6:お歌の発表会
*以前アップしていたものを改稿しました。
子供の成長は見守っていて楽しいものだ。
この世界に来たばかりの頃はそれこそ泣き暮らしていたが、今では中々快適な暮らしを送っている。
時折ホームシックに掛かるものの、最近では元の世界を思い出す回数も減った。
それがいいことか悪いことは判らないけれど、そうして麻耶は世界を受け入れている。
「一番、ラージュ!歌いますー」
にこにこと癒し系のオーラを振りまきつつ、少しばかりの恥じらいを浮かべたラージュは、明るい黄色のメランポジウムそっくりの花を頭の上で揺らして両手を握る。
もじもじと爪先を簡易ステージと化した麻耶の掌に擦り付けつつ、可愛らしい体でリズムを取った。
「くーもは綿菓子、はーなは美味しい♪」
彼の唇から流れる天使のようなボーイソプラノで奏でられる旋律は、下手じゃない分どこか面白い。
どうやら彼らは育ての親である麻耶の知識を成長と共に吸収しているらしく、最近では教えても居ないのに『シンガーソングライターごっこ』が流行っているらしい。
ちなみに現在はラージュのオンステージだが、彼の歌を聞くために座っている麻耶のスカートには他の四人もちょこりと鎮座している。
まるでよく出来た人形のような彼らは、満面の笑みで手拍子をしていた。
ふわふわの髪を揺らして歌うラージュはとにかく可愛い。目尻を淡く染めて上目遣いに見上げながら一生懸命に歌っている感が胸を貫く。
しかしながら彼のコンサートは長く続かない。
理由は単純だ。
「ぜーんぶ僕の好きなものー♪美味しいおやつは正義です♪」
ものの15秒にも満たない歌声が終わると、太ももの辺りから一斉に拍手が上がる。
満面の笑みの神様(候補)たちは、満面の笑顔を浮かべていた。
旋律は割りと綺麗で、ラージュの特徴を捉えた歌は面白いがとても短い。
実際どうなっているのか判らないが、偶に麻耶の腰ほどの高さにある雲は綿菓子の味がして、ついでに花が美味しいとは、花の蜜をおやつにしているからこその感想だろう。
食べることが大好きな彼らしい『お歌』に、ステージから降りてきた彼の頭を指先で撫でる。
すると心底嬉しそうに微笑んで、照れくさそうにはにかんだ。
次にステージに上がるのはラージュと同じくらい歌が好きなヒナで、機嫌よくラージュと入れ替わると桃色の雛菊の花弁を揺らし踊り始めた。
「二番、ヒナー!歌います!」
ぱちぱちぱちぱちとまた盛大な拍手が起こる。
にっこにっこと上機嫌な笑顔の彼は優雅にターンを決めて歌いだした。
「ぼーくは見た見た♪何を見た♪鼻歌歌う大好きなマヤが、木の根に足を引っ掛けてころりと転んで回ってた♪」
こちらも今の長さで終了だ。
歌の最中に麻耶の名前が出ているが、思わず歌詞に頭を抱えてしまう。
つい先日、あまりの天気の良さに気分が高揚してスキップしていたら、彼の言葉どおりに躓いて転んだ。
周囲を見渡して誰も居ないのを確認していたはずなのに、まさか見られていたなんて。
恥ずかしさに顔が赤くなるのを止められないで視線を下げるが、こちらにお構いなしに次の歌い手がステージに上がる。
羞恥に悶えながらも落とさないよう気をつけて受け止めれば、小さな拍手がぱちぱちと響いた。
ステージに上ったのはピースで、優雅な仕草で頭の白薔薇を揺らしながら一礼した彼は唐突に歌いだした。
「実はわーたしも見てました♪ころころころりと転がって、暫くマヤは蹲る♪持ち上げた顔はお花のように赤く染まって、とってもとっても可愛らしいです♪」
