エルダ、首都に着く
ランカスター共和国の首都ミドガルディス
近隣に敵対する国家はなく何百年と平和が続き土地も豊かなため作物もよく取れるこの国は国民の幸福度が高いことでも有名だが、もう一つ世界的に知られていることがある。
それは、国全体として魔力が薄いことだ
人々は魔力をほぼ使わず自力で生活しているのだ。
反面、近隣の国であるシェリ王国やバージュ王国は魔法が盛んだ。
高濃度の魔石が取れ、それを動力に船や飛空挺も盛んに運用されている。
幸い近隣国王は平和主義者なため戦争になることはないが、仮にもし戦争となればランカスターが一方的に負けるのは目に見えている。
いくら近隣国王が平和主義と言っても、王国内で反乱でもあって武闘派が政権を握れば次の標的はこの国だろう。
目下、ランカスターの目標は魔力源の確保だ。
その国家戦略の中核を担う計画の責任者がデイジーだ。
そしてデイジーは今まさに探し続けた魔力源を見つけ、首都に持ち帰り同僚に研究させている。
課題はどうすれば安全に最効率で、さらに枯渇させることなく魔力を抽出できるかだ。
ただ抽出するだけではない
安全に運用しなければならない
もし無理に抽出しようとして一気に魔力が空気中に放たれ暴走でもしたら坑道の天井にろうそくの火が触れるどころではない。
首都が吹っ飛ぶ可能性すらある
「エルダさん。魔法学校は次の草の日からですのでまずはゆっくりしてくださいね。あとで寮母さんに学校の寮の案内をしてもらいますので、まずはそれまでこちらにどうぞ」
そう言われて案内されたのはデイジーの研究施設の一室だ。
研究施設と言われなければそうとはわからないくらい豪華な宿屋みたいな造りだ。
ふかふかのソファーに上質そうな木で出来たテーブルと椅子。
壁一面に本がずらっと並んでおり奥には一際大きな作業机のようなものがある。
作業机には羊皮紙が崩れんばかりに重なっておりデイジーの日々の激務を想像するのは容易かった。
窓際に観葉植物が飾ってあるのに気づいた
他にも可愛らしい鳥の置物や旅先で見つけたであろうこの国ではみないような刺繍の編み物に綿を入れたものがソファーに添えられたりして所々に女性らしさを感じる。
「ごめんなさいね ここが私の執務室なんですけど私室みたいなものなので、遠慮せずくつろいでくださいね」
「ありがとうございます デイジーさんはこのあとどうされるんですか?」
「村の坑道であった事を同僚たちに伝えに行きます。私たちが研究しようとしているあの鉱石はとんでもない魔力を秘めてるのかもしれません。でも困りました。首都を丸ごと破壊できる爆弾を研究してるかもしれないんですから取扱を細心の注意を払わなければなりません。研究もなかなか進めるのは難しいですね。工程を再度考えなければなりませんし」
「あの石、確かに異質な雰囲気を放ってますけど、常に大量に魔力を放出してるわけじゃないですもんね」
デイジーは頷くと魔力で湯を沸かしお茶を淹れてくれた。
「どうぞ。旅先で美味しい茶葉見つけたんです。」
エルダは礼を言って一口飲む
これまでの旅先の疲れからか体にじわぁっと暖かさが広がる。これまでの旅の緊張感が解けるのを感じる。
思い返せば野盗こそでなかったがエルダにとってはなかなかに過酷な旅だった。
突然大雨が降り出したかと思えば、かんかん照りの日差しになり次の日には渡る予定だった川が氾濫していたのだ。
吊り橋が壊れ迂回する羽目になった
迂回先でも獣に襲われたり、その際に携帯食料を失い、食料を探すために野山を駆け巡り、川で魚を釣ったりもしたがそんな中でもデイジーは何事起きてないと言わんばかりに飄々としている。
当然だが彼女は一人でも世界を冒険できる実力があるのだろう。
獣も一瞬で払い、沼地帯を魔法で固めて馬車を通し、濡れた衣服を魔法で温めた。
もちろん寝る時もいつも魔法で警戒してくれてるのだろう。
年もそれほど離れてるとは思わない彼女はどれほどの経験をしたのか。
どうやって彼女がここまでに至ったのか単純に気になった。
同世代の実力差に嫉妬してはいけない
ガーランドたちの役に立つのだ
必ず魔法学校で主席を取る
エルダはお茶を飲み干すと同時に静かに覚悟を決めたのだった。




