を作らせるかで話が盛り上がっていて翔の言葉を聞こうともしなかった。
「お前ら、わざと無視しているだろう」
二人が一緒に頷くのを見て翔は大きなため息をついたのだった。
そうこうしている内に、冒険者ギルドに着いてしまった。
冒険者ギルドはいつものエントランスからではなくランカー専用サロンの入り口から入った。
いつもギルドに来ると必ず目撃する剣士に扮した女魔術師ミラ・エルナイドがエントランスの方から翔達に陰険な視線を向けて来ていたが、翔達は気にもしていなかった。
サロンには、例のダグ達のパーティーもいた。しかし彼等は翔達に視線も向けて来なかった。
壁にぶつかって強さがあまり上がらなくなった彼らには、新進気鋭のルーキーは目障りで見たくもない存在なのかもしれなかった。
ここにいる冒険者達は、目利きや鑑定などの技を持っていることの多い。それらのランカー冒険者達には、翔達が恐ろしくたくさんの魔法で強化されていることが一目瞭然だった。
何しろ付与魔法のかかった物は高価だ。ただで付与魔法をかけ放題の翔達には冒険者の羨望の視線の意味が理解できていなかった。
悪目立ちし過ぎているのだが、そのような状況が日常だった翔は変に慣れしまっていて逆に気付けていなかったりする。
翔は、サロンにメロとアメリアを残しランカークエスト用の受付カウンターに向かった。
受付嬢は、一般受付のお姉さんとは一目で違いがわかるような美しいお姉さんだった。
『マリージョゼ・リバス。二十五歳。レベル28。鑑定士。魔法騎士』
────アリス。この娘には、職業が二つあるな。
《ダブルと呼ばれる特殊な才能のある者は、レベル25程度になると二つ目の職業に就くことができるようになります。二つの職業の恩恵が受けられるためシングルよりもステータス値が高い者が多いです。翔様もダブルである可能性が高いです》
翔は、アリスの説明を聞いてなるほどと納得した。
「おはようございます。ランククエスト受付にようこそ。ショー・マンダリンさんですね」
顔を見るなり受付嬢が名前を言い当てる。
────鑑定士だから鑑定能力を持っているのだろ?
翔がアリスに尋ねた。
《はい。彼女は、鑑定能力を持っています。さらにギルドの受付は、世界樹ネットの端末を触る事を許されています。情報操作が可能なのです》
────どこまで分かるんだ?
《私とほぼ同じ情報操作が可能です》
────分かった。
「ああ。名前分かるんだな」
翔が感心を装って言った。
「はい。皆さんの名前は、この端末で。ところで、ショーさんに預かり物があります。ショーさんはイングベルト・ザイフリート様と顔見知りなんですね」
「イングベルトさんからの預かり物?」
「そうです。少しお待ちください」
しばらくして受付嬢のマリージョゼが戻ってきた。
「ショーさん。これです」
彼女は、重そうな金属の棒を出した。長さは百五十センチほどで、太さは四センチほどの六角の棒だ。
翔はその棒を持ってみて驚いた。とても軽いのだ。
「イングベルト様からお言付けです。これはミスリルとアダマンタイトの合金だそうです。付与魔法にはミスリルほど適した物は存在せず、アダマンタイトほど魔法耐性の強い金属も無いのだそうです。この合金を付与魔法の勉強のため翔様に進呈するとのことです。さすがに高名な冒険者様。豪気な贈り物ですね」
────アリス。豪気って意味が分からないんだけど?
《はい。ミスリルもアダマンタイトも随分高価です。このような塊ですと恐らく百万金貨以上になるかと思われます。それよりもアダマンタイトは、硬すぎて加工のできない鉱石のようなものです。それをミスリルにどのように溶かし込むのか不明です》
────どうして俺にそんな高価な物をくれるんだ?
