011ー2 単独行動
「翔。これからどうするのだ?」
アメリアが改めて聞いた。
「うむ。それだよな」
翔が急に真面目な顔になった。
「俺たち三人は、どうやら本当の意味で今日が冒険者のスタートの日と言っても良いだろう。そこで今後のためにも、俺たちの戦力を皆で把握しておいたほうが良いと思うんだ」
「戦力? 格好いい!!!」
メロが子供のように叫んだ。
はしゃぐメロを放っておいて、翔は続けた。
「俺は創造師になって、物を創造する能力がついたようだ。こんな感じだ」
翔がそう言うと、手のひらに小さな石を創造して見せた。
「ほう。便利な魔法だな。無から有を創るわけか。それじゃあ、金も作れるのか?」
アメリアが尋ねた。
(なるほど)
翔はそれを考えていなかった。
(そんなことを思いつかないとは。錬金術の基本じゃないか)
翔は自分の迂闊さがおかしくなった。
「やってみよう」
翔は金を創造しようと念じてみた。
しかし、手のひらに金の塊が一瞬出現したかと思うと、「禁則事項」という文字が浮かび上がって輝いた。嫌な感じでMPだけが消費される。
翔はその不思議な現象に驚いてアメリアと目を見合わせた。アメリアも驚いている。
翔は試しに手のひらにプラチナを創造してみた。今度は銀色の金属の球ができた。
「おお。銀はできたのだな」
アメリアが言う。
「うむ? こいつも銀じゃないんだ。しかし、試しに銀を作ってみようか」
翔は言われるがまま銀を作ろうとしたが、結果は金と同じだった。
「おかしな能力だな。多分、高価な物は神々によって創造を禁じられているのだろう。ケチな奴らだ」
翔にかかると、神々ですらケチ扱いである。
「そんな不遜な発言は生まれて初めて聞いたぞ」
アメリアが笑いながら言った。
「太古に神々と争った我々ですら、そんな罰当たりなことは言わん」
「まぁそうだな。俺は不遜に見えるかもな」
(ユグドラシルの神々なんぞ、レリエルの暴走を止めもしない無慈悲な奴らじゃないか)
翔はそう思うが、口には出さない。
「まぁ、神々も神の恩恵もいろいろだ。神イコール善ってわけでもない。私も全て敬えと言うつもりはないが、自分の職業の神々を罵倒するのは賢明とは言えんぞ。少なくともその恩恵を受けているのだからな」
アメリアが先生のように説教をした。
「ああ。すまん。気をつけよう」
アメリアの言うことはもっともなので、翔は素直に謝っておく。
「しかし創造師は芸術家でもあるはずだ。これならどうだ?」
翔は今度は、精巧な金細工を創造してみた。金でできた、小指の先ほどの女神像だ。
すると禁則もかからず、像が掌の上にみるみる出来上がった。
「翔、すごい!」
メロが賞賛の声を上げる。
「無粋な金塊や銀塊は創造させぬということなのだな。さすが芸術家肌の神々の恩恵だ。ケチとは違うのか」
今度は念じて、手のひらの上に創造した物を全て消去してみた。創造の真逆の行為だ。
「なるほど。作ったものを消すとMPが少しだけ戻るようだ」
翔はアメリアとメロに説明する。
翔は小さな石ころを出したり戻したりして、創造の法則を理解しようと試行錯誤した。
「創造物を消した時のMPの戻る量は、時間とともに少なくなるみたいだな」
「何とも不思議な能力だな」
アメリアは翔の魔法に見入りながら、つくづくといった様子で呟いた。
翔はその感嘆には答えず、次は剣を出してみた。
