第一回辺境の村鍛治職人品評会
おかえり ギルハート
狙ったわけではないが、全ての移民が辺境の村に到着した日と第一回辺境の村鍛治職人品評会の開催日は奇しくも同日となった
ホルムから移民の護送をずっと務めてきた騎士団副団長のギルハートも久々の村への帰還となった
集会場前の特設会場は、足の踏み場もないほどに人で溢れかえっている
3万人が見れるはずもないが、少しでも高い所からみようと石造りの家の屋根から眺める者もいる
ガーランドは、特設会場の審査員席に立って村の入り口の方を眺めている
「ギルハートが帰ってきたか! 見ろ!騎士団に胴上げされてやがる!すげぇ人気じゃねぇか!」
ランカスター共和国直属の騎士団は今や、デイジーが議会に頼み込んで村に派遣させた数名だけだ
「ガーランドさん 今日は審査員なんですから お行儀良くしてください」
デイジーに注意される
エルダは隣で笑っている
急遽、品評会の開催が決まったあのあとは大変だった
カルまで皆で走り、鉄を分けてもらおうといろんな店に駆け回り、領主にも会いに行ったが、全て品切れだった
防衛強化で使い果たしてしまっているらしい
鉄不足は今のランカスターの致命位的な問題だ
ならばと、一行は村に戻り、今ある防衛団の防具の鉄部分を解体して、デイジーとエルダの炎魔法を最大出力まで上げて、一気に溶かしたのだ
公平性を期すため、炉はデイジーが土魔法で全て同じ形、同じ大きさに作って集会場前に設置した
槌や金床などは職人にそれぞれ持ってきてもらうこととなった
そして今回の主役の鍛治職人だが、5人が立候補した
首都出身が3人
ホルム出身が2人だ
今回も、地這竜の肉祭りの時と同じように出店が並んでいる
もちろん、現段階の村の最高級品食材である地這竜の尻尾肉の屋台もあるので既に何十メルと行列ができている
そんなに食料も潤沢なわけではないのに、今回もガットが率先して会場を組んで装飾をして椅子なども用意して、今更屋台を辞めるとは言わせない雰囲気を作っていた
「それではこれより、第一回辺境の村鍛治職人品評会を開催します!」
集会場前から大歓声が上がる
司会は声が通りやすく綺麗だと言うことで魔法学校教員のラスターが行なっている
第一種目は昨日防衛団が溶かした鉄での剣の鋳造だ
鋳型はランカスターで一般的に普及しているものが使われる
今回は防衛団が使い古した防具などの鉄を一度溶かして再度、剣にするので難易度が相当高い
技術に差が出るのは、鉄の流し込みと、鉄に含まれる不純物の除去などだ
また、溶かすときに無くなってしまった、足りない成分を適宜補ったりしなければならない
これには熟練の経験と勘がいるため、もしかしたら誰も成功しないかもしれない
そう思いながらガーランド達は職人を見守るが、みな顔色は冴えない
もしかしたら防衛団の装備が無駄になってしまうかと一同が不安に思っていたが、予想は的中してしまった
誰一人、剣を作れなかったのだ
不純物や鉄の再利用の難しさなど全く知らなかった運営側の落ち度ではあるが、職人ならなんとかしてくれるという勝手な期待をしてしまっていた部分が大きい
会場の空気が完全に冷え切ってる中、職人たちのもとにギルハートがやってきた
「ホルムの鉄なら今日運んできましたよ。荷台にあります」
その言葉で、再び会場は熱気を取り戻す
職人の顔も防衛団員の顔も、輝きを取り戻す
再び、職人たちは仕切り直して剣の作成に取り掛かった
結局、見た目の評価や、試し切り、耐久試験を行った結果、一番良かったのは首都出身のエバンスという青年が作った1本だった
耐久試験は剣を固定して、デイジーの岩魔法を順番に硬化させる強度を上げて打っていく
最終的に、デイジーの最大級の硬度の岩でも壊れないかというものだ
ちなみにエバンスの剣でもデイジーの渾身の一撃には耐えられなかった
防具作成も行い、総合的な判断の結果、満場一致でエバンスが優勝となった
ガーランドとダガーによる作成されたばかりの防具と武器を使った実演などもあり、大盛況のうちに第一回鍛治職人品評会は閉幕したのだが、問題はこれからだ
エバンスが藍色の鉱石と竜の棘を加工できるのか、ということだ
次の日になり、まず藍色鉱石の切り出しは村の鉱夫にお願いした
普段から作業しているのだ、慣れっこだろうと思ったら予想以上に苦戦していた
「いつもの石も硬いけど、これはとんでもないな」
と、バルドは息が上がり、汗だくだ
他にも鉱夫は何人か来てくれたが、皆が力を合わせても全く切り出せなかった
「困ったな。どうすりゃいいんだ?」
ガーランドもなす術が無い、と思ったが普段自分がどう戦ってるかを思い出した
「デイジー、このタガネに魔力付与できるか?」
「まずは炎ですかね」
「バルド、あっついから俺がやってみるぞ?」
そう言ってガーランドはバルドからタガネを受け取り、藍色鉱石を削ってみる
ジュッという音がするが、特に見た目に変化はない
鉱石の耐久力の素晴らしさは痛いほどわかったから、もう早く切り出させてくれよとガーランドも見守る人々も皆思ったが、どの魔法でも藍色鉱石を傷つけることさえできなかった
今日は解散しようかという雰囲気が流れ始めたときだった
エルダがさらっという
「竜の棘かけてみたら?」
うまく藍色鉱石を切り出せたら混ぜ込んで剣を作るつもりだったので、竜の棘の粉末状になったものを一応用意してある
「どっちにだ?」
「鉱石側でもタガネ側でもどっちでもいいよ なんか反応すればいいんだから」
早速ガーランドがタガネに粉末をまぶす
それだけだと粉がさらさらで振っただけで取れてしまうので、炎魔法で炙ってタガネに吸着させる
見た目は変わらないが、急にどこか希少なもののように感じてくるし、高級感が出たような気もしてくる
「じゃあ切り出すぞ」
藍色鉱石にタガネを差し込むとするっと切れた
「いや、なんだぁ!? するするだぞこれ」
「すごいです!」
デイジーも手放しで喜んでいる
不可思議魔法反応が起きたら分析を始めるデイジーだが、今はそれよりも切れたことが単純に嬉しいようだ
「じゃあ、エバンス あとは頼んだぞ 俺も手伝うからよ、いい剣作ってくれ」
この前の竜の尻尾肉のお祭りのような感じで、移民の到着に合わせた村のお祭りの一環かと思い、少しでも村を盛り上げようという気持ち一心で参加したのに、いつの間にか大役の責任者に急遽抜擢されたエバンスの顔面は言うまでもなく、蒼白になっていた




