011ー1 お姫様
11話を5分割しました。2025年10月7日
冒険者ギルドを出ると、翔はアメリアの隣に並んだ。ふと横顔を覗き込むと、彼女の顔は青白く強張っている。
「お前、さっき王族だって言ってたけど……一体どんな生活だったんだ?」
翔の問いに、アメリアは小さく息をつき、自嘲気味に口角を上げた。
「そうだな。お前たちには、もう少し身の上話をしてもいい頃合いか。まだ出会って二日目だが、不思議とそんな気分だ。……メロも聞いてくれ」
「うん」
メロは、翔とアメリアを繋ぐように二人の間に分け入り、歩幅を合わせた。
「私は、エルフピラタの『至高者宮殿』で育った。そこはエルフピラタで最も高い世界樹の天辺に建てられた場所だ」
「エルフピラタって、いいところなの?」
メロが興味津々に尋ねる。
その瞬間、沈んでいたアメリアの瞳に光が宿った。
「あそこからはミッドガルドを一望できた。世界は、言葉では表現しきれないほど美しかったぞ」
遠い空を見つめる彼女の脳裏には、かつての絶景が広がっているようだった。
「いつもその景色を眺めては、外の世界へ冒険に出ることに憧れていたんだ」
ポツリとこぼした言葉は、幼い日の祈りのようでもあった。
「じゃあ、本当にお姫様だったんだな」
翔が重ねて尋ねる。
せっかく和みかけた空気が、再び陰った。デリカシーのない質問だったのは明白だった。
すかさずメロが角を立てて翔を睨みつけるが、当の鈍感男は「ああん?」と首を傾げて睨み返す始末だ。
アメリアは、そんな二人の様子に思わず苦笑した。
「すまん、感傷に浸りすぎたな。……実を言えば、私の母は先代の王の娘だが、父は一般人の至高者だ。だから、正確には私は王族ではない。父が誰かも知らぬまま、母も幼い頃に亡くし、私は祖父の手で育てられた。可愛がられているつもりだったが……このザマだ。結局、私はただの『お荷物』だったということだろう。正直に言えば、いまだに祖父ではなく、別の誰かが裏切ったのだと思いたいのだがな。……だが、そんな甘い現実は期待できまい」
アメリアは、己の痛みを突き放すように淡々と語った。
「お前は、強いな。自分の生い立ちをそんなに冷静に話せる奴なんて、そうはいないぞ」
翔はそう言うなり、アメリアの頭を乱暴に、けれど温かくぐりぐりと撫で回した。
「……翔は、女子の頭を撫でるのが趣味なのか?」
アメリアは乱れた髪を落ち着かせながら、不思議そうに尋ねた。
「つい手が動いちまった。頭以外を触るのは、いろいろと憚れるからな」
大真面目な顔で答える翔に、メロが頬をこれ以上ないほど膨らませて割り込む。
「気持ち悪い! デリカシーなし!」
「なんだよ。お前も撫でてほしいのか?」
翔がニヤけて手を伸ばすと、メロは手にした杖でぴしゃりとその手をブロックした。
「ダメ! バカ翔! このエッチ猿!」
「誰が猿だ!」
わめき散らす翔の姿に、アメリアの胸のつかえが少しだけ軽くなった。
「ふふっ……。お前たちを見ていると、本当に毒気が抜けるな」
「アメリア、笑顔のほうが素敵だよ。悲しい顔は似合わないもん」
メロがアメリアの手を握り、嬉しそうに微笑む。
「ありがとう、メロ。お前はいつも健気で、太陽のようだな」
「へへっ、そうかなぁ?」
「こいつはただの能天気なんだよ。何も考えてないだけだ」
茶化す翔に、アメリアがメロの頭を優しく撫でながら返した。
「だが翔、それでこそ我らのマスコットではないか?」
「……まあ、マスコットって意味なら、たしかに可愛い奴だな」
翔がぶっきらぼうに同意すると、メロの顔がみるみる赤く染まっていく。
「人を動物みたいに言わないでよぉ!!」
珍しく声を荒らげて反論するメロだったが、その激しい反応は、アメリアの目には翔に褒められたことへの必死な照れ隠しにしか見えなかった。