今度こそ地面に突っ伏して、どんどんと地べたを拳で叩きたい衝動を必死に堪えた。
彼に問いたい。何ゆえ、ヒナの歌と連結して物語───と言うか、その時の状況を鮮明に謳うのかを。
つんと取り澄ましたクールな美貌でこの歌は、結構な勢いで麻耶の心に試練を与える。
もう羞恥心で消え去りたいと、掌のステージを維持する気力すら萎えそうになっていたら、優雅に一礼したピースはどや顔でこちらを見上げると、綺麗な顔で艶やかに微笑んだ。
誉めて誉めてと全身で訴える彼に、漸くの思いで感想を搾り出し、指先で誉めるように撫でてやると、ほにゃりと嬉しそうに表情を崩して次の選手と交代する。
彼と入れ替わり立ち上がったのは、エレモフィラ・ラケモサそっくりな花を咲かせるアールで、風もないのに不思議と靡くマントをそのままに元気よく口を開いた。
「今日ーの俺様、凄いんだぜ♪ぴょんぴょこぴょんぴょこぴょんぴょんぴょん♪くるっと回って、はいポーズ♪」
実はアールは神様候補(仮)の中でも一番の音痴だ。
歌詞の中身もよくわからないが、とても楽しそうで思わず手拍子したくなる。
歌にあわせてくるりくるりと飛び跳ねて、最後はフィニッシュといつも身につけているマントを翻してポーズを決めた。
正義の味方というよりは、悪役が高笑いしている姿にしか見えないが、やはりとても可愛らしい。
音痴でも彼は朗々とした声がとてもよく、音が外れても耳に心地よかった。
最後にステージに立つのはマツバボタンを満開にさせているマーボーで、少しだけそわそわした動きを見せた後深呼吸をしてから歌を歌った。
「俺の育てたお花がぁ咲いたよ♪とっても可愛い、黄色いお花♪小さい花びらが五枚並んで♪マヤにプレゼントするって決めたんだー♪でもね、でもね、あんまり可愛いお花だからぁ、俺は~つむことが出来なかったんだっ♪だから~、一緒に見に行くぞ♪みんなで一緒に、見にいーくぞー♪」
恥ずかしそうに頬を染めながら、小さくても透明感がある声で謳う彼は、胸の前で手を組んで必死に思いを綴っていた。
麻耶に対する優しさと、お花に対する愛情と、のんびりしてるけどとても優しい彼らしい歌に、心が本和歌と温かくなる。
マーボーの言葉に目を輝かせた神様候補(仮)の子供達は、きらきらと目を輝かせて麻耶の服を掴むと明日一緒に行こうと視線で強請った。
無言の主張に頷いて、『明日一緒にみんなで行こう』と、マーボーの頭を指先で撫でれば、擽ったそうに首を竦めて照れくさそうに俯いた。
「ねえ、マヤ。僕たちのお歌どう?」
「僕たちのお歌好き?」
「私たちマヤに聞かせるために一生懸命練習したんです」
「俺様たちの歌気に入ったか?気に入っただろ?」
「マヤもっと俺たちのこと好きになった?」
全員が歌い終わると、きらきらとした目をこちらに向けてきた。
混じり気ない純度百パーセントの好意が込められる眼差しに、麻耶はにこりと破顔する。
そして潰さないように小さな彼らを抱きしめた。
「勿論、気に入ったに決まってるよ!それぞれの個性が出ててとっても素敵!」
一人一人の頭を指先でくりくりと撫でれば、頭を抑えてきゃーきゃーと喜ぶ神様(候補)たちは顔を真っ赤にして喜んだ。
「大好きだよ、マヤ!」
「マヤが一番好きだよ」
「マヤが喜ぶなら、俺様たちまた歌ってやる!」
「一生懸命練習します!」
「だからさ、もっともっと俺たちを好きになってくれよ!」
可愛らしい彼らからの可愛らしいお願いに、相貌を崩した麻耶が彼らを愛でるのは当然の結果だろう。




