シェリの帰還と領主と盗賊
次の日、カルに偵察に行こうと思っていたデイジーは、まずいことを思い出した
散々世話になったシェリの守備隊にお礼の挨拶をするどころか、避難民の移住がホルムまで終わったこともまだ伝えてなかった
結局サラマンド達はこちらに一切の危害を加えて来なかったし、それどころか首都の防衛をきっちりと行なってくれた
感謝しても、し足りない。この国が落ち着いたら、物理的にもお礼をしなければとデイジーは思っている
まずはこれから精神的なお礼を伝えに行く
ついでにもう1つやりたいことを思いつき、エルダとガーランドを連れて首都へと戻った
シェリの飛空艇はランカスターの魔物調査のために留守にしていることも多かったが、先ほど首都にデイジー達が着いた時は運良く飛空艇が平原に停泊していた
真下にソリをつけると、飛空艇から昇降機が降りてくる
サラマンドとエマだ
「どうした?移住が終わったか?」
この感じ、もしかして挨拶に来るのを待っていたのかとデイジーは気づく
「ええ。おかげさまで終わりました!本当にありがとうございます!」
「礼を言われることじゃない。俺らも調査と解析を進める事ができた。これが突破口になればいいんだが」
「突破口ってなんだ?」
ガーランドが突破口の意味自体を聞いているのか、なんの突破口なのか聞いているのか、わからないような言い方で聞いた
「内緒っす!今は!」
エマがすかさず答える
「内緒かぁ。 まぁ落ち着いたらまた遊びに来てくれよ!村をとんでもない街にしとくからよ!」
ガーランドは豪快に言う
「ああ。楽しみにしとくよ」
サラマンドはガーランドとはほとんど話す事ができなかったが、長い間魔物と戦ってきたであろうこの大男が出す圧倒的な雰囲気に興味があったし、気に入っていた
なんなら尊敬の念を抱いているのかもしれないと、自分のことだが今更気づいた
どんな人生を送ってきたのか聞きたくなったが、今はそんな時ではない
「エルダさんも頑張ってくださいっす!!」
「え?ああ うん。 ありがとう」
なんのことかわからないエルダはただお礼を言うだけだった
「あんたら忙しんだろ?じゃあまた会おう。連絡を取りたい時はこれを使え。まだ試験中のものだが無線機だ。魔法を込めれば動く。俺の持っている無線機と同期させてあるからお互い通じる、はずだ」
「ありがとうございます!」
デイジーはそう言って受け取ると、自然と解散の雰囲気になる
「じゃあな」
なぜか異様に名残惜しい気持ちを感じながら皆、手を振り、別れた
デイジーの思いついた事というのは、巨大歯ミミズの端材だ
まだ少し余っているので3人乗りくらいのソリなら作れるだろう
一旦屋根は要らない、最低限の安全用の手すりだけつけて完成させる
もう慣れたものだ
扇風機だった研磨機はもう風を送るという本来の能力を失ってしまったので、サラマンドから苦い顔をされて贈呈を認められた
結局4人乗りくらいのソリが出来上がった
研磨機も小型の方のソリに積んでエルダが運転してホルムへと戻る
デイジーは1人で大型のソリを乗っているので、ここぞとばかりに魔力全開でぶっ飛ばしている
一緒に出発したはずだが、あっという間に見えなくなってしまう
もしかしたら飛空艇より速度が出ているのでは?とエルダは思った
ホルムに戻ってきてから雷蛙の皮をなめしたものを小型のソリに屋根がわりにつけた
昨日、蛙の皮をなめすのには相当苦労した
皮自体を剥ぐのは簡単だったが、いかんせん臭さとぬるぬるとブヨブヨで使い物にならなかったのだ
少しずつ剥いでいろんな方法を試したが、結局昨日の最適解はデイジーの魔力でごり押すことだった
ホルムは革職人もいたが、話を聞くと薬草でなめし剤を生成してそれにつけるのがいいとのことだったが、かなりの期間つけておかなければならないらしい
そんな時間はないので、魔力でなんとかする
要は熱でドロドロになったり、乾燥した時にカチカチにならなければいいのだ
つまり魔力で覆えばなんとかなるのではと言うのがデイジーの見立てだ
皮に付着した不要な脂肪や肉の部分を絶妙な火加減の炎魔法で焼き切り、とにかく塩水で洗って臭みをとった
その後、デイジーが皮の表面の繊維をがっちりと固定する想像をしながら魔力を吹きつける
最後に風魔法で乾かすときはエルダも手伝った
すると柔らかい弾力性のあるテントのような素材になった
おそらくデイジーしかできないので量産は難しいだろう
塩も内地では貴重な調味料として使われるので、大量に使用できない
今度の課題だ
一旦、剥ぎ取った皮は全て革職人に渡しておいた
4人乗りのソリは思ったより快適で小回りが効いた
沼を越えるのも、川を横断するのもデイジーの風魔法の制御によって少し浮かせながら走行したので何も気にならなかった。
カルまでもあっという間だった
街が見えてくる
が、様子がおかしい
魔物に囲まれているわけではないが、外壁はボロボロで街は静まり返っている
魔物に襲われたのだろう
日が暮れようとしている
「おい!無事か!」
ガーランドが大声で叫ぶ!
ガーランドも一度きた事があるので、なんとなく土地勘はあった
ガーランドが大通りでも呼び続けるが反応はない
「うるさいぞ、ガーランド」
「!!」
「ああ!」
ガーランドとエルダが一緒に驚く
「お前、行商人の爺さんか!? そうだろ!」
「ああ。お前の村ではな」
「!!!!! あなた!無事だったんですか!?」
デイジーが目を見開いている
「ああ。あの日、私は首都には行っとらん。議会にもな。ここにいた」
そこにいたのは辺境の村の行商人兼、カル地方の領主の男だった
エルダは混乱している
「なんだぁ?デイジー知り合いか?」
「以前、議会に乗り込んだ時にこの男がいました。カルの領主だと、辺境の村に人を近づけずに自分が行商人として監視する役目を負っていると、代々その役目があると言っていました」
「なんだそりゃ、爺さんほんとかよそれ」
「ああ。」
「全然旅人が来ないと思ってたけど、そう言う事だったのか!」
ガーランドが怒って暴れ出したらどうしようと思っていたが、ガハガハ笑っている
エルダは領主を睨んでいる
村の発展を妨げてきた張本人だ、簡単に言い表せるような安い感情ではない
複雑に絡み合った怒りだ
「今更だけどよぉ、爺さん、石安く買い叩いてたろ!かなり儲けたんじゃないのか!?」
「いや、儲けてはおらんよ。あれは国に納めていた」
「国に?」
デイジーは突然気になる話が始まったので、食いつくように聞く
「そんなことより、街の者が拐われた。助けてくれんか、ガーランド」
「なんだぁ!?また突然」
「盗賊だ。魔物にこの街も襲われてな。何もできずにただ去るのを待っておったんだが、恐怖からか西に逃げる者がいたのだ。そいつらの1人がまたこの街に戻ってきてな。盗賊に襲われた、助けてくれと」
「いつの話だ?」
「もうあれから3回は日が昇ったかの」
「何にもしてないのか!?」
「兵もおらん、誰もそんなところ行きたがらんのでな」
「なんだそれ!すげぇ嫌な奴らしかいねぇのかこの街は」
「皆、ただ弱いだけだ」




