第16話 合宿開始と将来の夢
「それじゃあ、出発しようか!」
「それは良いんですけど、なんで俺の家の前を集合場所にしたんですか?」
「それは気分だね。ほら、荷物は車の後ろに積んでくれていいから。幼馴染君もユア君も」
「「わかりました!」」
俺たちは迎えに来てくれた詩織先輩の家の人の車に荷物を載せてから後部座席に乗り込む。
かなり大きな車で迎えに来てくれて、詩織先輩は本当にお金持ちの家の人なんだなと改めて思った。
「ここから二時間くらいかかるから、各々自由に過ごしてくれ」
「じゃあ、俺は少し寝ます。眠いから」
「ノリが悪いな~後輩君は」
「今、何時だと思ってます?」
現在時刻は朝の七時三十分。
早朝の集合過ぎて、眠い。
眠くて仕方がない。
「確かに朝は早いですよね。朔夜先輩は朝が苦手なんですか?」
「苦手だな。眠いし。中々起きれないから」
「言われてみれば、さっくんって昔から朝弱かったよね」
「そこは変わってないかもな。それじゃ。おやすみ」
背もたれにもたれかかって、俺は目を瞑る。
するとすぐに、心地の良い睡魔が襲ってきて俺はそれに抗うことなく眠りに落ちた。
【理奈視点】
「寝ちゃった。さっくんって本当に朝弱いんだな~」
隣でぐっすり眠ってしまったさっくんの顔を見つめながら、私は昨日のことを思い返す。
緊急事態だったとはいえ、あそこまで醜態を晒してしまうだなんて。でも、おかげでさっくんに抱きしめてもらえたからプラスなのかな?
「幼馴染君~にやけた顔で後輩君を見つめてるんじゃないよ」
「そうですよ、理奈先輩。寝顔を見られる朔夜先輩が少し可哀そうです」
「良いじゃないですか! たまには寝顔を見たって」
「いや……普通は寝顔を見る機会はないと思うんですけど」
後ろに座るユアちゃんがツッコミを入れてくるけど、一旦無視。
今はさっくんの寝顔を堪能したい。
「理奈先輩は朔夜先輩のことが好きなんですか?」
「もちろん! 私はさっくんのことが大好き。今も昔も」
「なるほど。ぞっこんですね」
「そう言うユアちゃんはどうなの? さっくんとかなり仲良くしてたみたいだけど?」
凄く気になる。
目立ちたくないって言ってたさっくんがわざわざ自分からこんなに可愛い子に話しかけに行くなんて凄く気になる。
出来れば、根掘り葉掘り聞きたい。
「う~ん、人としては大好きですけど。恋愛感情はないと思いますよ。一つ年上の親戚みたいな感覚です」
「へぇ~ユア君はそういう風に彼のことを見ていたんだね」
「はい! 最初に助けていただいた時からそんな感じだったので」
「最初に助けてもらった? 何があったの?」
ユアちゃんとさっくんの間に何かがあったのはわかるけど。何があったのかはわからない。
出来れば、聞き出したい。
「私が学校に馴染めずに虐められてる時に、カフェで泣きそうになってたところで話しかけてきてくれたんです」
「……さっくんらしいな」
懐かしい。
私も似たような状況でさっくんに助けてもらったから。
そういう所は、今も昔も変わってないみたいで嬉しくなる。
「そこから、たまに話すようになった感じです。本当に朔夜先輩は優しいです」
「わかる! さっくんは本当に優しくてカッコいいんだよね!」
「お二人さん? そんなに大きな声を出すと後輩君が起きてしまうよ?」
私達が興奮して大きな声を出していると、助手席に座る水城先輩に注意された。
……確かに、こんなにも気持ちよさそうに寝ているさっくんを起こすのはよろしくない。
少しばかり声量を落とすことにしよう。
【理奈視点終了】
「ん、ああ~」
「おはよう、さっくん」
「おはよう天雲さん。ここは?」
「水城先輩の別荘だよ。二時間一回も起きなかったね」
車を降りて周り見渡してみると、森の中にポツンと大きな木製のコテージがそびえたっていた。周りにはこのコテージ以外に人工物らしいものがない。
自然豊かな場所だった。
「ここが、詩織先輩の別荘。めっちゃでかいな」
「そうだろうそうだろう。わが家が誇る自慢の別荘だ」
詩織先輩は胸を張ってふふんとドヤ顔を浮かべていた。
その姿からは普段の凛々しさをあまり感じない。どちらかと言うと無邪気な子供のような表情に見えた。
