第7話 銀髪幼馴染とプチ修羅場
「なぁ、なんで今日はそんなにも機嫌が悪そうなんだ?」
「別に? 機嫌悪くなんかないし」
「いや、絶対に機嫌悪いだろ」
休み明けの月曜日、隣に座る天雲さんはとても機嫌が悪そうだった。
やっぱり、あの時しっかりバレてたんだな。
どうやって弁解したものか。
いや、そもそも弁解する必要があるのか疑問ではあるのだが。
「なんでそう思うの? 何か心当たりでもあるわけ?」
「そういうわけじゃないが」
「ふん」
珍しくかなり怒っているようでそっぽを向いてしまった。
でも、冷静に考えればこのままのほうが平穏な学校生活を送る分には最適なのではないか?
「なあ、なんで今日あんなに天雲さん機嫌悪いの? 印南なんかした?」
「なんで真っ先に俺が疑われてるのかは知らんが、何もしてねぇよ」
「だよな~転校してからいっつも元気いっぱいだったから、あんな風に機嫌が悪いと少し心配になっちまうな」
「……だな」
おそらくは俺が原因なのだと思うけど、それをここで説明できないので適当に話を合わせておく。
悪いことをしたわけじゃないのに、すごい罪悪感が……
「てか、話は変わるけどよ。三年の水城先輩が凄いイケメンと街を歩いてたって聞いたんだけど、お前なんか知ってる?」
「知るわけないだろ」
「いやぁ~お前と水城先輩って同じ部活だから何か知ってるかと思ったんだけどな」
「知らん知らん。あの人のプライベートとか特にわからんな」
あの先輩のプライベートを知らないのは本当だが、一緒に歩いていたイケメンを知らないというのは嘘である。
なぜなら、おそらくだがそのイケメンというのは俺の事だからだ。
天雲さん以外にも見られているとは。
不覚だった。
「ちぇ、相変わらず面白みのない奴だなお前は」
「そんな俺に関わってるお前は相当な物好きだな」
「うるせぇよ。にしても、水樹先輩かぁ~確かに美人だよな」
「なんだよいきなり」
「いや、あんな美人と同じ部活のお前が羨ましいなって思っただけ」
「じゃあお前も入部すればいいじゃないか」
入部届を出せば簡単に同じ部活で過ごせる。
なんら難しいことは無い。
そう思って伝えたのだが……
「パス。俺、部活とか向いてねぇから」
「なんだよお前」
じゃあ、羨ましいとか言うなよな。
そう思わないでもないけど、まあ良しとしよう。
こいつが文芸部に来たら来たで面倒そうだし。
「朔夜くん。ちょっといい?」
「……どうかした? 天雲さん」
隣から不穏なオーラをビンビンに発している天雲さんが、笑顔で話しかけてくる。
可愛い笑顔ではあるのだが、目が全く笑っていない。
あまりにも恐ろしい光景に、真っ先に宮田が逃げ出した。
「じゃ、俺は戻るわ!」
「ちょ、おまっ」
俺を見捨てる速度がマッハな宮田を睨みつつ、俺は隣でエグイオーラを発している天雲さんに向き直る。
ここからどうしたらいいのか。
必死に頭を回転させる。
「朔夜君? ちょっとお話があるから、お昼休みの時間一緒に来てくれる?」
「……はい」
断われるはずもなく、俺の口から脊髄反射で出てきた言葉は肯定だった。
人間、本能には逆らえないものである。
俺……悪い事してないはずなんだけどなぁ。
◇
「それで朔夜君、昨日私から逃げたよね?」
「なんの事だか」
「私がさっくんを見間違えるわけない! すっごくカッコよかったし」
「……人違いじゃないか?」
なんとしてでも白を切り通したいけど、この幼馴染が相手ではそれも難しいかもしれない。
なんというか、ほぼ詰みのような状況だ。
「無理だから! その言い訳は絶対に通らないからね!」
「……はぁ、わかった。確かにあの時逃げたよ」
「なんで逃げたの?」
「こんな風に面倒ごとになるのが目に見えてたからな」
実際、今こうやって面倒ごとに巻き込まれている。
つまりは、あの時逃げた俺の判断は正しかったというわけだ。
だって、天雲さん一人でもめんどくさいのにそこに詩織先輩が加わるのだから。
面倒な事この上ない。
「むぅ~あの人とは付き合ってるの?」
「そんなんじゃない。買い物に付き合ってただけ」
「付き合ってんじゃん!」
「ええ~」
買い物に付き合うのもアウトなの?
てか、天雲さんは彼女でもないのになんでこんなに詰められないといけないの?
「あんなに美人な人と一緒に街中を歩くなんて!」
「まあ、確かにあの人は美人だとは思うけど」
「ムキィ~私とは目立つからって一緒に居てくれないのに!」
「……」
こんな風に感情をむき出しにして怒っている天雲さんを見るのは初めてだから、少しだけ物珍しさを感じてしまう。
怒り慣れてはいないようで、怒っている姿が少し微笑ましく見える。
「そんなに黒髪美少女が良いなら今すぐにでも染めてきてやるぅ!!」
「待て待て待て!? いったん落ち着け!」
まだ弁当すら食べていないのに、ダッシュで屋上を走り去ろうとする天雲さんを全力で止める。
このまま行かせてしまったらマジで髪を黒く染めてきかねない。
こんなにも綺麗な銀髪をしているのに、それは流石にもったいない。
「は~な~せ~私はさっくんの理想の女性になるの! 黒髪が良いなら黒髪にする!」
「違う、違うからいったん座ってくれ!!」
全力で抵抗するものだから話を聞いてもらうだけでも一苦労。
どんだけ力強いんだよこいつ……
「むぅ、で? 話って何?」
かなり不機嫌な様子で彼女は座っている。
なんとか、止めれたのは良いけどこれからどうしたものか。
「まず、俺は本当に誰とも付き合っていない」
「じゃあ、なんであんなに美人な人と歩いてたの? あんなにオシャレまでしてさ」
「だって、詩織先輩は美人だし隣を歩くんならそれなりの見た目をしないといけないだろ?」
「じゃあ、今度私ともデートして!」
「……」
そう何回もあの姿を見られると、俺が噂のイケメンだってバレかねない。
だから、そうポンポンとあの格好で出歩きたくないんだけど。
でも、多分だけど了承しないと納得してくれないし……
「わかった。今週末でいいか?」
「うん! やった! えへへ」
「だから、教室では変な事言わないでくれよ?」
「わかった! 今週末楽しみにしてるね!」
天雲さんはニッコリと太陽みたいな笑顔を浮かべた。
太陽の光を受けて燦々と光り輝く銀髪はすごく美しい。
こんなにも美しい髪を黒に染めてしまうなんてもったいないにもほどがある。
「ああ、そうしてくれ」
俺はそんな心情を悟られないように微笑んで空を見上げる。
まさか、二週間連続で誰かと出かける羽目になるとは思っていなかった。
でもまあ、久しぶりに会った幼馴染と遊びに行くのはそこまで嫌な気分はしなかった。




