天から降り注ぐ絶望
デイジーは無駄に装飾された議会の正面扉を魔法で蹴破って勢いそのままに議会に突っ込み大声をあげる
「見られましたよね!空の光!! 国を代表する貴方達ならどうするべきかもうお分かりのはずです!魔物が来ますよ」
議員達は無反応だ
「いいから!!!市民の方々を逃して防壁に最大戦力を集めてください!!!」
そう言ってまた魔法研究施設へと駆けていく
議員達が指示された通りに動くか動くまいが、伝えるべきは伝えた
義務は果たしたのだ
騎士団を借りていくぞと宣言したようなものだ
もしこれで魔物が来なくてもそれはそれでいい
結果的に市民が無事ならなんでもいいのだ
処分ならいくらでも受けよう
デイジーはそう考え風魔法の助力を得て一気に速度を上げる
研究施設にあるあの鉱石を回収しなくては
防壁まで持っていかなくては
せめてあれを囮にするのだ
魔法学校の生徒達も避難させなくてはならない
エルダは今何をしているだろう
思考が目まぐるしく頭を行き来し酸素が足りないと感じる
「魔物がきます!!!早く街の外へ!!」
走りながらそう伝えても皆反応は薄い ポカンとしている
当たり前だ
生まれて一度も魔物を見たことがないのだ
それでもデイジーは大声で叫ぶ
「信じてください!魔物が来るんです!先ほどの光を見たでしょう!魔力が空に満ちてるんです!」
魔法学校の者たちは異変に気づいており、教員たちがデイジーを見つけ駆け寄ってくる
「市民の避難を!」
遠くからそう叫び、研究施設に入る
時間にしてどれくらい経っただろう
少し夕暮れが近づいてくるかなと言う頃だ
比較的軽傷だった同僚と教員達の力を借りてなんとか砦まで鉱石を持ってこれた
「貴方たちも逃げてください。ここは騎士団と私が」
デイジーはそう言うが同僚は動かない
「私たちも戦いますよ。魔法、撃てますから」
教員たちも同じ気持ちのようだ
「ですが、、、」
デイジーは答えが見つからない
辺境の村から常に報告を受けている騎士団はもう魔物の存在を疑ってはいない
デイジーが知らせに行くまでもなく先に防壁の上に集まっていた
日頃の訓練の賜物であろうと言わんばかりに綺麗な陣形を作り待機している
といってもミドガルディスを囲む防壁は全長にして何キロメルにもなる
全てを守り切るのは無理だ
なので、大弓や投擲機の周りに陣形を組む
デイジーが向いている側の防壁は、眼下に少しひらけたなにもない砂で覆われた平地が広がり、その先は海だ
こちらの戦力はデイジー含む魔法研究職員が10
騎士団が200
魔法学校の教員が10だ
合計220人で迎え撃つ
とはいえ研究職員のほとんどは先ほどの襲撃で既に手負だ
魔法で治したにしても消耗はしている
だが弱気になってはいけない
ガーランド達が100人ちょっとで押し勝っているのだ
私たちもいける
そう思っていた時だった
かすかに空から何かの音が聞こえる
デイジーは人差し指を立てて周りに静かにするよう合図する
最初は船の帆をたたむときのような音かと思った
バサッバサッというような
いや何かが羽ばたくような音だ
雲の隙間から少しずつ音の正体が見えてくる
竜だ
おとぎ話の挿絵でしか見たことがない
あれは間違いなく竜だ
漆黒の体から魔力が漏れ出ているのがここからでもわかる
尾が胴体以上に長い
あの翼が街を覆えば陽が遮られ、闇夜へと変わるだろう
誰も言葉を発しない
現実と受け入れられないのか
防壁にいる全員の血の気が引いていた
どう逃げようかと考えるものはいなかったが
みな、今日までの命だなと覚悟した
まだ魔法も投擲機も大弓も届く距離ではない
市民はみな街から出たであろうか
そう思っていると足元が揺れた
「!!!!」
竜が凄まじい速度で火球を口から吐いたのだ
見えなかった、、
デイジーは焦る
こちらからの攻撃は届かないが
向こうからの攻撃は届く
「皆さん!防いで!なんでもいいですから!防いで!」
水魔法で膜を張るもの
風魔法で風の渦を作るもの
1番多かったのは土魔法で硬度の高い岩の防壁を作るもの達だ
だがそんなことお構いなしに火球が飛んでくる
先ほどのは威嚇だったらしい
間違いなく火球は鉱石を狙っている
もう鉱石をどこかへ運ぶ時間はない
ここで守りつつ竜を討つ
デイジーは瞬時にそう判断し
「鉱石を守って!!」
土魔法の硬度の壁が鉱石を囲む
お構いなしに火球は飛んでくる
鋭い爆発音が土魔法壁から響く
ほんの一瞬、静寂が不意に訪れる
土煙が晴れていく
魔法壁には貫通痕があるが幾重にも重なっている為、まだ鉱石には届いていない
いける!!!
デイジーは素早く指示する
「耐えられます!壁もっと作って!!」
そんな中、騎士団団長は見逃さなかった
「大弓射程内!放て!」
迫り来る竜の殺気を感じながら、今か今かと自分の出番を待っていた騎士団の兵士達は冷静に狙いを定め、弓を放つ
様々な方角から綺麗な放物線を放ち矢が飛んでいく
着弾寸前のその時
パンッ
という音がして矢が落ちた
ただ宙で矢が弾かれた
それだけに見えた
だがデイジーにははっきり感じ取れた
竜が魔法で防御膜を作っているのだ
視認は出来ないが
まだ魔法が届く距離ではない
いや違う
普段ならそうだが今は魔力が高まっている
いけるかもしれない
デイジーが叫ぶ
「魔法でも攻撃を!」
魔力には魔力だ
数の力で防御膜を突き破る
それぞれの得意魔法が七色の光となって竜へと向かう
デイジーの予想通り
魔法の威力は格段に上がっている
が、当たりはすれど、防御膜はびくともしない
ジリ貧な状況に視界が暗くなる
ここで思考を停止してはダメだ
次の一手を
そう考えていた時だった
竜を覆う魔力が格段に上がるのを感じる
竜の口から紫色の光が溢れでる
まずい!!!!
「魔法壁!!最大まで固めて!!早く!!!!」
そう言うか言わないかの刹那
紫の光が鉱石目掛けて放たれる
いや、もう放たれた後だ
魔法壁など関係ない
壁を壊すことなく鉱石に魔力が届く
デイジーは薄れゆく意識の中、天に光が昇るのを見た。