「凄いですね。本当にこんなにすごいところに泊めてもらってもいいんですか?」
「勿論だとも。どんなに立派な別荘でも、泊まってくれる人間がいなかったらただのゴミだ」
「凄い言いようですね。でも、水城先輩らしいです」
「ありがとう。誉め言葉として受け取っておこう。それよりも、荷物を運んでさっそく勉強会と行こうじゃないか」
「「はい」」
こうして俺たちは別荘の中に荷物を運びこんで、勉強会が始まった。
とは言っても、全員全く勉強ができないというわけでもないのでそこまで根を詰めてやるという事はないが。
◇
「天雲さん、この問題はね」
「うん、うん。なるほど。こっちの式を使うんだ」
「そう。で、この値をこっちに当てはめて計算してみて」
「わかった!」
勉強会が始まり、俺は天雲さんに数学を教えていた。
うちの学校の転入試験を突破しただけはあって、かなり呑み込みが早い。
教えていて気持ちが良い程だ。
「後輩君は教えるのも上手いんだね」
対面に座る詩織先輩がそう声を上げる。
ちなみに、俺たちは今四角い机に座っていて俺の対面に詩織先輩。
右隣に天雲さん、左隣にユアが座っている。
「いえ、天雲さんの呑み込みが早いだけです。俺の教え方はそこまで関係ないですよ」
「いやいや、さっくん本当に教えるのうまいよ! 学校の先生みたい」
「それ、ちょっとわかるかもです。朔夜先輩、将来先生になったらいいんじゃないですか?」
「教師か……考えたことなかったな」
将来何になるかなんて考えてもいなかったけど、良いかもしれない。
人に何かを教えるのは嫌いじゃないし、安定もする。
平穏な生活を送るうえで公務員と言うのは最高の職業かもしれないな。
「良いんじゃないかい? 君はそう言うの向いてると思うぞ」
「ですです! 私の相談に乗ってくれた時とかも、凄く頼もしかったですし」
「さっくんなら絶対にいい先生になれると思うな~」
話の流れ的に俺が教員になることが確定しているような感じになってしまった。
でもまあ、一つの道としてしっかり考えておくことにしよう。
「考えとくよ。そういうみんなは将来の夢とかあるのか?」
「僕は基本的にないね。楽しく過ごせたらそれでいいと思ってるよ」
「自由人な詩織先輩らしい考えですね。凄く良いと思いますよ」
「さっくんの言う通りだね。自由に何かをしながら気ままに過ごしてる水城先輩の姿が目に浮かぶな」
「ちょっとわかります。詩織先輩はそういう感じですよね」
なんともまあ、詩織先輩らしい。
多分、この人は何かに縛られるよりも何者にも縛られない方が成功しそうではある。
「じゃあ、天雲さんはどうなんだ?」
「私はさっくんのお嫁さん! これ以外には考えてないかな」
「……」
何ともまあ、コメントしずらい返答が来たものだ。
俺がコメントに迷って視線を右往左往させていると、詩織先輩がニヤニヤしながら俺の方を見つめてきていた。
これは、いたずらをする前に見せる嫌な表情だ。
「と言っているが、君はどうなんだい? 朔夜」
「……ノーコメントで」
「朔夜先輩、ご愁傷様です」
女性陣が俺のことを面白おかしく弄ってくる。
全く、ここは他の人間の目が無いから良いけど。
「もういいだろ。それよりも、ユアは何かあるのか?」
「私も先生になろうかなって思ってます。朔夜先輩と一緒ですね。にへへ」
「ほう、ユア君も教員を目指していたのか。理由を聞いてもいいかい?」
興味深そうに詩織先輩がユアに尋ねる。
俺も少し興味がある。この中で唯一明確にちゃんとした理由がありそうなユアに全員からの視線が集まる。
「私の髪色がこれですから、昔からよく虐められてて。それで、私みたいな思いをする子が少しでも減らせたらなって思って」
ユアは自分の金色の髪をくりくりといじりながらそういった。
かなり立派な理由だった。
でも、ユアらしいと言ったらそうなのかもしれないな。
「凄く良い! ユアちゃんめっちゃ真面目で可愛い!」
「ちょ、ちょっと理奈先輩。くすぐったいですって」
「おっ! 僕も混ぜてくれ~」
そうして女子三人組がイチャイチャしているのを傍目に、俺は自分のテキストに視線を戻すのだった。
勉強会初日は順調に、仲睦まじく進んでいった。