大した剣ではなかったが、ごっそりとMPが減った。
翔は出現させた剣を二、三度振ってみた。
「なんと、この剣は振るだけでMPを消費するようだ。剣如きを出して使うのはもったいないな」
「創造師の能力は相当特殊みたいだ。見たところ、魔術で物を創造するよりも制約が多いようだな」
アメリアは単刀直入に感想を言った。
その通りなので言い返すこともできない。
「使い方をよく考えてみないとな」
翔が答えた。
「俺にはもともと付与魔法の能力がある。こいつも使い方がよく分からんけどな」
そう言うと、翔はしゃがんで道端の小石を拾った。
そして石に向かって、大声で念を込めるように話し始めた。
「お前は命じられたら重くなったり軽くなったりしろ」
言い終わると強く握りしめた。
「こんな感じか。重くなれ。うむうむ。軽くなれ。よし、魔法がかかっているな。アメリアもやってみてくれ」
翔はアメリアに小石を渡した。
「ずるい、メロも!」
「お前は待っていろ」
小石を渡されたアメリアは、重さを確かめながら石に向かって命じた。
「重くなれ。……おお!」
翔の真似をしてみると、確かに重くなった。
「軽くなれ」
そう言ってから、小石をメロに渡した。
受け取ったメロが一瞬ニヤリとするのを見て、アメリアは嫌な予感がよぎったが、後の祭りだった。
「思いっきり重たくて重たくて重た……きゃーっ!」
メロが悲鳴を上げて前につんのめった。小石が手から弾け飛ぶように落下する。
小石は派手な破壊音を立てて地面にめり込んだ。
「本当に騒がしい奴だ」
翔が呆れながらしゃがみ、小石に指を置く。
「お前は普通の小石に戻れ」
「翔。こっちの能力の方がいろいろ使えそうだな。早速私の剣や胸当てなどに付与魔法をかけてくれ」
アメリアはその様子を見て驚きながら言った。
「そうだな。だがまだこの能力の欠陥が分かっていない。もう少し待ってくれ」
「次はアメリア。お前は以前とどれほど変わったんだ?」
「私は今、本当の意味で至高者になったのだと実感しているところだ。そもそも体が軽くなった。この羽根は飾りなのかと思っていたが、全く違うようだ。もう少しレベルが上がれば、従姉妹殿と同じように空を飛べるようになるだろう。また俊敏性がかなり向上した。私達の剣術師範がなぜ細剣を使うのか、理由がはっきりしたぞ。武器は軽い方が扱いやすい。翔、先ほどの軽くなる付与魔法をぜひ私の防具にかけてほしい」
「能力の正体が分かれば、かけまくってやるよ」
翔は笑いながら言った。
「アメリア。お前の能力向上は、ステータス全般に及んでいるんじゃないか?」
「そうなんだ。まだよく分からないが、全ての能力で10パーセント以上の上昇が見られるぞ。それと白魔法が沢山使えるようになった。回復系と補助系が多いな」
「おお。そいつは助かるな」
翔は珍しく歓声を上げた。
「俺たちのパーティーで一番欲しかった能力だよ。復活魔法は使えるか?」
「まだ使えんが、至高者の王族は皆使えた。いずれ使えるようになるだろう」
「よし。次はメロ。お前だ。自分の能力を分かる限り言ってみろ」
翔が命じた。
「少し強くなった。以上!」
メロが偉そうにふんぞり返った。
「お前は馬鹿か? それじゃ説明になっていないだろう。試しにパックでも召喚してみせろ」
「はーい」
メロはおどけてサッと敬礼してみせた。
「パック、おいで!」
メロはそう叫びながら精霊魔法を使った。
ドバ!!!!
