第10話 銀髪幼馴染と水族館デート
「さっくん! こっちこっち!」
「悪い。待たせたか?」
「ううん。まだ集合時間の十分前だし。私が早く来すぎてただけだから!」
約束の週末。
俺は髪を整え、眼鏡を外して普段の自分だと悟られないような格好をして駅前に来ていた。
「そか。にしても、その服凄く可愛いな。似合ってると思う」
天雲さんが来ている服は白いワンピースだった。
普通の人が着れば服に着られているような感じになってしまうのだろうけど、天雲さんはそうじゃない。
綺麗な銀髪と白いワンピースがかなりあっているし、青色の瞳がより綺麗に見える。
「そ、そっか。えへへ。ありがと」
「本当に綺麗だと思う」
「そ、そんなに褒めてもなんにも出ないよ? 今日のデート代は全部私が出すね!」
「出てる出てる。とんでもない物が出てきてるから」
何もでないとは何のことなのか。
思いっきりデート代を全額出そうとしてるじゃないか。
流石にそんなことはさせられない。
俺にだってプライドがある。
「ええ~私から提案したから。全然出すよ?」
「いや、遠慮しとくよ」
「そっか。お金無くなったら言ってね!」
「言わないから。てか、ナチュラルに君はヒモを量産しそうな性格だね」
こんな可愛い女の子にお金が無くなったら言ってね! なんて言われたら並みの男たちは普通にヒモになってしまうだろう。
なんて危うい子なんだ。
「……そんなことないよ。私、さっくん以外に興味ないから」
「そ、そうか」
一瞬だけ声のトーンがありえないくらい下がったけど、多分俺の気のせいだな。
うん、気にしないようにしよう。
「それで、今日はどこにいこっか」
「行く場所は決めてるよ。それじゃ、いこうか」
「うん! 凄く楽しみ!」
シンプルに手を繋いで来ようとする天雲さんの手を回避して俺は前を歩く。
今日の目的地は誘われた日にすぐに思いついた。
あの場所なら何の文句も言われないだろうし、天雲さんも楽しめるはずだ。
◇
「ここって……」
「うん。小学四年生の頃に行った水族館。懐かしいだろ?」
「すっごく懐かしい! 一緒の班だったよね?」
「あの時はさっくんが同じ班になってくれないなら遠足に行かないって言ってたからね」
あの時は幼いながらにかなり焦った覚えがある。
結局は同じ班になったし、一緒に回って面白かったから良かったけど。
「……あれは忘れてぇ」
「ごめん。あまりにも強烈な出来事だったから忘れられない」
「そんなぁ~」
天雲さんは顔を両手で隠して、うなだれている。
どうやら、彼女にとっての黒歴史だったらしい。
「そう言えば、あの頃から天雲さんは俺に懐いてくれてたけどなんでなの?」
「それは、さっくんが初めてだったから。私を虐めたり避けたりしない人って」
「ええ……そんなことあるのか?」
「あるよ。あの時、髪は黒く染めてたけど瞳の色はどうしようもなかったから」
「なるほど」
年齢が低い人間は自分たちと違うものを毛嫌いする傾向にある。
言ってしまえば、同調圧力の究極系。
出る杭は打たれるという奴だ。
「それもあって、みんなと仲良くできなかったんだけど。さっくんだけはそんなの気にせずに話してくれて。瞳の色も褒めてくれたから」
「だって、綺麗な青色じゃないか。その銀髪と凄くあってていいと思う」
「そんな風に言ってくれる人、いなかったからさ」
「俺は今も昔も思ったままのことを言ってるだけなんだけどな」
昔から嘘をついたり、取り繕うのがそこまで得意じゃない。
だから、基本的には思ってることしか言わないんだよな。
「それがあの頃の私には響いたんだよ。だから、ありがとね」
「礼を言われるような事じゃない。当時の俺は天雲さんに恩を売りたくてそんなことを言ったわけじゃないと思うから」
「そういう所が好き!」
「ごめんなさい」
流れるように告白をされたので、その告白を右から左に受け流す。
「むぅ~どうやったら私と付き合ってくれるの?」
「……どうすれば付き合えるんだろうな?」
「なんで疑問形!?」
自分自身、どうしたら付き合えるのかわからない。
あのトラウマを克服しない限り、誰かと付き合う事なんてできないのかもしれない。
「だって、俺もどうやったら付き合えるのかわかんないから」
「なにそれ。でも、つまりはさっくんを私にメロメロにさせればいいってことね!」
「なんてポジティブ思考」
全くめげる様子のない天雲さんは羨ましくなってしまうくらいに眩しかった。
俺もあんな風にポジティブ思考になれたら……
そこまで考えて俺は違和感に気が付いた。
「天雲さん、少しお腹減らないか?」
「ふぇ? いや、そんなことないけど」
「そっか。でも、俺がお腹すいちゃったからちょっとあっちの店に行かないか?」
「全然良いけど」
俺は水族館内にあるレストランを指す。
実際お腹はそこまで減ってないけど。
「さっくんってそんな腹ペコキャラだっけ?」
「いや、でも足痛いだろ?」
「……なんでわかったの?」
「歩き方少し変だったから」
駅前からここまで歩かせて、水族館内も歩いているから疲れているだけかと思ったけどおそらく違う。
「そ、そんなことまで気が付くの?」
「まあね。これでも幼馴染だし。靴、新しいの履いてきた?」
「う、うん。靴擦れしちゃって」
「そか。じゃあ、ちょっと座って。靴も脱いでもらっていい?」
「うん」
天雲さんに座ってもらって、靴を脱いでもらう。
俺はしゃがみこんで天雲さんの靴擦れしている部分に絆創膏をはる。
「な、なんで絆創膏持ってるの!?」
「いや、こんなこともあろうかと。備えは常にしてるんだ」
過去にカッターナイフで刺されてから、応急処置が出来る道具を持ち合わせるようになったんだっけな。
それが功を奏した感じだな。
「なんて準備の良さ!」
「ありがとう。どうかな。少しはマシになった?」
「うん! だいぶ痛みは引いたよ!」
「良かった。じゃあ、どうする? 帰るか?」
「いや、もうちょっと回りたい! まだ何もしてないし! せっかくのさっくんとのデートだもん!」
まあ俺はどっちでもいいんだけど、天雲さんがまだ続けたいって言うなら続けるか。
でも、あんまり歩かせないようにしないと。
「わかった。じゃあ、ここで何か食べてから行こうか。せっかくだしね」
「うん! ふぇへへ」
それから俺たちはレストランのメニューにあったパフェを食べて過ごした。
水族館内のレストランだけど、味はかなり良くて天雲さんもかなり機嫌がよさそうで安心した。
「ごめん、俺ちょっとお手洗い行って来るから待ってて」
「わかった!」
天雲さんにそれだけ言って席を立つ。
トイレのついでに会計を済ませて天雲さんの待つ席に戻る。
すると、完全に厄介ごとに巻き込まれていそうな天雲さんがいた。




