飛空艇と黒光り
ミドガルディスで大爆発が起きてから1日が経とうとしていた
昼夜問わず救助が続いている
エルダとデイジーも魔法で瓦礫を取り払っている
昨夜、生き残ったものは比較的損傷が少ない魔法学校で夜を共に過ごした
魔法学校の生徒達が全員無事だったのは唯一の救いだ
あの衝撃波が襲った時、エルダが訳も分からず張った魔法防壁が周り一帯を守ったのだ
「全然よく分からなかったんですけどね。と言っても私は大火傷みたいになってましたけどね」
生徒を引率していた教員にエルダのおかげだと言われて照れ隠しかそんなことを言う
昨日防壁の上で一緒に戦った者達はまだほとんど見つかっていない
今の所、見つかった者で命があるものはデイジーしかいない
デイジーは想像もつかないほどの心労を抱えているだろうが顔には一切出さない
先頭に立ち、救助の指揮を取っている
一度死んだはずなのに、体はボロボロのはずなのにエルダが散々止めても救助を辞めないのだ
共和国議会の面々も全員消息不明だ
そもそも議会場自体がもう跡形もなかった
逃げていればあるいは無事なのかもしれないが、行方はわかっていない
エルダが救助を急ぐのは、もちろん命を救いたいという気持ちが一番だが、もう一つある
おそらく魔物が来る
これだけ魔力が満ちているのだ、魔物が来ないはずがない
例え瓦礫の下で生きていても、また竜に強襲されるかもしれない
あの竜は鉱石を壊したあと、目的を達成したとばかりにミドガルディスに興味を失い、どこか空へ飛んでいった
デイジーは教会に吹き飛ばされてその光景を見ていないので、次またいつ襲ってくるのかと警戒しているのだ
と、竜の羽ばたく音とはまた別の音が空からする
音は瞬く間に大きくなり、重低音が空に響き渡る。
防壁を越え真上まで来てようやく姿が見える
船が空を飛んでいる
姿を現したのは今のランカスターの技術では製造不可能な鈍い銀色に光るシェリ王国の最新鋭の飛空艇だ
最近出来たばかりで従来型よりも速度が倍以上出る
船体が魔石を混ぜ込んだ鋼鉄製というのも、今回シェリ国で初めて製造できた国王お気に入りの自慢の新作だ
甲板には外套を風になびかせながら、身を乗り出して市街を見つめるサラマンドの姿があった
飛空艇は北門近くの平原に垂直に着陸した
一部始終を見ていたデイジーとエルダが急いで平原に駆ける
「ずいぶん大変なことになってるようだ。シェリを代表してきた。敵意はない。助けに来た。」
サラマンドは表情を崩さず淡々とそう告げる
「エマっす!こっちは隊長のサラマンドっす!」
「さんをつけろさんを」
不意に現れたエマの無邪気な明るさと獣人族を初めて見た衝撃でエルダとデイジーの警戒感は急激に下がっていた
この感じで敵意があったら人間不信になる 2人はそう思った
「私はデイジーと申します。今は肩書きなどなくなってしまったも同然ですが昨日までは魔法研究の責任者をしておりました。こちらはエルダさん。私の友人で魔法学校の生徒さんです」
不意に友人と紹介されたことにエルダはにやけてしまう
「助けていただけるというのは本当でしょうか? 市街にはまだ生き埋めになっている方が大勢います。手伝っていただけますか」
「ああ。もちろんだ。最善を尽くそう」
サラマンドがそう言って皆で街に入ろうという時だった
低く重い地鳴りが聞こえる
最初は僅かに聞こえるか気のせいかくらいだったが今ははっきり聞こえる
地中だ
地中から大きいものがこちらに向かってくるような魔力の気配がする
デイジーは誰よりも早くそう気づいた
「下です!下!」
居合わせた全員、一瞬顔を見合わせ打ち合わせでもしたかのようにそれぞれ別の方向に四方八方へと散り散りになる
直後、先ほどまででデイジー達がいたところに轟音と共に太陽に照らされて鈍く黒光した塊が地中から飛び出してくる
体はミミズのような
顔はなんと言えば良いか、表せるものがないが極端に言えば全部口だ
ギザギザの巨大な歯が円状になった口に所狭しと生えている
目はないようだ
デイジーは巨大歯ミミズと心の中で命名した




