巨大ソリ、ランカスターを駆け巡る
ではすぐにこのソリを使って避難民を街に届けましょう!とはならなかった
試運転を念入りに行なって修正しなければならなかったのだ
デイジーの風魔法の精度が高すぎるだけで魔法学校の教員では操れなかったのだ
先端はもっと尖らせた方が空気抵抗がなくなり、操作が容易になることもわかったし
風魔法で浮きすぎてしまい、ソリがひっくり返りそうにもなったので比重をもっと下にした方がいいとなった
ガーランドがまた巨大歯ミミズの素材を切り出し、それをソリ底に粘液をたっぷりつけて接合した
段々ソリというより、船のような形になってきた
ソリ底を研磨した方がいいのではないかという話になった時だ
あたり一体の魔物の調査に出かけていたサマランドの飛空艇が帰って来たのだ
助けてもらう代わりにこの国で現れ出した魔物の情報を持ち帰ってもよいと言うことでデイジーと話はついている
ソリを見つけたのか、すぐにやってくる
「上から見えていたが、面白そうなものを作っているようだな」
開口一番に魔物の話をサラマンドさんがしないあたり今回は収穫はなかったようですね、とデイジーは思った
「手伝ってくださるんですか?」
デイジーはもう遠回しな社交辞令的な会話をする気はゼロだ
「内容にもよるが。俺たちに頼んでくるってことは、何かが必要なのか?」
「研磨したいんです。底を」
エルダが言う
「研磨、研磨、、、むー」
サラマンドが頭の中で何か使える物がないか考えているようだ
「あるっすよ!」
エマだ
「ほら隊長あれっすよ!あれ」
「あれ?」
サラマンドはわからないようだ
飛空艇に戻ったエマが何やら大きい装置を両腕に抱えて持ってくる
「これっす!」
「これ、最近出回るようになった風を送るやつじゃないか あー扇風機だろ」
「そうっす!この翼部分をこう!外して」
エマは装置を分解し始める
「この部分が回転することでこの翼が回転して涼しくなるじゃないっすか!? この回転部分にあの甲羅みたいなの付けるっすよ!固いものには固いものっす!自分の体同士なら壊れないはずっす!あの甲羅ちょっと切れるっすか!?」
皆がガーランドを見る
ガーランドは言われるがまま歯ミミズの表面の黒光りを、おおよそ半径50センメルくらいの円状にくり抜いて真ん中に少しだけ穴を開けて装置につける
エルダがエマに何か耳打ちしながら小さい容器に入った何かを渡す
「なるほどなるほどっ!隊長いいっすよね!?」
サラマンドが何がいいのか聞く暇もなく、装置と黒殻の接続部分に容器から取り出した粘液をつけ炎魔法で炙る
今さっき聞いたエルダの助言だ
「はいっす!」
なぜかガーランドに完成した研磨装置が渡される
「お、俺か!?どうやるんだこれ?」
「ここに魔力を込めるっす!」
下部に魔石のようなものが嵌め込まれている
「俺魔法なんか使えないぞ?」
「私が込めます」
デイジーだ
ガーランドはついさっきまで扇風機だったものを持って緩やかな逆三角の形になってきたソリの船底に持っていく
デイジーが魔力を送ると黒殻が回転を始める
「すごい回転っす!」
エマが驚く
ガーランドはゆっくりと回転する黒殻を船底と水平になるように近づける
黒殻が船底に触れる
空気を切り裂くような甲高い金属音が響く
「どうだ?削れたのか?」
「いい感じじゃないっすか!?」
触れた部分が綺麗にツルツルになり黒光りの反射がより一層強くなっている
どうやら研磨成功のようだ
それを見届けると皆、じゃ、あとは頼んだと言わんばかりに手を振って一瞬で散り散りになった
次は自分が扇風機型研磨機を持つ羽目になると思ったのだ
残されたのはガーランドとデイジー、そしてエルダだけだ
ガーランドは研磨に必死で気づいていない
「これあってるかどうかわかんねぇし神経すり減って俺もたねぇぞ!?この装置重いしよぉ〜」
船低の研磨が半分行くか行かないかくらい時だ
今まで夢中で研磨していたガーランドがふと我に帰った
ガーランドはもう腕がパンパンだ
「わかったから。ほら」
エルダから回復魔法で腕がひんやりしてくる
「俺こんな感じで一生エルダにこき使われる未来が見えてきたぞ」
デイジーは何も言わず笑っていた
次の日、ガーランドとデイジーの奮闘により第一ソリの研磨が完了していた
北門前では遂に志願した大人の男女を乗せて初の乗車試運転が行われようとしている
改良前のソリを難なく乗りこなしたデイジーが運転しても意味がないので魔法学校の教員二名が運転することとなった
試験のためソリの上に乗っている大人たちは不安ではなく興奮した表情を皆浮かべている
「行きますよ!」
ラスター一等魔法使い兼魔法学校初等部主任は勢いよく風魔法を噴射させる
ふわっと船底が浮いたかと思うと一気に加速し、ミドガルディス平原を滑っていく
実験は成功だ
「まだ朝ですし、あと何回か試して大丈夫そうであればまずはホルムへ行きましょう」
デイジーはホルム行きの移住希望者に北門に集まるよう促す
いざ移住が始まるとなると緊張や不安が押し寄せて来たのか市民たちの顔がこわばる
「大丈夫だって!」
ガーランドが近くで不安そうな顔をしていた青年の背中を叩く
日がてっぺんから少し西に傾いて来た頃には試運転は滞りなく終わり、約100名の選抜された先行移住者も全員揃った
遂にホルム行きの移住者を乗せる時が来た
「では!行ってまいります!」
ラスターが叫ぶ
「ラスター先生。帰りはゆっくりでいいですからね。魔物に気をつけて。と言ってもそのソリなら多分何が来ても逃げれますよね」
ラスターは頷き深呼吸をして、ゆっくりと魔法を放つ
巨大ソリはあっという間に見えなくなっていった