凄まじい音がした。見るとメロの周りに、パックが何十体も勢ぞろいしている。全てのパックがメロと同じように敬礼している。
大勢のパックが現れて一番驚いているのは、当のメロだった。
「メロ。どれぐらいMPを注ぎ込んだ?」
翔が尋ねた。
「30ぐらい」
メロが軽く答える。
(馬鹿め)
翔は呆れて天を仰いだ。
「メロ。MPは最小限にして、精霊が出てくるのを誘う感じで出すんだ。一遍に30も出すからこんなことになる。お前のMPはこいつらの好物だ。MPがこいつらに行き渡るまで、解放してもらえんぞ」
「ええっ? ずっと離れてくれないの?」
メロは半べそになった。
「しかしメロ、すごい能力の向上じゃないか。昨日も同じぐらいのMPを使って召喚したんだろう? 昨日は一匹しか現れなかったもんな」
「翔、助けて! この子たち怖い!」
メロが悲鳴を上げた。助けての言葉に弱い翔も、自業自得の場合は別だ。
「メロ。さっさとこいつらとゴブリン退治にでも行ってこい。こいつらは仕事をさせんと離れてくれないぞ」
翔は笑って突き放した。
「ええーっ、嫌だ! パックの群れ気持ち悪い!」
メロは首を振って拒絶する。
「こいつらが気持ち悪いことにやっと気づいたか。アメリア、悪いがこれを」
翔がアメリアに渡したのは地図だった。魔術で即席で作成したものだ。一瞬でアリスと交信し、ゴブリンの巣や翔が倒してきた魔物の生息地などを記してある。
「すまんが、俺は付与や創造の魔術をまだうまく使いこなせん。これらの魔法を修めるために、師匠を探して教えを請うてくる。アメリアはメロに付き合ってやってくれ。ついでに自分の魔法の練習もしておいてくれ」
「創造魔法は意外にすごいものだな。こんなものをパッと出されると凄さがわかる」
アメリアは地図を見ながら感嘆の声を上げた。
「いや、それは魔術で作ったもんだ」
翔が答える。
「翔。ユグドラシルでは、こんなものをパッと出せるような魔術師などそうはいないぞ。こんなことができるのに、なぜ創造師などになる必要があるのだ?」
アメリアは不思議そうに聞いた。
「いやいや。創造師になったから創造魔術が使えるようになったんだよ。……まぁ、元の世界では簡単に使っていたがな」
翔は何でもないように言い返した。
「お前らしくないな、翔。お前ならいずれ創造魔術ぐらい自力でできるようになっただろう。つまり、創造師の最大のメリットが無意味だということにならないか? 創造師の能力よりも、魔術による創造の方が制約がない分、使い勝手が数段上ではないか」
アメリアは鋭い指摘をした。
「創造師の能力はまだまだ未知数だ。すごい能力だから、心配するな」
翔は簡単に答えた。
「アリスとかいう女の子がそう言ったのか?」
アメリアが心配そうに聞いた。
「翔、きもい」
メロが急に顔をしかめて言った。
「メロ。お前はその気持ち悪い妖精どもの面倒だけきっちり見て、余計なことを言うな。どっちにしろ、創造師はスペックが高いから、今の俺には他の選択肢はなかったんだ。何より魔術師系になるのは、レリエルとの関係からリスクが高すぎるしな。……そういえば、アメリアにも精霊が見えるんだな」
翔は改めて確認した。
「人族には見えないようだな。この大騒ぎなのに、皆知らん顔をして通り過ぎていく」
アメリアもおかしそうだ。
「じゃあ、アメリア。その騒々しい奴らの面倒を頼む」
「いつもの宿屋で待ち合わせで良いのか?」
「ああ。これを渡しておこう」
翔はアメリアに報奨金の一部を渡した。
「無駄遣いするなよ」
「ああ……。お金を持つのは私で良いのか?」
アメリアは驚いて尋ねた。
「メロに持たせたら、次の日には下らん紛い物の魔道書に変わっている。あいつには小遣いをやっているから気にするな。お前も無一文では敵わんだろう。今回の報奨金は山分けだ。メロの分と俺の分もお前に預けておく」
「ああ。すまんな」
アメリアは本当に申し訳なさそうに言った。
「俺は場合によっては何日か帰れんかもしれん。何かあったらいつもの宿に言づけを送る。じゃあ、メロを頼むぞ」




