012ー1 付与魔法って凄すぎね?
2019年8月25日
この第12話は、二万八千語と長いので七つに分割しました。
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宿屋に着くと、メロもアメリアも既に湯上がりでさっぱりした後だった。
翔は、二人の美しい湯上がり姿を目で楽しみつつ、今日の冒険の話に耳を傾ける。
「それで、メロはゴブリンをやっつけたのか?」
「私じゃない。パックたち。ゴブリンを血祭りにあげた。二百ぐらいいた」
相変わらず単語を羅列するような口調だが、メロは明らかに自慢げで、鼻の穴を少し膨らませている。
翔は、そのドヤ顔を受け流してアメリアに視線を移した。
「アメリアは、その時何をしていたんだ?」
「私はパックに補助魔法をかける練習をしていた」
アメリアも負けじとふんぞり返って答える。彼女がこうして偉そうに振る舞うのは、スタイルの良さが強調されるため、翔としては好ましい光景だった。
不思議な紫色に滲んで見える美しい長髪が、湿り気を帯びて彼女の色っぽさを際立たせている。
「お前は、どんな白魔法を使えるようになったんだ?」
「治癒系の『キュアー』、防御力強化の『ディフェンスフル』、攻撃力強化の『オフェンスフル』、魔法耐性強化の『リパーシブマギカ』、そして速度向上の『アーリ』といったところだな」
「急にそんなに使えるようになったのか?」
翔が驚くと、アメリアは何でもないという風に続けた。
「前から使えたが、効率が良いとは思えなかったのだ。何しろ以前は黒魔術系の魔法剣士だったからな」
「アメリア、すごかったんだよ。『キュアー、キュアー、キュアー』って連発してた」
メロは湯上がりで頬を赤く染め、濡れた金髪をキラキラと輝かせながら、楽しそうに話に加わった。少女たちの美しさは、点数をつければ間違いなく満点だろう。
翔は目を細めて彼女たちを鑑賞していたが、メロの金髪を見てふと思い出した。
「そうだ。メロ、お前の金髪に似合いそうな髪飾りを創ってやったんだ」
翔は懐から、宿に戻ってから残りのMPを振り絞って創り出した髪飾りを取り出した。
アメリアにはレイピアを買い与えるなどしていたが、以前店でティアラを欲しそうに見ていたメロのことが気にかかっていたのだ。
「お前の綺麗な髪に合うんじゃないか? 防御力がアップする付与魔法もかけておいた」
翔がアイテムを揺らして見せると、メロはベッドから飛び起きて翔のもとへ駆け寄ってきた。
「さっきからのエッチな視線、許す」
メロはそう宣うと、繊細な細工を壊さないよう、いつになく慎重な手つきで髪飾りを受け取った。光にかざしてうっとりと目を細める。
「綺麗……」
嬉しさでトロンとした表情を浮かべるメロの横で、今度はアメリアが物欲しそうな様子を見せた。
女の子はやはり物が好きなのだな――翔はそう感心しながら、マジックバッグから先ほど創った剣を取り出した。
アメリアの視線は瞬時に剣へと吸い寄せられた。剣士の性というものだろうか。
「アメリア、こいつはお前のために創ってみた」
アメリアも顔を寄せて剣を見入る。柄頭から鞘の先までをじっくりと観察し、目を潤ませた。
「見事な剣だな。武器屋の銘入り魔法剣よりもずっと立派に見える。……少し持たせてくれ」
「驚くなよ」
翔が差し出した剣を手にした瞬間、アメリアは感嘆の声を漏らした。
「あっ!」
その驚愕の理由は、想像を絶する「軽さ」にあった。
アメリアはスックと立ち上がると、まずは鞘の装飾に目を凝らした。
そこには、翔が先ほどまでの彼女の姿をモデルにしたレリーフが、金や宝石を配して美しく彫り込まれていた。
「このレリーフは私か?」
「さっきまでのお前を見ていたから、実物を参考に手直ししたんだ」
「綺麗だね」とメロも横から覗き込んだが、すぐにジト目で翔を睨んだ。
「でもアメリア、どうして裸なの? 翔のエッチ」
「裸じゃないだろう、ちゃんと服を……」
言いかけて、翔は焦った。イメージが先行しすぎて、ほぼ全裸に近い姿で具現化してしまったらしい。