《イングベルト・ザイフリート様は、蝕の危機を阻まれた英雄です。年齢からしても多くの財産をお持ちだと思われます。その様な方が自身の財産を分与するのはよく見られる事です》
翔にしてみると、何故自分にという思いが強い。
とにかく手に持ってみるとミスリルとアダマンタイトの合金は付与魔法にとても適している事が分かった。
それに軽くて硬い。美しい金属としても翔が作ろうと考えている武具の材料として適している。この合金を今知ったという事がありがたかった。
☆
「クエストを受けたいんだが」
翔は、受付嬢に申請した。
「承知しました。ショーさんはFランクですので。Fランククエストですね」
「ああ。最難関で、なかなかクエストが完了せず、そろそろFからランクを上げようかと考えているようなクエストはあるか?」
翔は、そう尋ねた。
ゴブリングレイト討伐で、Fランク相当と言っていたから、今の翔達にはFランクはもの足りないと思われたため少し難しいクエストが良いと考えての質問だった。
「それなら、Fランクのパーティーが失敗したクエストがあります。今そのパーティーからランク異議が出ているのでランクが変わる可能性があるクエストですが、いかがしますか?」
「どんなクエストだ?」
翔は、興味をもったので、尋ねてみた。
「豚鬼の群れの退治です。報奨金は、七十金貨となります。異議を出されたパーティーは、翔さん達のパーティーとは因縁のある、ダグ・ファイアーさんのパーティーですけどいいですか」
この受付嬢は何でも知っているようだ。
「あいつらは、どんな異議を言ってるんだ?」
「モンスターが豚鬼ではなく、もっと凶悪な魔物だと言っています。大きさも豚鬼にしては大きすぎるし、角が長くて一本しかないのが特徴の魔物だとの申告です。魔物を一匹でも仕留めていたらどんな魔物か分かるのですが……」
────アリス。今の情報だけで何か分かるか?
《一角岩鬼でしょう。オークの三倍の大きさにまでなる魔物ですが岩鬼種はオークと比べて相当強い魔物です。ユニオーガは、オーガの中では比較的弱い種です。群れはそれほど大きくならないのが特徴です。一匹の個体は、狂戦士化したゴブリングレイトよりは多少弱いでしょう。群れは五十匹程度であることが多い種族です》
────あんなのが五十匹もか?
翔はゴブリングレイトの恐ろしい闘いぶりを思い出して少し躊躇する。
《私の分析ではクエストは問題なくクリアされると思います。しかし、ゴブリングレイトの件も有ります。あるいは蝕の影響で魔物の凶悪化が起こっている可能性も有ります》
────そう言えば蝕、蝕って、よくその単語が出てくるな。それに、土曜日とか、そいつぁ何なの?
《蝕とは、太陽神の力が損なわれる事を指します。原因は魔王の復活と密接な関係が有ります。しかし蝕が魔王の復活に影響しているとも言われ、どちらが原因かは鶏と卵の関係にあります。お互いに関係は有りますが、原因は定かでは無いと言うことです。土曜とは、土属性の魔力が増す現象を指します。そもそも魔族は土属性なので魔王が復活すれば土属性が盛んになるものです》
────今は蝕なのか?
《各所で蝕の徴候が現れていると言われています》
────言われているというのは単なる噂と言うことか。
《噂の域は出ていません。現在蝕警報はいかなる監視機構からも出されておりません》
────よし、そのクエストを受けよう。
翔は即決した。
「クエストを受けよう」
翔は受付嬢に言った。
「承知しました。クエストの成功をお祈りします」
翔が受付からアメリアとメロが待っているラウンジに行こうと振り向いた時、目と鼻ほど近いところに、昨日サロンで出会ったEランクパーティー“矢羽”のリーダー、グアリテーロ・デ・ミータの顔が有った。
翔は驚いて反り返った。
────こいつ、どこにでも出てくるな。
グアリテーロは、イケメン独特のキラキラした笑いを浮かべて翔の間近にたっている。
「ルーキー君。君には驚ろかされるね」
グアリテーロ・デ・ミータの方も何かに驚いたらしい。大げさな仕草で驚いて見せた。しかし驚いたのは別の意味でだ。
「君はあの伝説のイングベルト・ザイフリートを知っているのかい。その武器は、音に聞く伝説の神の手じゃないか。奇跡のミスリルとアダマンタイトの合金の武器。実際にお目にかかれるとは」
翔は、グアリテーロの神出鬼没ぶりに呆れた。