「いや、裸でも構わん。気に入った。これほど美しい意匠にしてもらえて嬉しいぞ、翔。感謝する」
意外にもアメリアは全く気にしていない様子だったが、メロの追及は止まらない。
「翔、エッチ。こっち見ないで。そんなこと想像して見てるの?」
「当たり前だ、女の子を見て裸を想像しない奴なんて男じゃない。芸術だよ、芸術。……ほら、お前のも作ってやるから」
半ばヤケになった翔は、羞恥心から逃れるように回復したMPをごっそりと使い、アメリアの直刀と同じ素材を創造した。
そして、わざとアメリアよりも過激なポーズのレリーフを施したメロ用の短剣を即座に作り上げる。
「翔、バカエッチ! 何を創ってるの!」
叫びながら短剣を奪い取ったメロだったが、その鞘の芸術性の高さに、膨らんでいた頬はすぐに萎んだ。
「えへへへ」
自分の胸を隠すように押さえながら、メロはご満悦の表情を浮かべた。
アメリアは二人のやり取りを余所に、剣を鞘から引き抜いた。刀身は光沢を抑えた独特の風合いを放っている。
「不思議な金属だな。この軽さで強度は大丈夫なのか?」
「ユグドラシルには存在しないチタン合金という金属だ。鉄よりずっと硬い上に付与魔法で補強してある。そんじょそこらの名剣よりずっと強いはずだ」
「しかし本当に軽いな」
アメリアが嬉しそうに剣を振ろうとした。
「待て、アメリア。それには色々と付与してあるから、部屋の中で振るんじゃ――」
制止は間に合わなかった。剣撃は恐ろしい旋風を巻き起こし、派手な衝撃音と共に部屋を蹂躙した。
「振るなと言っただろう……」
翔は呆れ顔で、目を丸くしているアメリアを見た。
部屋はめちゃくちゃになり、メロが目を回してひっくり返っていたが、防御付与のおかげで無傷のようだ。
「なんなのだ、この剣は? 斬撃が思った方向に吸い込まれ、いくらでも振り回したくなるぞ」
「だから止めろと言ったんだ。威力がありすぎて部屋が壊れる。……気に入ったか?」
「気に入るどころではない。剣士なら誰もが喉から手が出るほど欲しがる一振りだ」
アメリアは呆然としながらも、その剣をしっかりと握りしめた。
翌朝。三人は宿で朝食を囲んでいた。
アメリアは早く新しい剣を試したくて、ウズウズした様子を隠せない。
「アメリア、戦いたくて仕方ないっていう顔をしてるぞ」
「うむ。腕が鳴るという感じだな。昨夜からずっと剣を振りたくてたまらなかった」
「俺は部屋着姿でお前が剣を振る姿を見ていたいけどな」
昨夜、豊満な胸を揺らしながら剣を動かしていた姿を思い出し、翔が口走る。
「翔、朝からキモい!」
メロの鋭い突っ込みが飛ぶ。翔はメロの頭をグリグリと撫でて誤魔化したが、アメリアまで撫でてほしそうに頭を差し出してきた。
どうやら彼女は、翔が女の子の頭を撫でるのが趣味だと思い込み、剣のお礼にさせてやっているつもりらしい。
食後、部屋に戻ると翔はメロに命じた。
「メロ、お前のローブを持ってこい。付与魔法をかけてやる」
メロは疑わしげな視線を向けながらも、渋々ローブを差し出した。
翔は創造魔法で効果向上の法則を上書きし、防御力、素早さ、そして見た目を華やかにする発光の付与を何重にも重ねた。
通常の素材では不可能な多重付与も、翔の創造魔法と現代の知識を合わせれば可能だった。
「とりあえずの応急処置だ。後でメロ専用の豪華な防具を創ってやるからな」
ローブを着直したメロは、その劇的な変化に驚愕した。
着心地が良くなっただけでなく、身体が驚くほど軽く、HPまでじわじわと回復していく。
「……こんなの聞いたことない。これは、お礼が必要」
メロはアメリアの真似をして、翔に頭を差し出した。翔は苦笑しながらその頭を撫でてやった。
続けてアメリアの防具にも付与を施したが、素材そのものを変換するにはMPが足りず、後日に回すことにした。
最後に自分の装備をどうするか考えたが、ゼロから素材を創造するのは効率が悪いため、まずは武具屋で良質なベースを探すことに決める。
一行は戦力の底上げを実感しながら、経験値を稼ぐべく宿を出発した。
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