「あんたは、俺に何の用があってそうやってまとわりつくんだ?」
翔が鬱陶しそうに尋ねた。
「すまない。伝説の冒険者の名前が聞こえたのでね。イングベルト・ザイフリート。ドワーフの英雄だねぇ。第八番目の蝕で魔王討伐を成し遂げたパーティーのメンバー。付与魔法師と戦斧師のダブル。ミスリルとアダマンタイトの戦斧を縦横無尽に振るったと言われているが、戦斧とは思えない『神の手』の形状描写が物議を醸しだされているんだよ。でも本当に六角棒なんだね。彼は全盛期には、信じられないが生きる災害、巨竜種を単独で屠ったんだよね」
グアリテーロは長い言葉を淀みなく述べた。
「よく喋る男だな。ネットの文字を棒読みしてるみたいだぞ」
翔は、グアリテーロに遠慮なく突っ込みを入れた。
一瞬、グアリテーロの饒舌が途切れた。そして、彼は苦笑してから、スッと翔の耳元に口を寄せてきて小声で言った。
「翔くん。君は驚くべき慧眼の持ち主だね。確かに僕は世界樹ネットの閲覧権を持っているよ。君には驚かされるね。君のような初心者からネットの話題がでるとはね」
グアリテーロはそこで大きく肩をすくめて見せた。
「グアリテーロ様。そろそろ行きましょう」
サロンの方から“矢羽”のメンバーの女の子がグアリテーロを呼んだ。メンバーの女の子の中で一番若い女の子だ。元気にグアリテーロに手を振っているのが見えた。
「アンジェリーナたん。ごめんね。すぐに行くよ」
グアリテーロは、呼ばれた女の子を振り返って見ると、だらしない猫なで声で返事した。
「それでは、翔くん。また会おう。ユニオーガなどにやられるんじゃないぞ」
グアリテーロも受付嬢の話からクエストのオークが一角岩鬼と予測しているようだ。さすがに世界樹ネットの会員さんだ。
翔は、もはやグアリテーロを無視してアメリアとメロの方に歩み寄った。
「翔。あのキザな奴と仲良しなの?」
メロにかかるとグアリテーロも形無しだ。
「あいつの事は良く分からないな。それよりも、クエストを受けてきたよ」
それから、翔がクエストの説明をした。
「一角岩鬼の討伐か」
アメリアは、剣の柄を握って意気揚々と言った。早く剣を使いたくって仕方が無さそうだ。
「お前は、剣フェチか?」
「フェチとは?」
アメリアが不思議そうに聞いた。
「スプラッターか?」
翔は、言葉が通じないのをいい事に、もっと酷い言葉を使った。
「人を吸血鬼のように言うな」
アメリアが翔の揶揄を理解して切り返してきた。
────アリス。一度聴こうと思っていたんだが、俺の言葉はなぜこのユグドラシルで通じるんだ? 時々通じない言葉もあるし。
《魔法により、言語変換が掛かっています。翻訳できない場合は、音をそのまま伝えます》
アリスは簡単に答えた。ユグドラシルでは言語障壁なんて無いのだろうか。
翔はクエストの挑戦の前に、イングベルト・ザイフリートから託されたミスリルとアダマンタイトの合金の特徴を確認する事にした。
「アメリア。ギルドの練習場を借りて模擬戦をしてもいいか? お前もその剣の特性を知っておいたほうが良いだろう」
翔の提案にアメリアの顔が綻んだ。剣が使えるから喜んでいるのだ。
翔はアメリアの剣に仕込んだ付与魔法からミスリルとアダマンタイトの棒にどのような付与をするか考えてみた。
自分に致命傷を与える物体をレーダーのように捉え、それをめがけて自然に飛んで行って攻撃を防御するようにしてみる。
もし多方向から攻撃を仕掛けられたら盾のように広がったり形状を変化するように設定する。
それだけの魔法をかけるために創造魔法を三度、付与魔法を三度かけた。
☆
ギルドの練習場は、二十メートル四方ぐらいのブースだった。ブースは十個あり、分厚いガラスで仕切られていた。ガラスは、何層にもなっていてそれぞれの層のガラスに様々な防御系の付与魔法がかけられているようだった。
翔は、随分と、進んだ設備に驚いてしまった。
少々の攻撃を受けても守られる仕組みになっているようだ。その構造や付与魔法の仕組みは翔には、とても参考になった。
翔達は、さっそく空いているブースに入った。メロは、自分もブースに入ると言って聞かなかった。
好きにさせる事にし、そのかわり翔は、メロに強そうな精霊を呼ばせて自身を防御させるように命令した。
魔法の事に関しては、素直に聞くメロだった。
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